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ポルシェの「EVギャンブル」はすべてが裏目に。Eバイク、バッテリー開発部門を閉鎖し追加で500人を削減、多角化を縮小し「本業と燃焼機関への回帰」

ポルシェ パナメーラのテールランプに「PORSCHE」ロゴ

| ポルシェは少し前、「自動車の製造と販売のみでは生き残ることができない」として多角化を進めていたが |

その過程において電動バイクや様々な企業を買収、あるいは投資を手広く行うことに

ポルシェが長年掲げてきた「EV(電気自動車)シフト」という野心的な賭けが今、大きな転換点を迎えています。

需要の減退、利益の激減、そして製品戦略のズレ。

名門ポルシェが下した「本業回帰」という決断、そしてぼくらが愛するスポーツカーの未来に何が起きているのかを考察してみましょう。


この記事の要約(まとめ)

  • 大規模リストラ: 電動自転車(eBike)や電池開発などの子会社を閉鎖し、約500人の人員削減を決定
  • 戦略のUターン: EV専念から「ガソリン車・ハイブリッド車(ICE)」のラインナップ再構築へ舵を切る
  • 主力モデルの危機: マカンのEV移行を急ぎすぎた結果、重要市場で販売の「空白期間」が生じる恐れ
  • 組織再編: 高額な報酬で招いたソフトウェア部門の統合など、経営の効率化を急ぐ
ポルシェ マカン エレクトリックのインテリア(メーター)


ポルシェのEV ギャンブル(賭け)が招いた「本業回帰」の真相

「未来はEVにある」――。ポルシェはこれまで、誰よりも強くそう主張してきたことは誰もが知る通りです。

しかし、現実の市場は残酷で、昨今のEV需要の冷え込みと中国メーカーとの激しい競争によって同社の利益は劇的に悪化し、ついに、拡大しすぎた事業を切り捨ててスポーツカーという「本業」にリソースを集中させる苦渋の決断を迫られているのがポルシェの現在地。

ここでは、なぜポルシェが500人もの仲間を解雇し、期待されていたeBike部門などを閉鎖しなければならなかったのか、その背景と今後の展望について考えを巡らせてみます。

ポルシェは「多角化」を目指していた

時計の針を「数年」戻してみると、当時ポルシェは「今後世界中のクルマはすべて電気自動車になり、個人でクルマを所有するのではなくカーシェアリングがメジャーになる」という予測を立てています。

ポルシェセンター北大阪にて展示されるドライバーズ・セレクションのアイテム

これはフォルクスワーゲングループ全般に通じた思想であり、そのため傘下のブランドは「そういった状況下でも」生き残ることができるような戦略(大衆車ブランドはカーシェアリング対応、プレミアムブランドはより富裕層へとアピールできるように)を採用していたわけですね。

そしてポルシェは「将来、世界中の人々がクルマを趣味として保有することはなくなり、とくにポルシェのようなブランドは存在理由がなくなる」としてクルマ以外の事業を模索し始めたのが2019年くらい。

ポルシェ「将来は自動車を売るだけでは生き残れない。新たなビジネス、投資先を見つけなければ会社が成り立たない」

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この時期を境としてにリマックへと投資したり、電動自転車の会社を買収したり、ソフトウエア会社を買収したり(このあたりは未来のモビリティがすべて電動化されるという1本の線でつながっている)、あるいは合成燃料に投資したり。

ポルシェ マカン 4S エレクトリックのインテリア(ブラック、ステアリングホイール)

ポルシェが電動自転車関連会社をほぼ買収!今後eバイク、電動キックボードなどのエレクトリック/マイクロモビリティに注力してゆくようだ
ポルシェが電動自転車関連会社をほぼ買収!今後eバイク、電動キックボードなどのエレクトリック/マイクロモビリティに注力してゆくようだ

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さらには「空」にも可能性を見出すなど、とにかく多方面へと手を広げたのもこの時期です(この時期ポルシェは非常に”儲かって”おり、冷静な判断を欠いていたようにも思える)。

やはりポルシェは「空」に強い興味があるようだ!エアタクシーに関するレポートを公表し、「200億ドルの投資、勇気と粘り強さが必要だが、市場規模は320億ドルになる」
やはりポルシェは「空」に強い興味があるようだ!エアタクシーに関するレポートを公表し、「200億ドルの投資、勇気と粘り強さが必要だが、市場規模は320億ドルになる」

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その後は御存知の通り大きく事情が変わってしまい、「99%減益」といった衝撃的なニュースをぼくらは目にすることになるのですが、この状況を打開する方法の一つとしてポルシェは「投資先から資本を引き上げる」ことにしたというのがここ最近の流れです。

ポルシェ
ポルシェが363億円を用意しベンチャー企業60社に投資すると発表!リマックのように「成長させ、技術と財政面にて貢献する」企業を模索中

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こういった具合で「あちこちに手を出してしまい、資金を回収できなかったものの」、成功した一つの例がリマックへの投資かもしれません。

