
| ディーゼルゲートは終わっていなかった——10年後の現在も続く法的責任 |
「利益優先」にて消費者を欺いた代償はあまりにも大きい
2015年に発覚したVW(フォルクスワーゲン)のディーゼル不正問題、通称「ディーゼルゲート」。
排ガス規制逃れのためにソフトウェアを使って検査を欺いていたこの事件は、自動車業界に激震をもたらしましたが、あれから10年近くが経った現在でも、問題は完全には解決していません。
元幹部4名に実刑判決、さらなる31名が裁判待ち
そして今回報じられているのがフォルクスワーゲンの元幹部に実刑判決が下されたということ。
判決は上訴可能ですが、軽減の可能性は極めて低いとされており、さらにこれら幹部は(本国ドイツのみではなく)複数の国で実刑判決が出される可能性もあるといい、極めて重い罪だと捉えられていることがわかります。
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実刑を受けた元VW幹部(ブラウンシュヴァイク地裁判決)
氏名 | 役職 | 判決内容 |
イェンス・ハドラー | 2007〜2011年のディーゼルエンジン開発責任者 | 禁錮4年6ヶ月 |
ハンノ・イェルデン | 元上級技術者 | 禁錮2年7ヶ月 |
ハインツ=ヤコブ・ノイサー | 元幹部 | 執行猶予付き 禁錮1年3ヶ月 |
トルステン・D(姓非公開) | 下級職員 | 執行猶予付き 禁錮1年10ヶ月 |
今後の見通し
- 現在も31名の元幹部・関係者が起訴・裁判待ち
- 刑事責任の追及は今後数年に及ぶ可能性大
- 裁判地はすべてドイツ・ブラウンシュヴァイク地方裁判所
VWが被った損失と現在の経営課題
VWはディーゼルゲートにより、罰金・和解金・訴訟費用などで300億ユーロ超(約4.5兆円)を支出していますが、このディーゼルゲートは「環境を重んじる」欧州では非常にシビアに受け止められ、「誰もが知る巨大企業が、お金儲けのために環境を犠牲にし、人々を騙した」と捉えられ、これによってVWのイメージが大きく失墜することに。
そしてVW箱のイメージを回復させるべく、「内燃機関(ガソリン/ディーゼルエンジン)を捨てて電動車へとシフト」する計画を発表し、かつそのデザインを一新して「VW色」を弱めるとともに既存の人気モデルのいくつかを販売終了とし、「新しいフォルクスワーゲン」をアピールすることに。
しかし、現在の同社は新たな課題にも直面していて、「再生」が思うように進んでいないのが現状です。※結果的にガソリン車、そして既存車種に頼らなくてはならない状況に陥っている
- 中国市場での販売不振
- EV競争での中国メーカーの台頭
- トランプ前大統領による対米輸入関税の影響
- 欧州市場における競争激化
仮に不正がなければ…
もしディーゼルゲートが起きていなければ、この数百億ユーロはEV開発・グローバル戦略に投資されていたはずで、その資金があれば、今日の困難をより力強く乗り越えられていたかもしれません。
そして忘れてはならないのは、「ディーゼルゲートは単なる過去のスキャンダルではなく、現在進行形の問題」ということ。
企業イメージ、経済的損失、そして刑事責任の追及と、VWは今なお重い代償を払い続けています。
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ディーゼルゲートとはいったい何だったのか
そこでこのディーゼルゲートについて振り返ってみると、簡単に言えば「フォルクスワーゲングループが排ガス試験で不正を行っていたことが発覚した大規模スキャンダルのこと」。
2015年に発覚し、世界中で大きな社会問題となり、日本だと「当時1台もディーゼル車が輸入されていなかったにも関わらず、日本市場が世界で最も大きく販売を落とした」と報じられたことでも話題になっていますね(日本がいかに風評被害を被りやすい市場であるかを表している)。
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ディーゼルゲートの概要
- 発覚時期:2015年9月
- 関係企業:フォルクスワーゲン(VW)、アウディ、ポルシェなどVWグループ傘下のブランド
- 問題の車両:主に2009年~2015年に販売されたディーゼルエンジン車
- 対象市場:アメリカ、ヨーロッパ、日本など全世界で約1,100万台
いったい何が問題だったのか?
そして問題だったのは「排ガス試験を不正ソフトウェアで偽装」していたこと。
簡単に言うと、本来はクリーンではない排ガスを出しているのに、テストのときだけはクリーンになるように制御していたというもので、かなり手の込んだ、そして組織的な、かつ悪質な不正であったことも話題となっています(試験結果の改ざんといった範囲ではなく、車両の構造を変えねばできないほどの高度な偽装であり、担当者レベルではなく、高次の上層部が関わっていたことが誰の目にも明らかであった)。
- 車両に「ディフィート・デバイス(Defeat Device)」と呼ばれる不正なソフトウェアを搭載。
- (ステリングホイールの切れ角、エンジン回転数などから)排ガス試験中であることを車両が検知すると、エンジン制御を一時的に「クリーンモード」に切り替え。
- 実際の走行時には、クリーンモードを解除し、テスト時とは異なって規制を大幅に超えるNOx(窒素酸化物)を排出。
ディーゼルゲートの社会的・法的影響
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アメリカでは:
- 米環境保護庁(EPA)が不正を摘発。
- VWは300億ドル(約3.5兆円)以上の罰金・賠償金・リコール費用を支払い。
- 一部の幹部が起訴・有罪判決。
ヨーロッパ・日本では:
- リコールや訴訟が相次ぐ。
- EU各国で排ガス規制がさらに厳格化。
- VW以外のメーカーにも調査の波が広がり、ディーゼル車全体の信頼性が低下。
なぜVWは不正をしたのか?
フォルクスワーゲンが不正を行った背景については以下が報じられていますが、その代償はあまりに大きく、当時の関係者は「まさか10年後もこれほどまでにVWを苦しめる」ことになるとは思ってもみなかったのかもしれません。
- 米国などの厳しいNOx規制を満たしつつ、ディーゼルの燃費や走行性能を維持するのが技術的に難しかった。
- 「クリーンディーゼル」を売りにしたマーケティングの失敗を隠すため。
- 世界市場での競争力を優先し、企業体質として不正を容認していた。
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