| この現象はまさに、1990年代末の「フォルクスワーゲンとBMWとのロールスロイス買収劇」を思い起こさせる |
BMWについては2017年ごろから「マクラーレンと提携、もしくは買収」という報道が何度かなされている
さて、このところ様々なウワサが流れているマクラーレンの買収について。
直近だと昨年11月にマクラーレンの株式取得についてBMWとマクラーレンが話し合いを持っていると報じられており、しかしすぐさまBMWはこれを否定。
参考までにBMWはずっと「スーパーカーを作りたいと考えていて」そのためにマクラーレンの買収を考えている、と2017年にも報じられています。
そしてその(昨年11月のウワサが出た)数日後にはアウディがマクラーレンの買収を目論んでいるという話が出てくることになりますが、これに対するアウディの回答は「詳しくお話できない(つまり否定はしていない)。
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BMWとアウディがマクラーレン買収を狙っているとのウワサ!BMWはマクラーレン乗用車部門を、アウディはモータースポーツ部門を分割して吸収する可能性も
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アウディはなぜそこまでマクラーレンを欲しがるのか?
さらにその後、今度はアウディがマクラーレングループを買収したという報道がなされ、しかしその数時間後にはマクラーレンは「その話は事実無根であり、報道の取り下げを要求する」という声明を発表しているわけですね。
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アウディが「マクラーレングループ全体を買収した」との報道→マクラーレンが即座にこれを全否定「全くの誤りで、記事の削除を求める」
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そしてつい先日出てきたニュースが「アウディが、マクラーレン買収のための金額を吊り上げ、マクラーレンに再度オファーを入れた」というもの。
ただしこれはマクラーレンのモータースポーツ部門「マクラーレン・レーシング」に対してであり、市販車部門のマクラーレン・オートモーティブではなく、しかしアウディはマクラーレン・レーシングに続きマクラーレン・オートモーティブの買収も視野に入れているとも報じられています(それを含んだ買収金額の再提示)。
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アウディがマクラーレンF1部門を買収するための金額を605億円から874億円に吊り上げて再オファーとの報道!さらにはアウディはロードカー部門の買収も視野に
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ただ、ややこしいのが今回ほぼ同時に出てきた「BMWが、マクラーレンとの間にて、3月24日に、新しい電動スポーツカーの共同開発に関する覚書を交わした」という報道であり、これらが事実であれば、F1はじめとするマクラーレン・レーシングはアウディの手に、そして市販車部門のマクラーレン・オートモーティブはBMWともに新型エレクトリックスポーツカーを開発するというややこしい事態が発生します。
そしてもっとややこしいのが、アウディがマクラーレンの市販車部門を買収にかかった場合で、今回アウディがマクラーレン・レーシングを買収するという契約の中に、「マクラーレン・オートモーティブへの関与もしくは将来的な買収」が含まれているとすれば、このBMWとマクラーレンとの契約は無効になる可能性が高いもよう。
こうなるとBMWは「アウディにマクラーレンを持ってゆかれる」ことになり、両者の関係が悪化するきっかけになるのかもしれません。
なお、アウディが(F1参戦のために)マクラーレン・レーシングを欲しがる理由はわからないでもないですが、市販車部門のマクラーレン・オートモーティブを欲しがる理由は「ナゾ」であり、同社の持つカーボンファイバー生産設備、そして電動化技術に魅力を感じているんじゃないかと考えています(もしくは、モータースポーツ部門が欲しいがために市販車部門までをも買い取る)。
BMWとフォルクスワーゲンは以前にもモメたことがある
参考までに、BMWと(アウディを抱える)フォルクスワーゲングループとは過去にも別の「買収案件」でもモメたことがあり、ロールスロイス、そしてベントレーの買収でお互いに火花をちらしたことも。
これについて触れてみると、まずロールスロイスは経営不振によって分割されており、1973年には自動車部門が切り離されてヴィッカースに売却されますが(ここでロールスロイス・モータースとなる)、その後ヴィッカースはBMWからエンジンの供給を受けるなど関係を深め、BMWへと売却するという契約をまとめることに。
しかしその直後にフォルクスワーゲンがBMWの提示した金額の30%増しをオファーし、これに心動かされる形でヴィッカースはフォルクスワーゲンへとロールスロイスを売却するという判断を下します(1998年6月5日)。
ただ、ロールスロイスが分割されていたといえど、ロールスロイスの名とRRロゴを管理していたのは持株会社のロールスロイス・ホールディングス」で、結果的にこのロールスロイス・ホールディングスは、その商標とロゴの使用権(ただし自動車に限る)をBMWへと売却するという決定を下しており、状況が二転三転しているわけですね。
そしてもっとややこしいのが、BMWが手に入れたのはあくまでも「商標とロゴの使用権」のみであり、反面フォルクスワーゲンはロールスロイスの工場やスピリット・オブ・エクスタシー、パルテノングリル等のパテント、そしてもともとのロールスロイスが所有していたベントレーブランドを手に入れていて、「BMWはロールスロイスの名前とエンブレムを付けたクルマをつくることができるが、スピリット・オブ・エクスタシーやパルテノングリルを使用できない」「フォルクスワーゲンは、ロールスロイスの工場を有し、ロールスロイスの外観を持つクルマをつくることができるが、ロールスロイスの名前とエンブレムを使用することができない」という意味不明な現象が生じ、勝者のない戦いとなってしまいます。
よって両者はその状況を解決すべく話し合いを持ち、フォルクスワーゲンが一部パテントをBMWに譲り渡すことで、2003年から「名実ともに」ロールスロイスはBMWに移ったわけですね。
しかしながら、フォルクスワーゲンがBMWに渡したのは一部パテントのみで、生産設備やその他の知的財産は引き続きフォルクスワーゲンが所有したままであり、そのためBMWが現在展開しているロールスロイスは「ロールスロイス・モーター・カーズ」という、もともとの「ロールスロイス・モータース」とはまったく別の会社となっているのは注意すべき点でもあります。
こういったこともあり、ロールスロイスとベントレー、そしてBMWとフォルクスワーゲン(とアウディ)とはいがみ合う仲になってしまったんじゃないかと考えているのですが、買収にからむ問題が解決しなかった数年間、関係者は意が締め付けられるような毎日を過ごしていたのかもしれませんね。
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参照:Automotive News