| テスラの快進撃については、車両の魅力に加え、その革新的ビジネスモデル採用による利益構造が関係していると言わざるを得ない |
どの自動車メーカーも「テスラになりたい」と考えているはずだが
さて、カリフォルニアの自動車市場において、「テスラが第2四半期の販売において、トヨタを上回った」との報道(トヨタの67,482台に対し、テスラは69,212台)。
御存知の通りカリフォルニアは環境に対する規制が厳しく、かつEVに対する補助が充実しているた、そもそもテスラにとって有利な地域ではありますが、わずか4つのモデルしか持たないテスラが「約30車種もの(商用車を入れるともっと多い)」クルマを持つトヨタの販売を超えるのは極めて異例と言えるかもしれません。※かつ、テスラの場合はその車種におけるグレード展開も非常に少ない
アメリカでは「直販」問題が大きくクローズアップされる
なお、日本だとさほど(というか、ほとんど)話題にならないものの、アメリカではテスラが「直販」を行っていることが大きく問題視されており、つまりテスラはディーラーを通さずにクルマを販売しています。
これの意味するところは「ディーラーの取り分がなくなるので、その分安くクルマを販売できる、もしくはそのぶんテスラの利益が大きくなる」。
逆に、自動車ディーラーからすると「もし自分たちがそのクルマを扱っていれば、そのぶんの利益を得られたはず」となるわけですね。
そしてこの「直販」というのはアメリカの伝統を大きく塗り替えるスタイルであり、いわば常識外れの販売手法でもありますが、テスラが(おそらく)初めて取り入れ、しかし多くの自動車メーカーやディーラーの反感を買った手法です。
大まかに言うと、自動車業界というのは「自動車メーカーがクルマを開発して製造し」、それをディーラーに卸して「ディーラーがプロモーションや販売、アフターサービスを担当する」という分担が出来上がっていて(自動車メーカーがプロモーションを負担することも多い)、それぞれの役割を果たすことでそれぞれの利益を得ています。
つまり、ディーラーはディーラーで存在意義があるのですが、テスラの場合は「広告を行わない」「修理については(自社のサービスセンターを最小限に抑え)提携工場に任す」「ほとんどの不具合は無線アップデートで解消」等の対応を行っており、ディーラーの役割を奪い、あるいは無用にしようとしている、ということに。
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これは「インターネット時代だから」「自動車が普及しきった現代」「比較的故障が少ない現代のクルマ」だからこそ可能となるなのですが、自動車黎明期であったり、ネットがなくお金をかけたキャンペーンを行わないと知名度を向上させることができなかった過去には不可能だった話でもありますね。
しかしながら、ディーラーは自動車の普及を助けてきた大きな存在であることは間違いなく、そして雇用や経済効果といった観点からもディーラーの存在意義は小さくなくそのためディーラー協会(北米にはそういった組織がある)がテスラに反発したり、またある州では「オンライン販売を禁じる」といった規制もなされています(よって、規制のある州だとテスラはオンライン販売ができない)。
今後自動車ディーラーは「不要」に?
ただ、上述の通り時代は変わりつつあり、今から自動車ビジネスを始めるとなるとディーラーの存在はそもそも「必要」ではなく、これを通さない展開が可能となります。
これはすでにテスラが証明したとおりで、そのためリビアンやルシードもテスラと同じ「直販」体制を取り、フォルクスワーゲンも新ブランド「スカウト」では直販を行う計画を持っているもよう(当然、フォルクスワーゲンは相当な反発を招いている)。
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こういった「ディーラ抜き」での販売はテスラでなければ(たとえ新興メーカーであったとしても)おそらくは思いつかなかったと思われ、そしてテスラが取り入れることで他社がその有用性に気付かされた構図だと思われますが、これもまたテスラが作り上げた新しい自動車業界のスタンダードだと言えるかもしれません。
そして多くの既存自動車メーカーはいま、「ディーラーに落としている利益を、自分たちで吸収できたなら」と考えているのは間違いなく、どうやってティーラーを切り捨てるのかを思案しているであろうことも想像できます。
なお、こういった例は珍しいものではなく、その産業の成熟とともに業界の構造が変わってしまったからであり、日本だと「ヤナセがインポーターを努めてフォルクスワーゲンを日本に広めたが、広まりきったところでドイツのフォルクスワーゲン本社が直接日本に子会社を作り、ヤナセから輸入権を取り上げた」ことがあり、これは「フェラーリのコーンズに対する対応」も同じです。
つまりは「今まで、そのブランドの成長に貢献してきた会社」であってもバッサリ切られることがあるのがビジネスの世界である、ということですね。
そしてテスラとトヨタに話を戻すと、年間総登録台数ではテスラの123,482台に対し、トヨタは133,375台と依然としてトップを維持しているものの、この数字は前年比でトヨタが6.5%減、テスラが36.7%増ということを高考慮せねばならず、まもなく年間販売台数でトヨタがテスラに抜かれるのは「目前」です。
参考までに、テスラの登録台数のうち74,765台がモデルY(全メーカーあわせてのランキングでも1位)、41,718台がモデル3(同2位)で、トヨタだと最も売れたのはカムリの27,169台(同3位)、ついでRAV4が26,032台(同4位)、そしてランキング5位につけたのはフォード・Fシリーズの21,288台。
こういった現実を見ると、どの自動車メーカーもが「様々な意味で」テスラになりたいと考えるのは当然のことでもあり、ますます競争が厳しくなる自動車業界において「ディーラーに渡っている利益を自社に移管し、それによって利益率を向上させたり利益を拡大し、より安く自動車を販売したり、EVの開発費用をまかないたい」と考えるのもまた当然かもしれません(でないとテスラに対抗できない)。
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