| やはりポルシェは「水平対向6気筒」「自然吸気」でないとダメ? |
さて、2019年通年での販売で顕著となったのが「718ケイマン/ボクスターが売れない」という事実。
北米においては911の販売台数が前年とほぼ変わらなかった(911はモデルチェンジのために一時供給がストップしていた)のに対し、ずっと生産と供給がなされていた718ケイマン/ボクスターの販売がなんと26%も減少した、と報じられています。
この理由は定かではないものの、いくつか「考えられる」理由は存在していて、ここでその理由を考えてみましょう。
ポルシェの主役はもはやカイエン!2019年の北米では36%の構成比。一方718ケイマン/ボクスターは26%も販売が下がり影響力を失う
そもそも4気筒はポルシェのスポーツモデルに許されない?
718ケイマン/ボクスターはそれまでの「981ケイマン」「981ボクスター」からのモデルチェンジという扱いとなり、コードネーム自体は「982」。
じゃあ718ってなんなのということになりますが、オリジナルの718の歴史は1957年にポルシェが550スパイダーを改良して作ったレーシングカー「718RSK」にまで遡ることが可能です。
そしてなぜポルシェが新しいボクスターとケイマンに「718」という名称を与えたのかということについて、これは「4気筒化のためのエクスキューズ」。
718シリーズは水平対向4気筒ターボエンジンを搭載していますが、これは981までに採用されていた水平対向6気筒自然吸気に比較するとじつにドラスティックな変更です。
もちろんポルシェ自身も「水平対向6気筒」「自然吸気」エンジンの(商業的)重要性を理解していたと思われ、よって4気筒ターボ化にあたって、これまでのファンの反発は必至だと考えていたはず。
そこで反発を抑え込むための「理由付け」が、過去に活躍したレーシングカー、718(水平対向4気筒をミドシップマウント)だったということですね。
つまり718ボクスター/ケイマンはフラット4をミドマウントしたスポーツカーであり、そのルーツはポルシェの歴史の一部でもある”レーシングカー”として718シリーズまで遡ることができて、6気筒から4気筒へとダウンサイジングされたものの、むしろ原点に回帰したピュアなポルシェであると主張したかったわけですね。
ただ、それでも718ケイマン/ボクスターの4気筒化は市場に受け入れられなかったと見え、モデルチェンジ前の981ボクスター/ケイマンの中古価格が大きく上昇したことでもそれは判断可能。
そしてとくに北米や欧州、日本など、昔からのポルシェマニアが多い国や地域で718が好意的に受け止められることはなく、その結果として718の販売が落ち込むことになったと思われますが、ポルシェはそこで718ケイマン/ボクスターについて、「(4気筒ミドシップの元祖である)914の系譜」というキャンペーンも展開。
ただ、それでも718シリーズの販売は回復しなかったようですね。
ポルシェは50年も前にミドシップスポーツ「914」を発売している。当時「最強のミドシップ」と言われた914、そして現代の718までの流れを見てみよう
ちなみに914は(911より)安価にて販売することを目的にフォルクスワーゲンと共同にて開発され、フォルクスワーゲン製の4気筒エンジンを搭載。
そのため「ワーゲンポルシェ」として認識されることになり、古くからポルシェが販売されている地域においては「4気筒ポルシェはポルシェ本来の姿ではない」という認識が潜在的にあるのかも。
ちなみにポルシェの歴史が古くはない中国においては「ワーゲンポルシェ」が知られていないためか、”4気筒”のイメージがスポイルされていないと見え、718シリーズの販売好調が伝えられています。
ポルシェ「718シリーズは中国市場抜きではもはや成立しない」。なぜ中国で急にケイマンとボクスターが売れるようになったのか?
やはりポルシェのエンジンは自然吸気?
そして718シリーズが受け入れられていないもうひとつの理由は「ターボエンジン」。
ポルシェは比較的早い時期から(BMWと並んで)ターボエンジンを市販車に採用してきたという経緯があり、それはレーシングカーにおいても同じ。
ただし現代においてはGT3系に採用される自然吸気エンジンのインパクトがあまりに強すぎるためか、「ポルシェのエンジンはNAでないと」という人も多数。
これはひとえに「ターボラグ」を嫌うためではありますが、実際に718ボクスター/ケイマンのターボエンジンはターボラグが大きく(911のエンジンとは異なりターボラグ解消デバイスが採用されていないということもある)、これは理解のできるところでもあります。
なお、911は現在GT3系を除くとすべてターボエンジン化されていて、911最強モデルのGT2RSもやはりターボ。
そしてレーシングカーの911RSRもターボ化されていて、これらについては批判もなく、市販モデルの911シリーズについてはセールス好調、そして911RSRの戦績も優秀という状況です。
それを考えるに、「ターボエンジンだから受け入れられていない」というよりは、NAのフィーリングが感じられずターボラグの大きい718ボクスター/ケイマンのエンジンが受け入れられていない、ということなのかも。
実際のところ718に積まれるターボエンジンは「ポルシェらしい」鋭い吹上がりがなく、かつスコンとタコメーターの針が下がる回転落ちもないため、これは今までずっとポルシェに乗ってきた人からすると「え?」と感じられる部分だとは思います(実際にぼくもそう思う)。
ただ、718は「2リッター」化されたことで自動車税が安くなり、燃費についても981に比較して1割ほど優れ、パワー/トルクにおいても981よりも上(サーキットでのタイムについても、718のほうが圧倒的に速い)。
参考までに、ぼくは981ボクスター、そして718ケイマンの両方を所有してきたわけですが、どちらがいいかと言われると「718」を選びます。
サウンド、エンジンのフィーリングについて981が優れることは疑いようがありませんが、実用域においては718に分があり、かつ常に加給をかけるうような回転数で走れば718の走りは痛快そのもの。
よってぼくは718のほうがいいと判断していて、もっと売れてもいいクルマだと考えているのですが、それだけに現在の718の状況についてはちょっと「正当に評価されていない」とも捉えているわけですね。
こうやって考えてみると、718シリーズが「売れない」のはクルマの出来が良くないせいでもなく、また他のライバルに押されているわけでもなく(これは数字が証明している)、つまり「718シリーズはポルシェの名がつくがために、ポルシェが過去に築いてきた成功体験に沿っていないことで評価を受けられない」。
たとえば944や968が「非常に優れたFR」であり、もしポルシェ以外の自動車メーカーから発売されていたら絶賛されていたであろうと考えていますが、944や968はポルシェから発売されてしまったがために「911の影に隠れ」大きな評価を得られなかったのとよく似ているのかもしれません(そしてポルシェ=911であり、911に採用されるフラットシックス、リアエンジン以外は受け入れられにくい)。
そして、それに対するポルシェの新たな回答が「6気筒自然吸気エンジンを積む、718ケイマンGTS4.0」なのでしょうね。
ポルシェが突如「718ケイマン/ボクスターGTS」の4リッター自然吸気6気筒版、”GTS4.0”発表。やはり4気筒ターボエンジンは不評だった?