
| ポルシェ・グループが新たな投資分野へ |
フォルクスワーゲン・グループとポルシェの株式を保有するポルシェSE(ポルシェ-ピエヒ家、つまり創業者一族が運営する持株会社)が、投資ポートフォリオを防衛セクターへと多様化する意向を示し、投資家を驚かせたとの報道。
これは、これまで自動車事業やモビリティ、産業分野への投資に注力してきた同社の事業範囲を大きく拡大するもので、声明によるとポルシェSEは「他の投資家や強力なパートナーと協力して、投資のためのプラットフォームを構築する」と述べています。
ポルシェは自動車ビジネスの未来に悲観的
なお、ポルシェは様々な会社を買収したり、新たな投資先を探して投資を行うなど積極的に「本業以外」の収入を確保しようとしていますが、これは将来的に「自動車の販売が縮小し、会社が成り立たなくなることを予想したため」です。
ただしポルシェが「自動車の販売が先細りになる」と考えたのは「自動車が個人所有の乗り物から公共モビリティへと移行する可能性が高いため」で、現在のように個人でクルマを何台も所有するという形態が一般的ではなくなると考えたから。
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しかしいま現在、ポルシェにとっての販売縮小は「予想とは異なる形で」、ただし確実に同社の利益を蝕もうとしているわけですが、結果的に(想定とは異なる形になれど)収益構造の多様化がポルシェを救うことになるのかもしれません。
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自動車から防衛へ、ドイツ経済の重心がシフト
ポルシェSEは、昨年3月の決算発表において既にこの(防衛産業への参入という)方針を示唆しており、しかし今回の発表でその戦略を具体化しようとしています。
同社は、防衛セクターへの投資に関心を持つドイツおよび欧州のファミリーオフィス向けにとしてネットワーキングの機会となる「ディフェンス・デー」を間もなく開催するとしており、この動きは、「ポルシェSEは防衛・セキュリティ分野に大きな発展の可能性を見出し、そしてこれを利用するつもりである」という明確なメッセージとなりうるもので、この背景には、二つの現実があると説明がなされています。
- 自動車産業の逆風:現在、フォルクスワーゲン・グループとポルシェは厳しい状況にあり、フォルクスワーゲンは第2四半期に米国の売上が前年比29%減、ポルシェは上半期に中国で28%減を記録。後者の競争激化と前者との貿易摩擦は、ドイツの巨大自動車企業にとって暗い見通しを示している
- 軍事産業の活況:悲しいことに、現在活況を呈しているビジネスは軍事産業である
戦車メーカーがVWを追い抜く時代
米政治専門メディア『Politico』が指摘するように、ドイツの経済的焦点は、伝統的な自動車産業から防衛産業へとシフトし始めています。
その象徴的な兆候として、戦車などの軍用車両を製造するラインメタル社が、今年3月に時価総額でフォルクスワーゲン・グループを追い抜いたという事実があり、さらにラインメタル社は増産のために新たな工場を探していて、その候補として使われていないフォルクスワーゲン工場を検討しているという話も。
これは「まさに時代の潮目が変わった」ことを示しており、フォルクスワーゲングループとしても「この流れに乗らないわけいにはゆかない」のかもしれません。
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創業者から受け継がれる「軍事との関係」
参考までに、ポルシェの創業者であるフェルディナント・ポルシェ自身も第二次世界大戦中のドイツ軍事産業と深く関わっており、彼の最も有名な設計であるフォルクスワーゲン・ビートルは「キューベルワーゲン」、すなわち「ナチス版ジープ」のベースにも。
そのほかフェルディナント・ポルシェ博士はティーガー戦車ほか、実用化されなかったものも含めると迫撃砲などの設計も手掛けており、もともとポルシェは「軍需産業とは関係が深い」企業です。
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しかしながら第二次世界大戦後、ドイツの多くの企業と同様に、ポルシェも軍事関連の仕事を避けるように努めてきたという現実があるのですが(ポルシェ自身はかつて軍需産業と関連があったことを隠そうとしているようにも思える)しかし、世界と国々の情勢が変化し、ポルシェもそれに合わせて変化しようとしている、というのが現在の状況なのだと思われます。
まずは非殺傷分野から
ポルシェが参入する防衛産業分野はまず「非殺傷部門」からだといい、すでに2024年9月、ポルシェSEはドイツのドローンメーカー「クアンタム・システムズ」に投資済み(同社は、偵察・監視ドローンを商用と防衛の両セクター向けに機体を製造している)。
さらにポルシェは声明の中で、「衛星監視、偵察・センサーシステム、サイバーセキュリティ、ロジスティクス・供給システムといった、技術主導型分野に焦点を当てる」とも述べています。
これが倫理的なスタンスなのか、それとも広報上の悪夢(あるいは旧ナチスとの関連性の指摘)を避けるための試みなのかは不明ですが、しかし、ポルシェが将来的に兵器製造によって収益を上げようとするのかどうかは今後の大きな焦点となりそうですね。
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