
| ポルシェ・コード──数字と名前に込められた物語 |
もともとポルシェは「通し番号」によって管理されていた
ポルシェの各モデルには、公式の車名(911、718ケイマン / ボクスターなど)と社内タイプナンバー(991、992、981、982など)の2つが存在していますが、「911」「991」「964」など、数字が並ぶこれらの名称には一貫したロジックがあり、それはブランドの進化そのものを映し出す“コード”でもあります。
さらに車名には様々な文字列が付与されることもあって、たとえば「356 A 1500 GS Carrera」という長い名前。
1955年に登場したこのモデルは、当時のポルシェの最高峰であり、「356シリーズ」のA型で、1.5リッターエンジンを搭載し、ここへ “GS(Grand Sport)”と“Carrera(レース)”の名を冠したネーミングとなっています。
社内番号の始まり:1931年、ポルシェ設計事務所から
この「コードナンバーの物語」は1931年、フェルディナンド・ポルシェ博士が設立した設計事務所、Dr. Ing. h.c. F. Porsche GmbHに遡ります。
同社では受注ごとに連番で社内タイプナンバーを付与するという法則を採用し、最初の“7”はドイツの自動車メーカー「ヴァンダラー」向けのセダン、“22”は伝説の「アウトウニオン・グランプリカー」 “60”はフォルクスワーゲン(タイプ60=ビートル)を意味しています。
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なお、最初が「7」ではじまったことについて、もしこれを「1」だとすると、これまでに実績がないことがバレてしまうので、それまでいくつかの実績があるように見せるため、「7」を採用したのだとも言われていますね。
参考までに、ロータスもまた製品に「通し番号」を与えることで知られており、自動車であっても、自転車であっても、ロータスが設計したものには通し番号が付与されています。
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話をポルシェに戻すと、1948年6月8日、プロジェクト番号(通し番号)“356”が完成。
初めて「ポルシェ」という名を冠したスポーツカー、つまりポルシェ356が誕生することとなり、この数字が、後に“ポルシェ・コード”の始まりとなるわけです。
901から911へ──数字が生んだ偶然の伝説
356の後継として開発された新型ポルシェは、当初“901”の社内番号で進められており、つまり356からその後継モデルの間には「相当数の」作品が存在していたということになりますが(当時のポルシェは他社からの設計依頼を多数引き受けていた)、実際にこの後継モデルを「901」としてフランクフルト・モーターショー(IAA)発表したところ、フランスのプジョーが「中央に0を持つ3桁番号(例:205)」の商標権を主張し、その結果、“0”を“1”に置き換えた“911”が正式名称に。※「901」から「911」への変更はわずか数日の間に行われているが、ごくわずかの台数が「901」として生産されている
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こうして偶然の産物から生まれた「911」は、やがて世界で最も有名な数字のひとつとなるのですが、ここからポルシェ内で「製品名と社内タイプナンバー」との2つが存在するように変化してゆきます。
拡大するモデルレンジと「900番台」の確立
その後、ポルシェはミドシップの914、小型の924、そして928・944とラインナップを拡大。
いずれも“900番台”のコードを採用し、この数字列が「信頼できるスポーツカー」=ポルシェの代名詞として定着していて、しかし、開発が進むにつれて900番台の番号が枯渇してしまい、モータースポーツ用マシン(917など)やプロトタイプも同じ体系で管理されていたため、開発チームは柔軟な命名を余儀なくされています。
これが「ボクスター」「ケイマン」「カイエン」といった”車名”が登場した一つの理由なのだと思われますが、現在ケイマンとボクスターは「718」へとシリーズが統一され、よっていまのポルシェでは「数字3桁」がスポーツカー、「名前」を持つクルマがSUVやセダンなど「4枚以上のドアを持つモデル」というくくりとなっています。
900番台を使い始めた理由
▶ 背景:ポルシェの社内ナンバリング方式
なお、900番台を使用するようになった理由について述べてみると、1950年代後半までポルシェは700番台までの番号を使用しており・・・。
- 356(市販車)
 - 550(レーシングスパイダー)
 - 718(RSK)
 
しかし1950年代後半になると、フォルクスワーゲンや他メーカーの委託開発プロジェクトも増え、社内で多くの車種開発が並行して進むようになり、その結果、従来の「700番台」では番号が足りなくなってしまい、新世代のプロジェクトを区別するために900番台が導入された、と言われています。
