
| セミアクティブサス、竜退治製ダンパーに次ぐ「第三の」革命 |
フェラーリは常に最新テクノロジーをもって車両を制御しようと試みる
スポーツカーといえば「足回りが硬くて乗り心地が悪い」というイメージを多くの人が抱いていると思いますが、実のところ最新のフェラーリはその常識を根底から覆しており、今回フェラーリは公式動画として「Suspension Explained | Ferrari Unpacked, Episode 4」を公開することに。
これは今までに公開してきた「重心」「流体力学」「パワートレイン」に次ぐフェラーリの技術解説動画”第4弾”となりますが、ここで示される「路面に吸い付くような走りを生み出す”見えない対話(The Invisible Dialogue)”」の秘密を紐解てみたいと思います。
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この記事の要約
- フェラーリのサスペンションは「究極の快適性」と「圧倒的なコントロール」という相反する要素を両立させている
- 2006年の磁性流体ダンパー導入から、最新のアクティブサスペンション(FAST)へと劇的な進化を遂げる
- SUVスタイルの「プロサングエ」では、48Vモーターがピッチとロールを瞬時に打ち消し、魔法のようなフラットライドを実現
- 3Dプリント技術(ジェネレーティブデザイン)を用いたパーツ軽量化など、最新スーパーカー(F80)のダウンフォース維持にも貢献している
サスペンションが担う「2つの使命」とフェラーリの哲学
もし世界が凹凸のない巨大で滑らかな球体であればサスペンションはそもそも必要はなく、しかし現実の道路には無数の段差やうねりが存在します。
よってサスペンションの基本的な役割は車輪の下(道路)で起きている衝撃を吸収し、乗員に「快適性」を提供することとなりますが、フェラーリのようなスポーツカーメーカーにおいては、もう一つ極めて重要な役割を追求する必要があり、それは、タイヤを最適な状態で地面に押し付け、圧倒的な「ドライビングの安定性とコントロール(ハンドリング)」を提供することです。

スプリングとショックアブソーバーの連携
- スプリング(バネ): 路面からの衝撃を吸収し、しかしそのままでは反発力で車体が何度も跳ねてしまう
- ショックアブソーバー(ダンパー): スプリングの跳ね返りを抑える「油圧ブレーキ」の役割を果たす
ショックアブソーバーの内部では、ピストンがオイルの中を移動する際の「粘性摩擦」を利用して衝撃を減衰させていますが(たとえば、海の中を歩くとき、ゆっくり歩けば抵抗は少ないものの、そこから走ろうとすると急激に重く感じるのと同じ原理である)、フェラーリの設計哲学は、この「快適性(柔らかさ)」と「コントロール(硬さ)」の最適な均衡点を見つけ出すことにあるわけですね。

Image:Ferrari
進化する足回り〜磁性流体からアクティブ制御へ
フェラーリは長年、最先端のサスペンション技術を追求してきたという歴史をもちますが、ここでその進化の歴史を振り返ってみましょう。
- セミアクティブサスペンションの登場(1995年〜): ベルリネッタモデル(F355など)にオプション採用され、速度や加速度、ドライバーの選択モードに応じて電子制御ユニットがダンパーの硬さを調整できるように
- 磁性流体ダンパーの革命(2006年): 2006年の「599 GTB フィオラノ」において、大きな転換点を迎え、ダンパー内のオイルに鉄粉(磁性粒子)を混ぜ、磁場をかけることでわずか数ミリ秒の間にオイルの粘度を変化させる画期的なシステムが導入される。これにより、ステアリングにあるマネッティーノ・ダイヤルから瞬時に足回りの性格を変えることが可能に
- FAST(フェラーリ・アクティブ・サスペンション・テクノロジー): そして現在、さらなる進化を遂げた「真のアクティブサスペンション」が登場。これは従来のショックアブソーバーにエレクトリックモーターを直結させたフェラーリ独自のソリューションで、例えばタイヤが穴に落ちそうになった瞬間、リアルタイムでそれに逆らう力をモーターが加え、車体をフラットに保つというロジックを採用

