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| ブガッティとは「単なるクルマ」ではなく、創業者の理念そのものを示す存在である |
ブガッティは「理解が追いつく存在」「理解の範疇」であってはならない
前回はブガッティ創業時から最初の倒産、ロマーノ・アルティオリによる再生と挫折について解説しましたが、今回はそこからのフォルクスワーゲングループによる再生、そして現在に至るまでの道のりに触れてみたいと思います。
この復活のプロセスを見るに、ブガッティが「スペックを超えた存在」であり、いかにその設計思想がブランドを形作るのかを知ることができるかもしれません。
第4章:フォルクスワーゲングループ時代 – 伝説の再誕(1998-2021)
1995年にロマーノ・アルティオリがブガッティ・アウトモビリS.p.A.を閉じた3年後の1998年、「ブガッティ」の商標権を獲得したのがフォルクスワーゲングループ。
この買収は極めて重要な瞬間であり、ブランドが世界最大の自動車コングロマリットの一つに統合された事実を示すこととなっていますが、VWによる買収は、ベントレーやランボルギーニといった他の名門ブランドとともに、超高級および高性能セグメントへのポートフォリオ拡大を目的とした広範な戦略の一環であり、ブガッティの独特な遺産と憧れの価値を活用する重要なステップです。
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ただ、近年ブガッティが公開した情報によれば、この買収を主導した(当時の)フォルクスワーゲングループ会長、フェルディナント・ピエヒ氏は「ブガッティを買収することが目的」であったわけではなく、自身が実現しようと考えていた「前人未到の領域に達するスーパーカーを発売するブランドを探していた」とされ、その眼鏡にかなったのがブガッティ。
実際のところ、その頃のフォルクスワーゲンはアウディブランド、フォルクスワーゲンブランドにていくつかの「超弩級」の性能を誇るコンセプトカーを制作しており、これらの市販を強く模索していたことがわかります。
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VWは過去にミドシップスーパーカー「W12コンセプト」を作っていた!3年も開発を続け、7つの世界記録を更新したのになぜ発売されなかったのか?
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ただ、「過去に例のない」スペックを持つスーパーカーを発売するにあたり、既存ブランド、さらにはセダンや実用車を作っているブランドからのリリースではインパクトが薄いと考えたのだと思われ、そこで「比べられるようであれば、それはブガッティとは呼べない」というエットーレ・ブガッティ(ブガッティ創業者)のモットーでよく知られるブガッティに目が止まったのかもしれません。
よって、フォルクスワーゲンによるブガッティ再生は「ブガッティブランドありき」というよりも「誰も見たことがないスーパーカーの実現計画ありき」ということになりますね。
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フォルクスワーゲンは慎重に、しかし大胆にプロジェクトを進行させる
かくしてフォルクスワーゲングループの管理下において、ブガッティは超高級ブランドとして細心の注意を払って再ブランディングがなされ、ここでは自動車工学、性能、そして排他性の絶対的な頂点を象徴する車両の創造に焦点を当てられます(この時点で、フォルクスワーゲングループは、ブガッティの本社をモルスハイムに設定し、原点に立ち返ろうという動きを見せている。なお社名はブガッティ・オトモビルS.A.S.)。
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ブガッティ・ヴェイロン開発秘話がいま明かされる:「タイヤ開発だけで5年」など時速400km/hを実現するために必要だった“ありえない”挑戦とは
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この企業統合は、ブガッティに前例のない財政的安定、広範なエンジニアリング資源へのアクセス、高度な研究開発能力、そしてグローバルなサプライチェーンを提供することとなりますが、これらがその野心的なプロジェクトにとって極めて重要であることは前編にて説明したとおり。
