| 様々な事情を総合するに、日本の自動車メーカーは実際に現在の自動車市場の動向を予想していたと考えていいだろう |
日本の経営者は「バブル崩壊」の教訓をしっかり経営に活かしているのかもしれない
さて、ここ最近よく報じられるのが「EV販売の減速」。
これはアメリカ、欧州、中国といった自動車の主要市場において同時多発的に発生しており(日本は元々減速するほどEVが売れていない)、よってEV中心戦略を進めていた各自動車メーカーともその方向性を見直す必要が生じています。
たとえばGMやフォードは「EVの生産を縮小し、かわりに(より売りやすい)ハイブリッド、PHEVの生産を増やす」、EV推進派の急先鋒であったメルセデス・ベンツも「2030年であってもEVの販売比率は50%にとどまるであろう」という見解を決算発表にて示し、ガソリン車の販売期間を延長する方向性を見せています。
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メルセデス・ベンツが「EV集中」戦略を転換し2030年以降もガソリン車を作り続けるとコメント。「2030年であっても、EV / PHEVの販売比率は50%にとどまるだろう」
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そのほか、独自路線にて人気を博していた中国のHiPhi(ハイファイ)も生産休止や給与未払いが生じるなど、つい1年前までとは全く異なる様相を呈しているのが直近のEV業界であるわけですね。
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いま中国で何が起きているのか?「世界一未来的なEVメーカー」、HiPhiが工場を閉鎖し給与未払いと報じられる。EVの供給過剰による「倒産の嵐」が吹き荒れる予兆か
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いったいなぜEVは売れなくなったのか
こういった状況については明確に直接的な原因があるとは考えられておらず、復数の要因が存在すると考えられますが、大きなものだと「需要の一巡」。
まずはアーリーアダプターがEVを購入した後、そこから「保守的な」人々にまでEVが普及せず、ここに「壁」があると言われています。
そのほか、EVの性能そのもの、充電環境が(人々が)期待するものではなく、不便を覚悟してまでEVを購入しようとは大多数の人々が考えないこと、そしてEVの価格がまだまだ高いこと、しかし一部の国や地域では手厚い補助金によるEV販売の下支えがあったものの、補助金が打ち切られたり縮小してEV販売が急速に落ち込んだり、さらには一部地域で記録的なレベルにまで上昇した金利が原因で高額なEVが売れなくなったという事例も報じられ、「まだ製品として、そして使用する環境についても成熟していない」EVを急速に(あるいは無理矢理に)進めてきた”ツケ”が回ってきたのかもしれません。
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そして、そもそもEVそのものが「消費者の求める製品ではなかった」ということはEVの中古相場に如実にあらわれているようにも思います。
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日本の自動車メーカーは「長期戦」でこの戦いに臨んでいた
ただ、こういった「戦略の見直しを迫られている」状況においても日本の自動車メーカーはその姿勢を大きく変えていないということが報道されており、それは裏返すと「計画通りに状況が推移している」からであるとも受け取ることが可能です。
どういうことかというと、トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダといった日本の自動車メーカーはこれまで「EVへの全面的な変革にやや消極的である」と評されており、完全に世の中から取り残されている、変化を受け入れたがらない、電動化への投資を嫌っていると言われていたわけですが、これらの評価は実は正しくなく、日本の自動車メーカーが「最終的には電気自動車の減速が起こるだろう」ということを予測していたことが徐々に明らかになっています。
たとえば、トヨタはずっと「そもそもEVは顧客が欲しがっている製品ではない」と一貫して主張し、急激なEVへのポートフォリオ転換に対して警鐘を鳴らしてきた筆頭格。
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さらに日産自動車のスティーブン・マー最高財務責任者(CFO)は「電動化のスピードを決めるのは顧客です。電動化は直線的な成長ではなく、長期的に成長するにしても、短期的には上がったり下がったりします」とコメント。
日産は業界でもかなり速い時期から電動化に取り組んでいますが、だからこそ見えてきたものがあるのだと思われ、”ゆるやかな電動化社会の到来”を見越して2021年に策定した2兆円規模の5カ年計画をそのまま継続する見込みだと報じられています(つまり、日産はEV販売がいったん減速することを見越してこの計画を立てていた)。
さらにスバルは「電動化への積極投資を行わず、今はやるべきことを行い、電動化の必要性が生じたら、そのときは(おそらくトヨタから)電動化技術を購入する」と述べ、マツダも「電動化レースに出遅れたのではなく、意図的に参加していないだけである」ともコメント。※スバルの副社長、江守智明氏(当時)は1兆5000億円の電動化計画を策定した際にEV成長の停滞期を考慮していたと述べている
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マツダがEVにて出遅れていることについて「スタートが遅れているのではなく意図的にレースに参加していないだけだ」とコメント。たしかに結果オーライではある
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加えてホンダの藤村最高財務責任者(CFO)も「もともと、EV市場の成長が鈍化する可能性を盛り込んだ計画を立てており」、よって計画に変更はなく、ホンダは引き続き(急激にではなく、徐々に市場が成長することを考慮したペースで)EVの開発を進めてゆくと語っていて、こちらも的確な予測を立てていたということがわかります。
つまり、巨額な投資を行って「急速に」EV時代へのトランスフォームを(会社組織や工場ともに)行ってきた欧米の自動車メーカーとは異なるスタンスを取っていたのが日本の自動車メーカーで、そしてその理由は「波に乗り遅れた」のではなく「波を見極めていた」ということになり、まずやってきたビッグウェーブに乗ってバランスを欠いてしまったのが一部の欧米の自動車メーカーということなのかもしれません。
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参照:Bloomberg