| もしかすると生きているうちには合成燃料が普及する未来はやってこないのかもしれない |
まだまだ各業界や政府の「合成燃料に対する意識」が低く、補助や投資が進まないようだ
さて、一時期に比べるとちょっと落ち着いたものの、流れとして止めることができないのが「自動車のゼロエミッション化」。
その主な手段は電動化ですが、ポルシェはじめランボルギーニなど一部の自動車メーカーは内燃機関を存続させ、その燃料にEフューエル(合成燃料)を使用することでカーボンフリーを実現しようとしています。
そして今回報じられたのが、「個人が自動車用の燃料としてEフューエルを入手できるようになるにはまだまだ長い時間がかかる」。
これにはいくつかの理由があり、順を追って見てみましょう。
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Eフューエルの生産設備の建設には最大で5年を要する
今回、Eフューエルの「現状」について語ったのは世界有数のEフューエル生産会社、HIF (Highly Innovative Fuels) アメリカ支社のCEO、レナト・ペレイラ氏。
HIFは自動車、船舶、飛行機で使用するために、いくつかの国でカーボンニュートラルな合成燃料(Eフューエル)を生産していますが、この燃料は風力エネルギーを使用して水素とCO2から生成され、エンジンに一切手を加えずにガソリン車で使用できるため、環境に優しい方法で内燃機関を楽しみたい自動車愛好家にとって魅力的な選択肢となりえます。
このHIFはポルシェが出資していることでも知られますが、レナト・ペレイラ氏いわく「現在、Eフューエルの生産コストは非常に高いと言って良いでしょう」。
コストが高いのは、その生産のための機器が新しいからです。Eフューエルははまったく新しい技術であり、それを生産するための設備には既存のものを利用することはできません。よって高額な設備投資が必要になり、生産設備を建設するには最大で5年を要します。
つまり、お金を産まない期間が長く、しかしその間には莫大な投資が必要です。これがEフューエルがコスト高となってしまう理由であり、これを回避するには高いコストを負担する意思のあるパートナーが必要であり、かつ長期での契約が不可欠です。そしてこの契約をもって銀行へと行き、さらに多くのお金を借りることでようやく生産設備を建設することができるのです。
現時点ではこういった理由があってEフューエルに対する投資が積極的に行われず、よって設備も少ないため生産量も増加せず、そのために普及も進まないといった堂々巡り」となっているようですね。
Eフューエルはまず「航空機や船舶」用として優先的に提供されるかもしれない
続いて同氏が語ったのは「たとえ施設がいくつも完成したとしても、まず先に航空機や船舶用として提供され、個人向けの自動車用として入手できるようになるのはその後だろう」。
というのも(長距離を移動する)飛行機や船舶の動力源を電動化することは難しく、よってこれらについては内燃機関を使用するしかないということになりますが、これら航空機や船舶業界は自動車業界とは異なって「(電動化が不可能なので)電動化に投資する必要がなく」、しかしカーボンフリーに向けて動かないわけにもゆかず、よって現時点ではEフューエルが「唯一の環境的メリットをもたらす投資先」となるのだそう。
実際のところいくつかの国の政府はここに着目しているといい、欧州連合は、2030年までに空港で供給される燃料の少なくとも6%を持続可能な燃料(つまりEフューエル)で占めることを義務付けており、2050年までにその数字は70%へと引き上げられる予定です(米国では、排出量を少なくとも50%削減する持続可能な燃料ブレンドに対し、1ガロンあたり1.25ドルのクレジットが付与されるので、このクレジットを頼りにした投資も期待できる)。
そしてこういった航空機に使用する燃料のカーボンフリー化に熱心なのは「石油会社」だとされ、なぜなら石油会社の得意先は航空会社であり、そして石油会社は世間の批判をかわすためになんらかの環境対策を行う必要があるから。
よってレナト・ペレイラ氏は石油会社へと足を運び、「我々はカーボンフリーを実現することが可能な合成燃料を作ることができます。だから、我々と長期契約を結び、精製施設を建設することを助けてください」と頭を下げて回ることとなるのですが、そうやって精製したEフューエルは当然ながらまっさきに(大きな額を援助してくれた)石油会社へと回さねばならず、かくして「一般消費者が乗る自動車用」は後回しとなってしまいます。
ただ、どこかの時点で「やはり自動車をすべてEVへと置き換えるのは難しい」と判断される時が来るのかもしれず、そしてそうなれば各国の政府が「内燃機関を維持したままカーボンフリーを実現するための(今のところ)唯一の手段」であるEVフューエルの精製や輸送に関する補助を行う可能性もゼロではなく、たとえいま現在「消費者が自由にEフューエルを入手できるのは10年か、あるいはそれ以上先になるだろう」と言われていたとしても、何かの拍子で急速に流れが変わるのかもしれません。
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参照:Motor1