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この時代には、歴史上最も象徴的で技術的に進んだハイパーカーの2台、ブガッティ・ヴェイロン(2005年発売)とその後継車であるブガッティ・シロン(2016年発売)が誕生していますが、これらのモデルは、速度、パワー、豪華さの境界を再定義し、ブガッティを自動車界の絶対的な頂点に再び君臨させることに成功しています。
同時にこの動きは、ブガッティを脆弱な独立事業から、巨大なコングロマリット内の保護された資産へと効果的に移行させ、その長期的な存続を保証し、技術的に野心的な、損失を伴う(許容する)「ハロー」製品の開発を可能とさせるのですが、実際のところ、ヴェイロン発売当時は「1台売るごとに数億円の赤字が出た」とされ、しかしヴェイロンの登場によって「自動車業界が一変し」、その旋風を巻き起こしたのがフォルクスワーゲングループであると知らしめたことを考えれば「安いもの」であったのかもしれません。
そしてこの「損失が許容できる」のは単独企業としてではなく「巨大コングロマリットの中に属する」からこそであり、ここがロマーノ・アルティオリ時代のブガッティとは大きく異なるところです。
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- 豊富な資金力: VWは、ハイパーカーの莫大な研究開発費と生産費を吸収することができ、これらの車両は単体では利益が出ないことが多いものの、技術的なショーケースやブランド価値を高める役割(「ハロー効果」)を果たすことに
- 広範なエンジニアリング資源: VWグループの広範なエンジニアリング人材、試験施設、および(適切な場合の)部品共有へのアクセスは、開発のリスクを大幅に軽減し、加速させることが可能となった
- 長期的な戦略的ビジョン: VWはブガッティをブランドの威信と技術的リーダーシップへの長期投資と見なすことができ、独立した所有者にはできない即時の収益性を要求しなかった
この期間は、高級自動車産業における重要な傾向、すなわち、ニッチな超高級ブランドが、より大規模で多様な自動車グループの一部となる必要性が増していることを示していて、これにより、最先端で高コストな車両を開発し、事業を維持するために必要な財政的支援、技術的インフラ、および市場リーチが提供され、そのようなブランドは事実上、より広範な企業戦略内のみでこそ「保護された」資産となることを裏付けています。
つまり、伝説的なブランドのリブートは、もはや「個々の起業家の情熱」で賄えるものではなく、企業の管理へと移行したことを意味します。
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ただ、VW傘下でのブガッティが成功したことについては、単に「高性能車を作ったから」ではなく、その性能が「比肩しうるものがなく」「想像の範疇を遥かに超え」、それを担保するだけのエンジニアリングや芸術性を備えていた(つまりブガッティ創業者の掲げた理念の体現であった)からだと考えてよく、事実としてブガッティのクルマと同等、あるいはそれを超えるだけのスペックを持つハイパーカーであっても「ブガッティを超える評価、市場価値を獲得できない」ことを考慮するに、超高価格帯、超高性能車において求められるのは「スペックのみにあらず」ということがわかります。
第5章:ブガッティ・リマック合弁事業 – 新たな章(2021年-現在)
そしてフォルクスワーゲンとの蜜月が続いた後、2021年11月、「ブガッティ・リマック」なる合弁事業の設立によって新たな時代が始まることに。
この合弁会社では所有構造に着目する必要があって、ポルシェAGがブガッティ・リマックの45%を保有し、リマック・グループが過半数の55%を保有しています。
この合弁事業の本社はクロアチアにあるリマックの運営拠点に設けられ、これはリマックが技術的リーダーシップを持つという現実を反映していますが、重要なことは、ブガッティとリマックのブランドは、合弁事業の下で別々に運営されており、それぞれの明確なアイデンティティ、市場での位置づけ、製品ラインを維持しているという事実。

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ブガッティの生産およびデザイン業務は、その歴史的な本拠地であるフランスのモルスハイムに引き続き拠点を置き、その遺産と職人技を保護する一方、リマックの生産はクロアチアにとどまるものの、ややこしいのは「ブガッティ・リマックのCEO(メイト・リマック)」と「ブガッティ・オトモビルのCEO(クリストフ・ピオション)」とが存在すること。
