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マセラティ「ソリッドステートバッテリー(全固体電池)は性能上の懸念があり、我々は使用しないことを決定した」。EVであっても各社各様の考え方があって面白い

2023/02/20

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| どうやらソリッドステートバッテリーは「一気にパワーを放出すること」に向いていないようだ |

一方では軽量性や安全性、密度に優れるというメリットも

さて、現在は多くの自動車メーカー、そしてバッテリーメーカーがソリッドステートバッテリー(全固体電池)の採用を目指し開発に取り組んでいる状況ですが、今回マセラティにて技術部門を率いるダヴィデ・ダネシン氏が「ソリッドステートバッテリーの採用は性能面を理由に見おくる」という興味深いコメントを発しています。

このソリッドステートバッテリーは「EVの未来」だとも目されていて、一般的なリチウムイオンバッテリーに比較して2倍のエネルギー密度を持ち、充電速度も3倍程度へ、さらに(生産が軌道に乗れば)そのコストもリチウムイオンバッテリーの半分程度になると言われており、よってこれを搭載すれば重量やコスト、そして利便性の観点から見ても「ガソリン車と遜色のない」もしくはガソリン車よりも優れるクルマができると言われているわけですね(さらには発火の可能性が非常に低く安全だと言われている)。

なぜマセラティはソリッドステートバッテリーに「NO」なのか

そこで気になるのが、なぜマセラティはこの夢のようなバッテリーに「NO」と言うのか。

その理由はちょっと興味深いもので、マセラティによれば、ソリッドステートバッテリーの放電特性はマセラティの求める性能を達成するには「不十分」だから。

今までにそういった話題が出たことはないと記憶していますが(そこまでソリッドステートバッテリーの実用化について踏み込んだ議論がなされなったからなのかもしれない)、今回その詳細について語られていないものの、いかにエネルギー密度が高くともソリッドステートバッテリーは「一気に放電」することに向いていないのかもしれません。

なお、ダヴィデ・ダネシン氏はグラントゥーリズモの開発において、そのガソリン版(モデナ、トロフェオ)と電動版(フォルゴーレ)両方の開発を主導してきた人物であり、こういったコメントが出るからには、当然その開発段階においてソリッドステートバッテリー試したのだと考えてよく、その結果を踏まえての判断なのでしょうね(マセラティを擁するステランティスでは、2026年にソリッドステートバッテリーの実用化を目指しており、かなりの段階まで研究が進んでいるものと思われる。速度が要求されないクルマには向いているのかも)。

Maserati-GranTurismo (3)

ソリッドステートバッテリーをスポーツカーに積むには何らかの解決策が必要?

ダヴィデ・ダネシン氏によれば、「ソリッドステートバッテリーは軽量なので、パワーウエイトレシオの面では有利です。ただしその放電特性は、フォルゴーレが望ましい性能を発揮するために十分ではない」。

そしてこの放電特性(電流なのか電圧なのか、それとも制御の問題なのか)にすぐれないという判断によって、マセラティは結果的に「リチウムイオンバッテリー+トライ(3)モーター」というセットアップを有することとなったわけですが、たとえ重くなったとしてもパフォーマンスを向上させる方法を見つけたと考えてよく、その運動性能には見張るものがあり、たとえば0-100km/h加速だとポルシェ・タイカン・ターボSよりも0.1秒速い2.7秒、最高速ではタイカン・ターボSよりも60km/hも高い320km/hを誇ります。

もちろんタイカン・ターボSにとっても「この数値が限界」というわけではなく、しかしバッテリーの消耗を考慮すると「この数値に留めざるを得ない」という理由からこの数字となっているわけですが、マセラティ・グラントゥーリズモ・フォルゴーレはこのパフォーマンスであってもバッテリーの消耗を抑えることが可能なのかもしれません。※ポルシェの場合は、サーキットでの速さも考慮しているのでバッテリー容量をあえて抑えているという側面もある

Maserati-GranTurismo (2)

ちなみにですが、ポルシェはバッテリーの消費を抑えて加速と最高速とを両立させるために「2速トランスミッション」をリアアクスルに持つ2モーターという構成、グラントゥーリズモ・フォルゴーレはフロントに1つ、リアに2つのモーターを持ち、トランスミッションは「なし」。

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同じパフォーマンス志向のピュアEVでも大きく構成が異なるのは面白いところで、さらに最近マクラーレンは「ひとつのアクスルに3モーター」という他に例を見ない特許を出願しており、ここへ来てエレクトリックパワートレインに対する考え方の相違が出てきているのは非常に興味深い、と思います。

Maserati-GranTurismo (15)

そう考えると、今後ソリッドステートバッテリーが実用化されるとして、マセラティ・グラントゥーリズモ・フォルゴーレのように「それを取り入れない」スポーツカーもあれば、これを取り入れ、しかしマセラティの懸念する「放電特性」をカバーするための策を盛り込んだクルマが誕生することも考えられます。

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そしてその懸念を解消するためには、もしかすると効率的にパワーとトルクを引き出すための「マニュアル・トランスミッション(オートマチックでもかまわない)」が導入されたり、はたまたモーターのサイズやレイアウトなどが(リチウムイオンバッテリーを持つEVと)変わってくるのかもしれませんね。

いずれにせよ、ピュアエレクトリックカーは「どこのメーカーが作ってもあんまり変わらないんじゃないか」と考えたものの、意外とメーカーそして車種ごとの差異があるようで、今後出てくるEVについても、その構造や考え方については注視してゆきたいと思います。

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参照: Autonews Europe

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