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【解説】自動車メーカーが仕掛ける「速さの錯覚」──なぜ「速く走っても速度感が希薄」あるいは「それほど速くなくても速く走っている」と感じる車があるのか?

【解説】自動車メーカーが仕掛ける「速さの錯覚」──なぜ「速く走っても速度感が希薄」あるいは「それほど速くなくても速く走っている」と感じる車があるのか?

| おそらくそれは「複合的」な理由であり、定量的に解を見いだせるものではない |

そして、それを意図的に演出できる自動車メーカーほど「クルマを知り尽くしている」自動車メーカーなのであろう

さて、いろいろなクルマを運転していると感じるのが「速度感の差」。

同じ速度で走っていても、あるクルマは「それよりも速く走っているように感じられ」、またあるクルマは「その速度よりもゆっくり」走っているように感じられます。

ぼくは常々、そういった「差」はどこからくるものなのかと考えているわけですが(いまだに有効な解は導き出せていない)、今回CARBUZZが一つの見解を示しており、ここでその内容を見てみましょう。

自動車メーカーは、ドライバーが「どう感じるか」を考えている

自動車メーカーは単に「A地点からB地点まで移動できる乗り物」を作っているわけではなく、彼らは徹底して「感情に訴えかけるクルマ」を目指し、デザインや走り、音や振動までも利用して「実際以上に速く感じさせる」仕掛けを盛り込んでいます。

加速感──小さなエンジンでも体感は爆発的

自動車を速く感じさせる最初のポイントは「加速感」。

最高速度そのものよりも、加速する際にどれだけ体にGを感じるかが重要になり、たとえば1976年の初代フォルクスワーゲン・ゴルフ、とくにGTI Mk1に搭載されるる1.6Lエンジンはわずか110馬力しかなく、しかし軽量ボディと短いギア比によってスタート時のトルク感が強調され、数字以上の加速を体感させることに成功しています。

Volkswagen Golf GTI

Image:VW

サウンド──音が速さを錯覚させる

エキゾーストノートは「速さの錯覚」を作る最も強力な要素のひとつ。

ヒョンデ・アイオニック 5 Nのようにチューニングされた排気音や電子的なサウンド演出を活用することで実際以上にパワフルに、あるいは速く感じさせることができることが証明されてますが(実際にこれはパワフルで速いクルマではあるが、スピードをさほど出していなくてもよりパワフルに、より速く感じられる)、逆に「マフラーを替えていて」すごくうるさい音を出しているのに遅いクルマを見ると、「必要以上に遅く」感じるのもそれを証明する事例であると言えそうです。

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さらに振動やステアリングから伝わる微細な感覚もドライバーの「走っている実感」を増幅させる仕組みであり、トヨタやフォードはこういった「振動」をEVにももたらすことを考えているようですね。

フォード「も」EV向けフェイクシフトに関する特許を出願。シフトレバーにモーターを内蔵し「ガソリンエンジンっぽい振動」「操作時の抵抗」を再現するもよう
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ドライビングポジション──低いほど速く感じる

人間の視覚は「地面との距離」に強く影響されるといい、ロータス・エリーゼのような低い着座位置のクルマは、速度が同じでも景色が流れるスピードが速く感じられ、この「ローダウン効果」によって、数字以上のスピード感を演出することも可能です。

ただ、バイクに関しては「同様のことが言えるわけではない」ようで、同じような出力を持つ「オフロード系バイク(シート位置が高い)」と「ビッグスクーター(シート位置が低い)」では、オフロード系バイクのほうが速度感が高いように感じられ、これは「安定感」や「振動」といった他の要素のほうが大きく関係しているからなのかもしれません。

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スロットルレスポンスとギア比──反応の速さが「俊敏さ」を作る

ホンダ・シビックタイプRのようなモデルでは、アクセルペダルに対して敏感なスロットルマップとクロスレシオのトランスミッションを組み合わせており、これによって実際の出力以上に「速くて機敏」な印象を与えていますが、他のクルマであっても「ドライブモード」の変更によって「自分が行った操作よりも、機敏な反応を示す」よう性格を変えることで”感覚よりも速く”感じさせています。

つまるところ、「ドライバーが予期した以上」のレスポンスを実現することができれば、それはすなわち「速い」と感じさせることに成功している、といえそうですね。

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ハンドリング──軽快感が速さの演出に直結

1960年代の初代ミニクーパーは、その軽量ボディとダイレクトなステアリングによって「まるでコ゚ーカートのような走り」だと評されていますが、直線加速は「普通のクルマ並み」であっても、ワインディングロードでは圧倒的に速く感じられ、それは安定したハンドリングが生み出す錯覚効果だといえそうです。

そしてこの安定感とは「ロールの少なさ」に置き換えることができるかもしれず、本物のゴーカート(レーシングカート)は「さらに実際の速度よりも体感速度のほうが速く」、これはそのキビキビしたステアリング、全くロールしないという性質、さらには「ほぼ地面の上に座っている」ようなシートポジションの影響によって「より速い体感速度」を生み出しているのかもしれませんね。

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Image:MINI


環境要因──道路や景色も「錯覚」を作る

こういったクルマそのものの持つ要因のほか、狭い山道や並木道では景色が目の端を素早く流れるために実際より速く感じることがあり、逆に高速道路のように景色の変化が少ない環境では、同じ速度でも「遅く」感じられる傾向も。

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メーカーは「錯覚」で私たちをだましているのか?

もちろん、こういった速度感の演出あるいはコントロールにつき、「だまし」だと断じることは出来ず、各自動車メーカーはオーナーが「(法規や道路事情など、限られた条件や制約の中でも)走りの楽しさ」を最大限に体感できるよう、サウンドやシートポジション、スロットルレスポンス、サスペンションに至るまでを細部を調整している、ということに。

たとえばメルセデス・ベンツ Sクラスは「静かに速く」を重視し、ケータハム セブンは「60km/hでもレーシングカーのように」感じさせる方向性を採用しているそうですが、つまり、各ブランドは意図的に「速さの錯覚」を演出し、自身のブランドのコアバリューに従い、顧客満足度を高めているというわけですね(これは重要なファクターであり、同じ速度であっても、メルセデス・ベンツは”よりゆったり”、ケータハムは”より速く”感じさせる演出を心がけている)。

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さらにいうなれば、同じポルシェ911であっても「911ターボ」と「911GT3」では、同一の速度で走行した際、同一のタイムをもって加速した際の「感じ方」がまったく異なるはずで(同じモデルでも、”素”と”S”ではフィーリングが全く異なる)、こういった「差」を意図的に、そして思うように演出できる自動車メーカーほど「優れた自動車メーカーであり、より楽しいクルマを作ることができる」のだとも考えられます(一方、どのクルマに乗っても、同じような感覚しか得られないクルマを作る自動車メーカーも存在する)。


まとめ──速さは数字ではなく「感覚」

結局のところ、自動車の速さとは「数字」ではなく「体感」が大きな役割を担っていることは間違いなく、メーカーは心理学や物理学を駆使して、ドライバーに「速さ」を実感させる工夫を積み重ねてきたというのがその歴史の一端です。

よって、次に試乗したクルマで「想像以上に速い」と感じたとき、それはメーカーの緻密な戦略によってもたらされる「錯覚」なのかもしれません。

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参照:CARBUZZ

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