| ブガッティEB110を生み出したのはカウンタックの主要メンバーであり、EB110はカウンタックと同様に新しいアイコンとなる |
まさに「比類なきものであれば、それはもはやブガッティではない」を実現した人だった
さて、先日ブガッティは「チェントディエチの最後の一台の生産を終えた」と発表したところですが、今回はそのオマージュ元となったEB110を企画した張本人、ロマーノ・アルティオリ氏に関するコンテンツを公開しています。
なお、ブガッティはチェントディエチの企画に際してロマーノ・アルティオリ氏にヒアリングを行ったといいますが、その後なんらロマーノ・アルティオリ氏に連絡をしないままチェントディエチを製品化してしまったそうで、しかしこれについて同氏は「自身の作ったクルマが現代のブガッティに取り上げられることは非常に光栄だ」と語る心の広さを見せています。
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「ブガッティがEB110へのオマージュ発売」というウワサを、EB110を世に送り出した本人はどう考えるのか?そのインタビューが公開に
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ロマーノ・アルティオリはこんな人物
そこで今回ブガッティが紹介する「ロマーノ・アルティオリその人」について触れてみたいと思いますが、ロマーノ・アルティオリ氏は幼少の頃から自動車に対して強い興味を持っていたといい、学校では機械工学を学んだ後、自動車の修理に携わり、やがて自動車小売・輸入業を立ち上げます。
1980年代半ばには、このビジネスが成功し、フランス政府との間でブガッティブランドの買収の話が持ち上り、そして1987年、ついに子供の頃に抱いていた夢が現実のものとなったわけですね。
ただ、同氏がブガッティ本社をフランスではなくイタリアに構えたのには理由があり、それは「イタリアには大勢の優秀なエンジニアが存在したから」。
これはもちろん、フェラーリ、ランボルギーニ、そしてマセラティといったブランドが(モデナという一つの地域に)存在し、かつそれらに製品を納めるためのサプライヤーが集中していたということを意味しますが(そのため、現代でも同じ理由でイタリアはモデナにてスーパーカー会社を興す例が多く見られる)、フランスにはそういったエンジニアや企業が存在せず、ブガッティ創業者であるエットーレ・ブガッティの掲げた「比類なきものであれば、それはもはやブガッティではない」を実現するため、最も優秀なエンジニア、一流の技術者、最高の設備、そして最も先見の明のあるデザイナーを求め、イタリアのモデナに「アウトモビリ・ブガッティ」を設立することとなったわけですね。
そして1980年代後半から数年間をかけ、フェラーリ、マセラティ、デ・トマソ、ランボルギーニに隣接する24万平方メートルの敷地に、徹底した計画のもと、世界で最も近代的な自動車生産工場が建設され、ここには管理棟、デザインスタジオ、エンジン・テスト開発エリア、生産ホール、テストコース、スタイリッシュな食堂、展示スペースなどが揃っていたといいます。
ただ、ブガッティが成功するためには、家族的な雰囲気やコミュニティが重要であることも同氏は知っており、そこで同世代のエンジニアやデザイナーを中心に、結束の固いチームを作り上げたることになるのですが、このチームの中にはランボルギーニ・カウンタックを生み出したマルチェロ・ガンディーニ、パオロ・スタンツァーニ、フェラーリでエンジニアを務めたニコラ・マテラッツィ、そして若き日のオラチオ・パガーニ、後にランボルギーニにて技術主任となるマウリツィオ・レジャーニも含まれていたといい、このときのメンバーの一部が中心となって「パガーニ・アウトモビリ(1992年)」が設立されています。※このアウトモビリ・ブガッティが存続したのは1995年まで
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若き情熱から歴史に残るスーパーカーが生み出される
そしてこういったドリームチームによって生み出されたのがEB110ということになりますが、EB110は、初の量産型カーボンシャシー、全輪駆動、4基のターボチャージャー、1気筒あたり5バルブ、560PSの出力を持つ3.5リッターV12エンジンを搭載しており、これはそれまでのいかなるクルマともかけ離れた存在で、エットーレ・ブガッティの110歳の誕生日(もちろん当人は亡くなっているけれど)に発表されたこのモデルは、瞬く間に人々の度肝を抜くことに。