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最新モデルを支える驚異のスペック
最新のアクティブサスペンション(FAST)では、フェラーリのラインナップの中でも特に注目すべきモデル「プロサングエ(Purosangue)」と最新スーパーカー「F80」に搭載されています。
【プロサングエ搭載 FASTの驚異的なスペック】
プロサングエはフェラーリ初の4ドアモデルであり、重心が従来のスポーツカーよりも高いため、通常であればコーナリング時のロール(横揺れ)やピッチ(縦揺れ)が大きくなってしまいますが、FASTによってこれを完全に無効化している、というわけですね。
| 項目 | スペック詳細 |
|---|---|
| 制御方式 | 48V電気モーターによるアクティブ制御 |
| 測定頻度 | ホイールダイナミクスを1秒間に200回測定 |
| 反応速度 | 0.05秒ごとにピストンロッドの高さを調整 |
| 出力 | 5kN(キロニュートン)以上の強力なフォースを発生 |
| 効果 | ロールとピッチをほぼ完全に相殺し、荷重を適切にタイヤへ移動 |

【スーパーカーにおける空力との融合】
一方、究極の空力性能を持つ最新スーパーカー「F80」において、FASTは「快適性」よりも「ダウンフォースの維持」のために機能するといい、車高の変化を極限まで抑えることでフラットな車体底面の空気の流れを常に理想的な状態に保つころができ、 さらには足回りの部品(ダブルウィッシュボーン)はジェネレーティブデザイン(AIなどを活用した最適化設計)と金属3Dプリント技術によってマラネロ(フェラーリ本社)で製造されて、極限の軽量化と高剛性を両立しています。
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90年のレース経験が導く「四輪独立制御」の未来
フェラーリのサスペンション技術の根底には、90年以上にわたる過酷なモーターレーシングの世界で培われた圧倒的なノウハウがあり、機械工学の極致とも言えるハードウェア、そしてそれを1秒間に何百回も緻密に操るソフトウェアが融合することで、フェラーリは「スポーツカーは乗り心地を我慢するもの」という常識を過去のものとしています。
さらに驚くべきことに、次世代のフルEVモデル(電動パワートレイン搭載車=ルーチェ)のアーキテクチャでは、4つのモーターと4輪操舵を組み合わせることで、各車輪の縦・横・垂直方向の力をすべての動的条件下で完全に独立制御できるようになるとされ、これは「FAST」の進化系ともいえるもの。
フェラーリが目指すのは、ドライバーのあらゆる欲求に完璧に応える「幸福な結合」で、次にフェラーリを見る機会があれば、美しいボディデザインだけでなく、路面と絶えず行われている「見えない対話(The Invisible Dialogue)」にも思いを馳せてみるのもいいかもしれません。
そこには、クルマを愛する人々を魅了してやまない最先端の魔法が隠されていることは間違いなく、そして「それと気づかせない」ところにフェラーリの真髄があるのでは、とも考えています。

なお、フェラーリの目的は(おそらく)速く走ることにあるのだと思われ、そのためにマネッティーノを取り入れ、F1トランスミッションを採用し、電子制御デフを組み込み、車体を安定させるサスペンションを開発し、そしてそれらを「統合して制御するため」の電動化にも踏み切っています。
そしてサスペンションにおける「快適性」に言及するならば、多くの人が「乗りにくいのがスポーツカー」「スポーツカーは乗りにくくてナンボ」「スポーツカーに快適性を求めるな」と考えるのとはまったく逆に、レーシングドライバーとしては「快適なクルマ」を望んでおり(そのほうが身体的負担が小さく、集中力を維持できる)、それは2026年のF1で問題となった「アストンマーティンF1の振動問題とアロンソの走行中の挙動」を見るとわかりやすいかもしれません。
つまるところ、フェラーリにとっての「快適性」とは、速く走るためのひとつの(しかし重要な)要素であり、快適なクルマを作ろうとするのではなく、速く走ろうとするがために「快適なクルマを」作ろうとしている、というわけですね(それは目的ではなく手段である)。※「速いクルマとは、快適なクルマである」と言った人もいる

フェラーリがサスペンション技術を解説する動画はこちら
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