900番台導入の時期と意味
1959〜1960年ごろ、ポルシェ社は新しい世代の車両開発(356後継車や新しいレーシングカー)を進めていたのですが、このとき社内の開発部門が新シリーズとして900番台を採用。
その理由としては「”9”は新世代(Neun=ドイツ語で“9”)を意味するから」、そして「9」の後ろの「00〜99」はプロジェクト番号を割り当てる形式として「新時代のポルシェ車群」がスタートすることに(つまり、900番台は単に数字の継続ではなかった)。
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なお、これとは別に、「当時ポルシェはフォルクスワーゲンとの提携を考慮しており、フォルクスワーゲンと共通のシステムを用いての管理を検討していて、フォルクスワーゲンでは未使用であった」900番台そ使用することにしたという資料もあり、ポルシェが900番台を使用するようになったのは「様々な要素」が絡んでいたのだと思われます。※この計画では、901が6気筒、902が4気筒であったという
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911シリーズの内部コードと進化の系譜
そして「911」へと話を戻すと、911は1968年から“シリーズA”として内部区分が始まり、翌年には“Bシリーズ”、1973年には大幅刷新の“Gシリーズ”へ。
さらに特別モデルには個別コードが与えられ、しかしいずれも車名は「911」にて統一されています。
- 930:911ターボ
 - 954:911 SC/RS
 - 964(1988)/993(1993)/996/997/991と続く
 
型式だけではない──愛称と略号が語るポルシェ文化
ポルシェの社内では、しばしばモデルに愛称が付けられることも少なくはなく、たとえば356の一部は「Dame(貴婦人)」、 917/20は「Sau(豚)」=ピンクピッグとして有名です。
そして愛称のほか、車名の後ろに付く略号や数字にも明確な意味があり、ここでは代表的なものをみてみましょう。
現行モデルの主要サフィックス(略号)の意味
| 記号 | 意味・由来 | 
| Boxster | 「Boxer(水平対向エンジン)」+「Roadster」の造語(1993年登場) | 
| Carrera | メキシコの耐久レース「カレラ・パンアメリカーナ」に由来。高性能版を示す称号。 | 
| E-Hybrid | エンジン+電動モーターによるハイブリッド。高性能と低排出の両立。 | 
| Executive | パナメーラなどのロングホイールベース仕様(後席重視)。 | 
| GTS | “Gran Turismo Sport”。モータースポーツ由来のスポーティグレード。 | 
| RS | “RennSport(レース用)”。公道走行可能なレーシングモデル。 | 
| RSR | “RennSport Rennwagen”。完全なレーシングカー(非公道仕様)。 | 
| S | “Sport”の略。高出力エンジン+上級装備を持つ。 | 
| Spyder | 軽量オープンの伝統モデル。550スパイダー、918スパイダーなど。 | 
| Targa | 固定ルーフとロールバーを持つ911のオープン版。“タルガ・フローリオ”に由来。 | 
| Turbo | 排気ターボチャージャー搭載モデル。2015年以降は全車ターボ化。 | 
| 4 | 四輪駆動モデルを示す。 | 
歴史的略号(ヒストリックモデル)
| 記号 | 意味・特徴 | 
| CS(Club Sport) | 快適装備を省き軽量化したサーキット志向仕様(968 CSなど)。 | 
| GT | “Gran Turismo”。GTクラスにホモロゲーションされた高性能モデル。 | 
| GT Cup | カップシリーズ参戦用のレース専用車(911 GT3 Cupなど)。 | 
| L(Luxury) | 豪華装備仕様(911 L 1967年など)。 | 
| SC(Super Carrera) | 高性能版の終幕モデル(911 SCなど)。 | 
| Speedster | 低いウインドシールドを持つ軽量オープン。356や911で復活。 | 
| T(Touring) | エントリーモデル。価格を抑えた仕様。※ただし現代の「T」は安くない | 
数字と文字の向こうにあるもの──ポルシェの哲学
“911”という数字も、“GTS”という略号も、単なる記号ではなく、それはポルシェが90年以上かけて築いてきた「技術と情熱の系譜」そのもの。
数字の中に歴史を、サフィックスに哲学を宿す──これこそが「ポルシェ・コード」と呼ばれるゆえんなのでしょうね。
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参照:Porsche






