両方が存在する意味、フォルクスワーゲングループとのそれぞれの関係性については正確な説明がなされておらず、「フォルクスワーゲンとの関係性が切れたので、最高速チャレンジにはフォルクスワーゲンのテストコースを使用できなくなった」という報道が見られる一方、メイト・リマック氏は「トゥールビヨンの企画時、その構造について、模型を用いてフォルクスワーゲングループの役員会にプレゼンを行い、開発のGOサインを取り付けた」とコメントするなど、現時点での状況や立ち位置を把握することが難しいのもまた事実です(ブガッティ・リマックが、ブガッティ・オトモビルを管理していることはわかっている)。
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ブガッティがトゥールビヨンの「開発秘話」を語る。「限界を超えるため、すでに優れた空力性能を持つシロンをベースに、さらなる高みを目指した」
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ただ、「ブガッティ・リマック」の設立は、ブガッティの比類のない遺産、精緻な職人技、豪華な魅力を、リマックの最先端の電気自動車(EV)技術と高性能バッテリーシステムと組み合わせることを目的とした「非常に戦略的な動き」であるとされ、このパートナーシップは、ブガッティの明確な将来の方向性を示しており、将来のブガッティ製ハイパーカーが完全な電気自動車またはハイブリッドとなることが予想されています。
そしてこの合弁事業は、ますます電動化が進む自動車業界においてブガッティの長期的な将来を確保するための、積極的かつ洗練された戦略的転換を表しているものと見なされており、EVハイパーカー技術の著名なリーダーであるリマックとの合弁事業に参画することで、ブガッティは内部で不足している可能性のある、しかし極めて重要な専門知識に即座にアクセスできるというメリットを享受することが可能となります。
それと同時に、独自のブランドアイデンティティと歴史的な製造拠点を慎重に保護することも可能となり、これは、伝統と技術的必要性を両立させ、外部の革新を活用するという洗練されたブランド管理のアプローチを示しているものの、なぜ大手コングロマリットであるVWが、ブガッティのためにEV技術を完全に自社開発するのではなく、直接的な所有権を希薄化してまで合弁事業に(ポルシェを通じ)参画するかという疑問も残ります。
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フォルクスワーゲンがリマックとの「合弁」にてブガッティを存続させる方法を選んだ理由
その疑問に対する回答として考えられるのは、「ブガッティのように確立されたブランドでさえ、電動化を受け入れる必要性が増しており、戦略的パートナーシップ、合弁事業、または専門のEV技術企業の買収を通じてでないと生き残れないであろうから」だとも考えられ、おそらくVWはリマックの買収も検討はしたものの、それについては「リスクが大きすぎ」、よってリスクの大小、そしてメリットの大小を勘案し、「リマックにブガッティの面倒を見てもらう」こととしたのかもしれません(リマックの電動化技術が欲しければ、リマックを買収していたはずであるが、リマックの技術はVWグループの”乗用車”には転用が難しいと判断した可能性も)。
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ポルシェ創業者一族、フェルディナント・ピエヒ氏が亡くなる。アウディ・クワトロ、ブガッティ・シロンなどVWグループの「顔」をつくり続けた豪傑
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あるいは、ブガッティの「身売り」については、元フォルクスワーゲングループ会長、そしてブガッティの商標権を獲得しヴェイロンの発売を主導したフェルディナント・ピエヒの死去(2019年8月27日)後に出た話なので、もともとフォルクスワーゲングループの幹部たちは「ブガッティを手放したがっていたものの」、フェルディナント・ピエヒ存命中はその提案ができず、同氏の他界を待ってブガッティ売却に動いたのかもしれません(同氏は絶体的権力を持っており、同氏の意向には逆らえなかったというエピソードがいくつかある)。
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「ディアブロ後継」として発売直前だった「ランボルギーニ・カント」。発売キャンセルの理由とは?