ブガッティとリマック、ポルシェ

Image:Rimac

リマック・コンセプト・ワン
ポルシェがリマックへの投資を拡大し出資比率が24%へ!ポルシェはリマックに「稼いでもらう」ことで収益源として活用したい意向のようだ

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というのもポルシェはかなり早い段階でリマックへと投資を行い、その比率を24%にまで拡大してきましたが、その後リマックは時価総額を拡大し、最終的にはポルシェの持ち株を「引き取った」ため、ポルシェとしてはこれによってかなりの利益を得たのでは、と推測しています(株式売却額は非公開)。

ポルシェのエンブレム(取り付け前)
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閉鎖される3つの部門と500人の去就

そしてポルシェは今回、複数の子会社を整理し、コアビジネスへの集中を図る「リセット」を公式に発表することになり・・・。

1. Cellforce Group(セルフォース・グループ)

次世代のリチウムイオン電池開発を担っていた同社ではあるものの長期的な展望が不十分」として閉鎖され、ここでは50名の雇用が失われることになり、モータースポーツへの応用も期待されていただけに、ファンにとってもショッキングなニュースかもしれません。

2. Porsche eBike Performance(ポルシェ・eバイク・パフォーマンス)

電動自転車の駆動システムを開発していた部門であり、しかし市場環境の激変により撤退。最も多い360名の従業員が整理対象に。

Porsche-e-Bike (11)

Image:Porsche

ポルシェが電動自転車(eバイク)のフラッグシップを第2世代にモデルチェンジ。フレームカラーは車体と共通の「ルビースターネオ」「シャークブルー」等がラインアップ
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3. Cetitec(セティテック)

エンジニアリング・コンサルティングを専門としていた部門であり、ドイツとクロアチアの拠点が同時に閉鎖。

CEOのマイケル・ライターズ氏は、「成功のための戦略的再編には、子会社を含めた痛みを伴う削減が必要だ」と述べ、自動車メーカーとしての純粋な姿、さらにはガソリンエンジン重視へと戻る決意を語っています。

ポルシェ・タイカン(ホワイト)のリアサイド
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車種概要と戦略の失敗:マカンの「空白」が招くリスク

今回のEVギャンブルの失敗につき、ポルシェにとって最も深刻なのは看板車種である「マカン」の販売戦略。

  • 早すぎたガソリン車の廃止: ポルシェは今夏、ガソリン車版マカンの販売を終了し、新型EVマカンへ完全移行しようとしていた
  • 需要のミスマッチ: しかし、特に米国市場では依然としてガソリン車の需要が圧倒的。EVへの関心が予想を下回る中、主力商品を失うという「最悪のシナリオ」が現実味を帯びている
  • 2028年までの空白: ガソリン版マカンの開発を終了させていたため、ここから開発を始めて新たなガソリン車やハイブリッド版のマカンが登場するのは2028年頃とされており、今後数年間、ポルシェは最も売れるモデルの一つにおいて大きな穴を抱えることに
ポルシェ・マカンのリア(ブルー)
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市場でのポジショニングと競合比較:中国メーカーの猛追

かつてポルシェの稼ぎ頭だった中国市場でも状況は一変しており、現地のEVブランドが最新テクノロジーを搭載し、かつ圧倒的に安価なモデルを次々と投入する中において、ポルシェの「ブランド力」だけでは太刀打ちできないほど技術と価格の両面で攻め立てられているという状況も。

ポルシェ
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また、社内でもコストの掛かるソフトウェア部門(Car-IT)を研究開発部門へ統合し、年間約1.4万ユーロ(約2.3億円)もの報酬を得ていた役員の存在も議論の的となるなど、組織のスリム化が急務となっているようですね。

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【関連知識】なぜ他のメーカーも「EVオンリー戦略」を中止するのか?

ポルシェの今回の動きは、自動車業界全体に広がる「マルチパスウェイ(多角的なパワートレイン戦略)」への回帰を象徴しており・・・。

  • BMW・トヨタ: 早くからガソリン、HV、EVを並行して開発する戦略をとり、現在好調を維持
  • メルセデス・ベンツ: 同様に「2030年までに全車EV化」の目標を事実上撤回

消費者はまだ、インフラや価格の面でEVへの完全移行を受け入れる準備ができていない――ポルシェの「痛み」は、理想と現実のギャップを埋めるためのしかしあまりに高すぎる授業料だったのかもしれません。

ポルシェ911GT3のカーボンドアミラー

トヨタ
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結論:ポルシェが取り戻すべき「スポーツカーの魂」

ポルシェが今回下した決断は、短期的には非常に苦しいものであり、しかしブランドの核心である「走る喜び」にフォーカスし直すことは長期的なファンにとっては必ずしも悪いニュースではありません。

EVへの投資を完全にやめるわけではありませんが、再び内燃機関(ガソリン車)の磨き上げに力を入れることでポルシェらしい「妥協のないスポーツカー」が戻ってくることが期待されています。

荒波の中、船首を再び「本道」へと向けたポルシェ。その再スタートがどのような名車を生み出すのか、ぼくらは静かに、しかし熱く見守る必要があるのかもしれませんね。

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