| フェラーリのデザインほどやりがいと重責とが同居する仕事はないだろう |
そのおかげでフェラーリはどのクルマでも「フェラーリ」に見える
さて、フェラーリが296GTBのデザインプロセスを公式コンテンツとして公開。
ぼくがいつも不思議に思うのは、フェラーリは348や355のようなウエッジシェイプを持つ世代、そしてその後の360モデナやF430のように抑揚を持たせた世代、そしてその後の458イタリアや488GTBに代表される「縦長」ヘッドライト世代、そして最新の「横長」ヘッドライト世代であっても、そこに共通性はほとんど見いだせないにも関わらず「フェラーリに見える」ということ。
そう考えると、フェラーリをフェラーリらしく見せているのは「ポルシェ911を、911らしく見せている最大の要素であるカエル顔」のようなアイコニックなディティールによるものではないと考えられ、フェラーリのイメージを決定づけるのはそのクルマ全体の持つ雰囲気というかプロポーションなのかもしれません。
フェラーリをデザインするということは大変な仕事である
そして「フェラーリをフェラーリらしく見せる」のに必要なものが具体的なディティールではないとすれば、デザイナーたちが新しいフェラーリをデザインするたびに大変なチャレンジに直面するであろうことは想像に難くなく、過去をリスペクトしながらも、先代モデルの持っていた要素をいったん破壊するところから始めなくてはならないのかもしれません。
そして今回フェラーリが公開したのが「いかにしてフェラーリのデザイナーたちは296GTBのデザインを行ったのか」というコンテンツ。
なお、フェラーリ296GTBのエクステリアデザインを主導したステファノ・デ・シモーネ氏によれば「市販モデルの296GTBは、オリジナルのデザインスケッチの80%が実現されている」とのこと。
なお、現在フェラーリにてチーフデザイナーを務めるのはフラビオ・マンツォーニ氏ではありますが、同氏のもとには多くの若手デザイナーたちが働いており、今回296GTBののデザインを担当したのはそれぞれ「ジェネレーションX」と「ミレニアル世代」のカルロ・パラッツァーニ氏(エクステリア)とアンジェロ・ニヴォラ氏(インテリア)。
296GTBの基本デザインは1年ほどで決定されたといいますが、ここで役に立ったのはAIによる設計であり、アシスタントを務めたのはステファノ・デ・シモーネ氏、ジェイソン・フルタード氏、エイドリアン・グリフィス氏(この中からのちの有名デザイナーが誕生するかも)。
しかしそこから各コンポーネントをそのデザインに技術的にフィットさせ成熟させる必要があり、このステップまでを含めるとデザインを最終的に完成させるまでに3年を要したとされています。
参考までに、AIが設計段階に導入されていない2000年前後だとこの倍の時間つまり6年かかっていたそうですが、一方で1960年代では「最初のスケッチ作成から3ヶ月でプロトタイプを製作し路上に送り出していた」そうなので、デザインのプロセス、それに要する時間は時代とともに大きく変わっているということもわかります(1960−1970年代では、デザイナーとエンジニアががっぷり四つに組んで共同作業を行ったそうだが、その後デザインとエンジニアリングが分業にて進められるようになっている)。
フェラーリ296GTBのテーマは極めてシンプル
なお、フェラーリ296GTBのテーマは開発段階から「ファン・トゥ・ドライブ」に定められていたといい、これは発売されたその後のプロモーションに用いられているものと同じであり、つまり296GTBは当初から一貫したコンセプトを持っているということになりますね(ほか自動車メーカーだと開発と販売現場とがバラバラな例もあり、開発が終了しいざ販売となってから後にコンセプトが付け加えられるケースもある)。
これは自動車の開発において非常に重要なことで、他の例だとジムニーはそのキャラクターである「サイ」を常に開発メンバーに意識させていたといい、ホンダ・オデッセイは低く躍動感のあるフォルムを実現するため、開発に関連する書類にすべて黒豹がプリントされていたとも言われます。
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話をフェラーリ296GTBに戻すと、明確なコンセプトに従いデザイナーたちが奮闘することになり、エクステリアだとホイールベースの短縮、シンプルさと調和を追求したフロント、筋肉質なリアフェンダーに設けられた力強いエアインテーク、さらにはボデイ表面を流れる光の移ろいにまで注意を払うことに。
参考までに、フェラーリは「ファン・トゥ・ドライブ」を決定する要素を数値化しているそうで、主には「ハンドル操作に対する反応、ハンドル操作に対するリアアクスルの反応、ひいては扱いやすさを決定する横加速度」「アクセルペダルに対する反応の速さと滑らかさを示す縦加速度」「変速時間やギアチェンジのフィーリング」「ブレーキペダルの踏み込み量と反応」「車室内の音の大きさや質感、回転数の上昇に伴うエンジン音の変化」という5つの要素をにて「ファン・トゥ・ドライブ度」を測っている、とのこと。
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ドライビングの楽しさはステアリングホイールを通じて伝わってくる
フェラーリ296GTBのインテリアをデザインする過程においてもファン・トゥ・ドライブが第一義に掲げられており、フェラーリのスポーツ・カー・インテリア・デザインの責任者であるアンジェロ・ニヴォラ氏によれば「ファン・トゥ・ドライブを実現するに際し、インテリアでは全体のボリュームをコンパクトに保つという決断が第一のステップとなりました。なぜなら、最も身体的な楽しさとして知覚されるドライビング・プレジャーは、ステアリングホイールから伝わってくるものだからです」。
その後はインテリアのディティールを決定してゆくことになりますが、まっさきに決定されたのは「メーター」で、ここで重要視されたのは「正しい位置にあること」。
これによってドライバーの視界や集中力が適切に保たれると述べていますが、フェラーリはさすがにモータースポーツがその根幹にあるためか、視界については相当なこだわりを持っているようにも思います(ただ、ピニンファリーナからインハウスデザインに移行した後、後方の視認性がちょっと悪くなったようではある)。
こうやって完成したフェラーリ296GTBですが、カルロ・パラッツァーニ氏はこのクルマをして「296GTBのリヤ・スリー・クォーター・ビューは、この50年間のフェラーリのデザインの歴史において最も成功を収めたものの1つ」と自信を見せており、審美的な側面(美しさ)と技術的な側面(放熱性やダウンフォースなど)とを融合させた”完璧なものである”と強調していますが、ぼくがもっとも驚くのは、オープンモデルである296GTSが296GTBよりもセクシーで美しい(リアセクションの)デザインを持っていることで、「よくあのボディ形状でリトラクタブルハードトップを実現したものだ」と今でも感心しているわけですね。
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参照:Ferrari