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- EV専門知識の加速: リマックは、ハイパーカーに特化した非常に専門的で最先端のEVパワートレインおよびバッテリー技術を保有しており、このリマックと提携することで、ブガッティは、リマックの専門レベルに達するために必要な長期間にわたる高コストの社内研究開発プロセスなしに、この専門知識を迅速に統合できる
- 将来性確保: 自動車産業は、電動化への急速で不可逆的な転換期にあり、この合弁事業は、このトレンドを積極的に取り入れることで、将来のハイパーカー市場におけるブガッティの関連性と競争力を保証する
- リスク共有: 電気ハイパーカーの開発は、莫大な費用と技術的な複雑さを伴い、しかし合弁事業により、ポルシェ/VWとリマックの間で投資とリスクを共有できる
- 戦略的相乗効果: このパートナーシップは、ブガッティの確立された豪華な遺産と、リマックの革新的な未来志向の技術を組み合わせ、魅力的な物語と製品ロードマップを創造できる
- ブランド保護: ブガッティのモルスハイムでの生産と独立したブランドアイデンティティを維持することで、新しい技術を取り入れながらも、核となる遺産が希薄化されないようにできる
第6章:主要な企業関係と提携
ブガッティの歴史は、その所有構造の複雑な変遷によって特徴づけられ、現在、その事業は複数の層にわたる企業関係の中に組み込まれています。
現在の企業構造の詳細
- フォルクスワーゲンAG: 企業階層の頂点に位置する最終的な親会社。ポルシェAGを含む広範な自動車ブランドのポートフォリオを所有・管理する包括的な存在でもある
- ポルシェAG: フォルクスワーゲングループ内の重要な子会社で、ポルシェAGは、ブガッティ・リマック合弁事業において、二重の戦略的役割を担っている
- ブガッティ・リマックの45%の株式を直接保有しており、主要な合弁事業パートナーである
- さらに、ポルシェAGはリマック・グループの24%の株式も保有していて、この間接的な所有権により、ポルシェはブガッティ・リマックの過半数株主であるリマック・グループに対して大きな影響力を持っている
- リマック・グループ: クロアチアのテクノロジーおよびハイパーカー企業で、ブガッティ・リマックの過半数である55%の株式を保有し、リマック・グループの電気自動車技術における専門知識は、合弁事業の将来の方向性の礎石となっているほか、その独自の所有構造には、ポルシェAGが重要な株主として含まれる
- ブガッティ・リマック: 2021年11月に設立された合弁事業体。ブガッティとリマック両ブランドの直接的な親会社ではあるが、両ブランドは別々に運営され、本社はクロアチアに設立
- ブガッティ・オトモビルS.A.S.: ブガッティブランド自体を表す法人で、現在はブガッティ・リマック合弁事業の下で運営される。その歴史的な製造およびデザイン拠点は、フランスのモルスハイムに維持されており、ブランドの真正な遺産を保護
歴史的な企業関係とその影響
- 初代ブガッティ(1909-1952年): エットーレ・ブガッティによって設立された家族経営の企業。この構造は、単一のビジョンと革新を育むも、多様な財政的支援の欠如と、創業者の代替不可能な喪失による脆弱性ももたらし1952年に廃業
- ブガッティ・アウトモビリS.p.A.(1987-1995年): ロマーノ・アルティオリの下での独立した起業家主導の事業。この期間はブランド復活への情熱を示したものの、資本集約的な超高級自動車産業における民間資金調達の内在的な限界と財政的脆弱性も浮き彫りにし、最終的に破産に至る
- フォルクスワーゲングループ(1998-2021年): 世界的な大手自動車コングロマリットによる直接的な企業所有。これにより、比類のない財政的安定、広大なエンジニアリング資源、および戦略的な市場ポジショニングが提供され、ブガッティはこの庇護のもと繁栄し、最も象徴的な現代のハイパーカーを生産することができた。この期間は、大規模で多様なグループの一員であることの利点を明確に示している
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期間/年 | 所有者/支配主体 | 主要な出来事/状況 | 主な運営拠点(変更があった場合) | 主要モデル/製品(その所有下) |
1909-1947年 | エットーレ・ブガッティ(初代会社) | 設立、オリジナル会社の最盛期 | モルスハイム | タイプ35、タイプ57アトランティーク |
1947-1987年 | 休眠期間 | オリジナル会社閉鎖、長期休眠 | なし | N/A |
1987-1995年 | ロマーノ・アルティオリ(ブガッティ・アウトモビリS.p.A.) | イタリアでの再誕、破産 | カンポガリアーノ | EB110 |
1998-2021年 | フォルクスワーゲンAG | VWによる買収、ハイパーカー時代 | モルスハイム | ヴェイロン、シロン |
