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この数年でいったいどれくらいの新興ハイパーカーメーカーが登場したのか。ハイパーカー市場の飽和、ハイパーカービジネスの困難と課題を考える

ブガッティ

| ハイパーカーという市場が確立されたのは2005年のブガッティ・ヴェイロン登場以降だとされている |

しかし今のハイパーカー市場は「ビジネスチャンスがあるようでほとんどない」

さて、ここ最近見られ始めた現象が「オークションにおいて、値がつかないハイパーカーが出始めた」。

これまでにもマクラーレンの「アルティメット」シリーズの一部では価格が上がらないといった例が報じられていたものの、最近だとアストンマーティンの限定車の入札価格が「新車価格を超えることができない」といった複数の事例がネットを賑わせたばかりです。

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いったいなぜハイパーカーの「値がつきにくく」なったのか

そこでこういった現象の背景を考えてみると、それはズバリ「ハイパーカーが増えすぎたから」だとも考えられます。

ちょっと前までは、10年くらいのインターバルで登場するフェラーリの”スペチアーレ”やポルシェの(959やカレラGTなどの)限定車くらいしかハイパーカーが存在しなかったものの(ただし当時はハイパーカーという言葉はなかった)、そこへマクラーレンが参入し、フェラーリも「ICONA」シリーズを追加し、ランボルギーニも限定車を発売し、ブガッティやパガーニやケーニグセグも登場し、さらに極めつけは「新興ハイパーカーメーカーの登場」で、これらの要因によってハイパーカー市場が「ブルーオーシャンからレッドオーシャン化」し、飽和に近づきつつあるのだと考えることも可能です。

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「ハイパーカー」という市場が定着したのは2005年くらいである

ハイパーカーという概念は比較的新しいもので、マクラーレンF1はしばしば初の本格的なハイパーカーとして挙げられることも。

1990年代後半から2000年代にかけては、サリーン、SSC(シェルビー・スーパー・カーズ)、ベクターなどの小規模プレイヤーが登場していますが、しかしハイパーカーというジャンルが本格的に定着したのは2005年だというのが一般的な見解です。

そしてこの2005年に何があったのかというと「ブガッティ・ヴェイロンの登場」。

そして同年にはパガーニがゾンダの生産を増加させ、アメリカ向けの納入準備を進める一方、北欧では新興企業のケーニグセグが初の量産車であるCCXを30台生産し、より強力なCC8Sの開発計画を進めるといった状況があり、文字通りの「ハイパーカー元年」でもあったわけですね。

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それから20年が経過しようとしているいま、ブガッティ、パガーニ、ケーニグセグは現代のハイパーカー界の先駆者と見なされていて、それらは「一部の頂点」を占めています。

しかし同時に、新たな競争相手、つまりまるで突然現れたかのような新興企業からの競争にも直面しているわけですね。

現在、とんでもない数のハイパーカーが登場している

そこで思いつく範囲で新興ハイパーカーメーカーの名を挙げてみると、SCG(スクーデリア・キャメロン・グリッケンハウス)、デヴェル、アポロ、777モータース、エストレマ、アスパーク、ジンガー、ダラーラ、デ・トマソ、デラージュ(ドラージュ)、ナラン、トゥシェック、ゴードン・マレー・オートモーティブ、ヴァリテック、エレクトロン、タキオン、アダマストール、マクマートリー、プラガ、ピカソ、レズヴァニ、ゼンヴォ、Wモータース、ハイペリオン、モランドなどなど。

これらの中には「お金が余っている億万長者」が立ち上げた企業、「モータースポーツで成功し、市販車ビジネスに参入した企業」等の様々な例がありますが、いずれも「次のブガッティやパガーニ、あるいはケーニグセグ」を目指しているのは間違いないものと解釈しています。

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そしてこれらの多くが(全てではない)採用するのが「無駄に過剰なパワー」「人間が乗るとは思えないような歌劇、あるいは未来的なデザイン」。

こういった要素は「すでに過密になりつつあるハイパーカー市場において存在感を発揮せねばならない」という必要性に迫られたものだと思われ、この中でもデラージュはその最たる例かもしれません。

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デラージュの発売する「D12」はハイパーカーの典型的な要素を集めたフランケンシュタインのようなクルマであり、センターシートレイアウト、F1風のデザイン、ヨーク型ステアリングホイール、1,100馬力のハイブリッドパワートレインといった「全部入り」に近い仕様を持っていて、「かつて存在した名門レーシングカーコンストラクター」、デラージュを現代に”ハイパーカーブランド”として蘇らせた(同社CEOの)ローラン・タピエ氏は以下のように語っています。

「ハイパーカー市場の売上がどれほど驚異的な数字になっているかについての記事を読んだんです。パガーニやケーニグセグは10年前の10倍以上の販売数を誇っているし、ブガッティも同じです。だから、私はこう思いました。大きな市場が存在している、そしてもしかしたら自分の思うようなクルマを作り、利益を得られるチャンスがあるかもしれないと。」

そしてそのチャンスを実現したのがこのD12であり、同氏の好きな要素、そして他のライバルと差別化を行うための要素を盛り込むと「こういったクルマ」となってしまったわけですね。

それでもハイパーカー市場で「今から」成功を収めることは難しい

ただ、いかにハイパーカーが売れているといえど、その市場で利益を得ることができるかどうかということはまた別の問題で、利益をあげるには何年も、場合によっては数十年もかかります。

例えば、ブガッティはヴェイロンを販売するたびに約600万ドルの損失を出していたと広く報告され、ブガッティが利益を上げ始めたのは(ヴェイロンの登場から10年が経過した後の)シロンの発売以降です。

そして現代のハイパーカーセグメントは非常に競争が厳しく、よってここから「10年」という長い期間においてハイパーカーを安定的に製造・販売し生き抜くことは非常に困難。

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ブガッティ、ケーニグセグ、パガーニがハイパーカーをリリースした時期にはまだ「フルカーボン製の車体」「1,000馬力」は一般的ではなく、しかし現代のハイパーカーにおいてそれらは「標準装備」。

つまり今ではハイパーカー自体がコモディティ化してしまって差別化できる要素がすでにない(素材・技術ともに上限に達している)という事実があり、ここから新しくハイパーカービジネスを始めるには「時期が適していない」と考えることも可能です。

加えて、この業界に経験がないビジネスマンが「儲かるであろう」からと簡単に参入してしうと(ビジネス慣習の違いから)痛手を被ることがあり、ハイパーカーではないものの(新しい経営者体制となった)TVRはいつまでたっても生産ができず、そのほかにも権利や知財関連の訴訟、そして設計や開発が進まず頓挫する例、訴訟まみれになる例も多数存在します(豊富な資金がある中国の紅旗であってもプロジェクトが進んでいない)。

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さらに悪いのは「買い手が損失を被る」可能性もあるということで、多くの実業家が「簡単に儲けることができる」と自動車業界を甘く見て参入し、3Dレンダリングやフルサイズのクレイモデルを発注し、実際にはまだ走らないクルマを用意し、何千馬力、記録的な速度などを示してユーザーから多額の保証金を受け取って受注するものの、実際には「納車できない」というケースも報じられていて、こういった事例が頻発するようであれば、ハイパーカービジネスそのものに対する(消費者の)懐疑心が広がってしまうのかもしれません。

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参照:Motor1

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