そしてそのあまりの先進性は自動車評論家をしても「うまく表現できなかった」とも言われていますが、その後新しく設立された(フランスの)ブガッティ・オトモビルから発売されたヴェイロン、シロンにおいてもその多くが引き継がれ、そして今なおブガッティがトップに君臨していることからも、「いかにEB110が先を行っていたか」もわかります。
現代のブガッティにてデザインディレクターを務めるアキーム・アンシャイト氏によれば、「ロマーノ・アルティオリはブガッティというブランドを愛していますが、それ以上に、ブガッティを深く理解しています。ブガッティを買収したとき、彼は、単に他社の模倣をするようなクルマづくりは、創業者の精神にそぐわないと考えていました。みんなが公道用のレーシングカーを作っている中で、彼が考えたのは、究極のGTを作ることを追求することだった。そして、ロードカーにはない技術と、時代を超えたエレガントなデザインを持たせたのです。あらゆる意味で、ブガッティの真骨頂といえるでしょう」と語っています。
実際のところ、このコメントはロマーノ・アルティオリ氏を端的に表しており、「比類なきものであれば、それはもはやブガッティではない」を本質で理解していたと考えてよく、EB110(エットーレ・ブガッティの110歳)という社名、設立当初のブガッティが採用していたホースシューグリルの再現(これを用いるかどうかでデザイナーのマルチェロ・ガンディーニと揉め、ホースシューグリルを取り付けたくなかったガンディーニはチームから去ってしまう)、そして上述のような「前例がない」メカニズムなど、その例を挙げればキリがないほど。
なお、ロマーノ・アルティオリ氏は同時期にロータスも買収していますが、そこで発売したのが「エリーゼ」。
これは軽量シンプルというロータスの哲学を地でゆくようなクルマであり、「E」ではじまる車名も受け継ぐなど、(デビッド・ウィッケンスやGMなど)歴代のどのロータスの経営者よりも、ロータス創業者であるコーリン・チャップマンの思想に近いクルマを作っていたと理解しています。
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ミハエル・シューマッハもブガッティEB110のファンだった
そしてブガッティEB110に話を戻すと、アキーム・アンシャイト氏いわく「その結果、EB110は、どんな立場の愛好家にもすぐに受け入れられました。このクルマは、自動車そしてスーパーカーのアイコンとなった。そして、ブガッティの新しいレガシーとなることを望む愛好家たちの憧れとなったのです。当時、EB110の最大のファンはミハエル・シューマッハで、彼は1994年にイエローのEB110 SSを購入しています」。
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そして時は移って現代のブガッティ・オトモビル(これはロマーノ・アルティオリとは全く資本関係がなく、フォルクスワーゲンが商標権を取得して新しく設立した会社で、資産もひきついでいない)が”世界初”のハイパーカーであったEB110の意思を引き継ぐチェントディエチを10台のみ限定で発売することとなったわけですが、これは(会社としての)ブガッティ設立110周年記念となるハイパーカーであり、この「110」というところがEB110との大きな共通点となっています(EB110の”110”は、ブガッティ創業者の生誕110周年)。
上述の通り、現代のブガッティは、EB110へのオマージュとして制作された「ブガッティ・チェントディエチ」のリサーチ段階において、ブガッティのチームは何人もの(EB110の)オリジナルクリエイターに話を聞くことになりますが、その多くが涙ながらにその時のことを語ってくれたといい、当時の工場には、いかに倒産という憂き目を見たとしても、今でも作業台の上に工具が残り、壁にはカレンダーが掛けられていて、「この場所を去るのが最後」という思いは彼らの誰一人として持っていなかったといい、ロマーノ・アルティオーリが大切に会社に組み込んでいたその家族やコミュニティの感覚は、今も決して色あせることはないのだ、とも述べています。※アウトモビリ・ブガッティから、ブガッティ・オトモビルに移ったメンバーも少なくない
「今日のブガッティは、ロマーノ・アルティオーリに感謝しなければならないことがたくさんあります。彼は、私たちのブランドに対する情熱にあふれた、とても温かい人です。80年代にブガッティを復活させ、現代におけるブガッティのビジョンを定義した彼の寛大さが、ヴェイロンの誕生と今日のブガッティらしさの基礎を築いたのです」。
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参照:Bugatti