
全固体電池(ソリッドステートバッテリー=SSB)とは?EV業界の“次なる革命”
| ソリッドステートバッテリー分野では他社の先をゆく日産が「2028年に実用化」 |
一方、中国勢は今年にもソリッドバッテリー搭載EVを発売しそうである
EVに関心があるなら、「全固体電池(ソリッドステートバッテリー / Solid-State Battery)」という言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれません。
多くの自動車メーカーが次世代EVの鍵として、このバッテリー技術に数十億ドル規模の投資を行っており、その中でも日産がリードを奪いつつある、というのが一般的な認識でもありますね。
それでも2024年時点では「2030年まで実用化は困難」とされていたものの、今回日産が2028年度末(2029年初頭)までに製品化を実現すると発表し、そのリードをさらに広げようとしています。
ここで「全固体電池」とはどういったバッテリーなのかを振り返ってみましょう。
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なぜ全固体電池に期待が集まるのか?
リチウムイオン電池との違い
現在主流のリチウムイオン電池は「液体電解質」を使用していますが、一方で全固体電池はこれを「固体電解質」に置き換えることで、以下のような大きな進化をもたらすと期待されています。
全固体電池のメリット
1. 劣化が少ない=長寿命バッテリー
フォルクスワーゲンとクァンタムスペース(QuantumScape)との共同研究では、1,000回の充放電でも容量劣化はわずか5%だとされ、これは従来の20%よりも圧倒的に優れた数値です。
2. 同じ航続距離で軽量化を実現
現行のバッテリーは重く、効率も頭打ち。しかしSSBは重量につき30%の削減が可能だとされ、大きなバッテリーを積むサルーンやSUVにおいては飛躍的な性能向上を期待できます。
3. 急速充電が10分で完了?
ハーバード大学の研究では、「10分充電」を実現するSSBプロトタイプが発表されています。これが実用化されれば、ガソリン車との利便性の差も縮まり、EV普及の大きな足がかりとなりそうです。
4. 火災リスクが低く、安全性が向上
液体電解質による熱暴走のリスクがほぼゼロに。固体は燃えにくく、温度耐性にも優れています(ただしリチウムイオンバッテリーとはまた別の問題が存在する)。
5. 環境負荷の低減が期待される
リチウム採掘には環境負荷がありますが、SSBがリチウム依存から脱却すれば、水質汚染や土壌破壊の問題が軽減される可能性があります。
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EV以外にも応用できるSSBの可能性
そしてこのソリッドステートバッテリーは、BEB(純EV)のみではなくPHEV(プラグインハイブリッド)車にも使用される可能性が報じられ、実際にトヨタはまずハイブリッド車から固体電池を導入する計画を発表しており、より多くのユーザーに届く技術になることが期待されています(当初、全固体電池は生産量が限られ、さらには高価な部品になると思われるため、容量を小さく抑えることができるハイブリッドから採用を始めるのだと思われる)。
それでも残るソリッドステートバッテリーの課題とは?
静かで無個性なEV問題
いくらソリッドステートバッテリーの採用によってEVの性能が向上しても、「走る楽しさ」や「音」を補えるわけではなく、エンジン音や操作感を愛するユーザーに対しては、依然として「有効な選択肢」とはなりえないのかもしれません。
コストの問題
ソリッドステートバッテリーの研究開発には巨額の資金が投入されており、初期コストが高額になるのは避けられず、もちろんそのコストは最終的に消費者が負担することになります。
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実証不足の現実
- 安全性
- 寒冷地での性能
- 実際の耐久性と寿命
これらはまだ実使用でのデータが不足しており、今後の検証が必要です。
ソリッドステートバッテリーの代替案はあるのか?
ソリッドステートバッテリーについては2020年頃には実現すると言われていたものの、現時点では「実現せず」。
その理由は「解決できない課題が存在する」からで、一部の識者によれば「とうぶん実現できない」。
よって一部の自動車メーカーはソリッドステートバッテリーをあきらめる例、そしてソリッドステートバッテリーの実用化が先になると見て「代替製品」の開発を急ぐ例も。
たとえばポルシェやメルセデス・ベンツは「シリコンカーバイド」を使用したバッテリーの採用を進めていますが、そのほかには以下のような「代替バッテリー」の存在が報じられています。
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有望視される代替バッテリー
- ナトリウムイオン
- マグネシウムイオン
- アルミニウムイオン
- 有機廃棄物を利用したオーガニックバッテリー(理論段階)
合成燃料(e-Fuel)という選択肢も
合成燃料は既存の内燃機関を活かしながらカーボンニュートラルを目指せる技術ですが、EUの政策的な電動化偏重により注目されにくい状況です。
結論:多様な道を認める未来へ
SSBは確かに魅力的な技術ではありますが、しかし、それだけに未来を託すのは危険でもあり、合成燃料、ハイブリッド、EV、そして新素材のバッテリーと、多様なアプローチを同時に進めるのが持続可能なモビリティの鍵かもしれません。
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今後の注目ポイント
- 日産のSSB市販化は2028年度末(2029年初頭)を予定
- BMW、トヨタ、フォルクスワーゲンなども実証実験中
- ハイブリッドからEVへの段階的導入が主流に
- 中国の自動車メーカーは今年にでも全固体電池の実用化を宣言
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