2021年-現在 | ブガッティ・リマック(ポルシェAG & リマック・グループ) | 合弁事業設立 | モルスハイム/クロアチア | トゥールビヨン / 将来のEV / ハイブリッド |
エンティティ | 関係性/所有権 | 所有割合(該当する場合) | 主要な役割/機能 |
フォルクスワーゲンAG | 最終的な親会社 | - | 全ての自動車ブランドの包括的な所有者 |
ポルシェAG | 子会社、ブガッティ・リマックの合弁事業パートナー、リマック・グループの株主 | ブガッティ・リマックの45%、リマック・グループの24% | 戦略的投資家、高級ブランド部門 |
リマック・グループ | ブガッティ・リマックの過半数株主 | ブガッティ・リマックの55% | EVテクノロジーリーダー |
ブガッティ・リマック | 合弁事業体 | - | ハイパーカー合弁事業体、ブガッティとリマックの親会社 |
ブガッティ・オトモビルS.A.S. | 運営ブランド | - | 歴史的な生産拠点、ブガッティブランドの維持 |
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ブガッティの企業としての道のり全体は、高級自動車産業が経済的圧力、技術的破壊、グローバル化にどのように適応しているかを示す説得力のある事例研究として機能しており、これは、自動車部門における「ラグジュアリー」の定義が、職人技と性能だけでなく、持続可能性、最先端の電気技術、そしてますます複雑になるグローバル企業構造内で革新する能力を含むように進化していることを示しています。
簡単に言うと、現代のラグジュアリーカー、ハイパフォーマンスカーに求められる要件につき、顧客側、そして法規の面からも「非常に高く」なっていて、それを満たすには多額の資本と開発リソースが要求され、それを賄えるのは「巨大自動車コンゴロマリットのみ」であり、個人レベルはもちろん、ちょっとやそっとの資本を持つ企業では対応できないレベルにまでハードルが上がっているということを意味します。
そしてそのハードルは、ブガッティのように「すべてを超越したブランド」となれば一層高く、そしてそのハードルを超えるためのリスクも非常に高いということになりそうです(そう考えると、過去のブランドのリブート、ここからの新規ハイパーカー市場への参入はリスクでしかない。ただ、そのかわり、参入障壁が低いビジネスとして”レストモッド”が登場している)。
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- 資本要件のエスカレート: 各々の所有モデル(特に独立からコングロマリット、そして合弁事業へ)は、超高級車の開発と生産にかかる財政的要件のエスカレートを反映しており、特に電動化のような新しく高価な技術の出現に伴い顕著に。独立した事業体は、必要な資本を調達し維持することが難しい
- 技術的専門化と統合: ブガッティ・リマック合弁事業への最新の移行は、確立されたブランドが、自社で保有していない、または十分に迅速に開発できない高度に専門化された技術的専門知識(EVなど)を獲得または提携する必要があることを明確に示しており、これは、戦略的提携の時代を指し示している
- リスク軽減: 合弁事業は、特に不確実な技術的移行期や変動の激しい市場状況において、投資とリスクの共有を可能にする
- 新しいパラダイム内でのブランド保護: これらの所有権と技術における根本的な変化にもかかわらず、ブガッティの中核となるブランドアイデンティティとそのモルスハイムでの生産は慎重に保護されており、ビジネスモデルが進化しても遺産の永続的な価値を示している
結論:ブガッティの不朽の遺産と将来展望
ブガッティの歴史は、その並外れた回復力と、複数回の財政的苦境、休眠、さらには破産を乗り越えてきた独特の能力を物語っています。
それと同時に、「誰もが記憶するブランド」を蘇らせるには単なる数字上のスペックだけではなく「物語」が必要であることも理解でき、その物語を紡ぎ続けるには「技術」「資本」が必要であることもわかります。
そしていかに「技術」「資本」を持っていたとしても世の中の情勢によっては商業的な成功を妨げられる可能性があり、「法規」というハードルによって新たなる挑戦を強いられる場面も。
そして現在の富裕層を満足させることも「並大抵」のことでは賄えず、たとえばトゥールビヨンのように「機会式腕時計のように動作するメーター」「自動車史上ではわずか3例しかないV16エンジンの量産」といった”想像の範囲を超える、非常識の実現”が要求されます。
それらを乗り越えてようやく見えてくるのが「成功」の二文字ということになりますが、たとえ成功したとしても、移ろいやすい市場環境においてそれを継続させることは容易ではなく、さらなる環境への適応能力が試されることになり、ブガッティの将来の成功は、その伝説的な過去と大胆で技術的に進んだビジョンとのバランスを取り、戦略的パートナーシップを活用して21世紀の自動車世界の動的な状況を乗り越える継続的な能力にかかっている、ということになりそうです。
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