
| EV時代にあえて内燃機関?ランボルギーニが合成燃料に希望を託す理由 |
現在のところ、「内燃機関存続の可能性」を託すことができるのは合成燃料のみである
世界中の自動車メーカーが急速に電動化を進める中で、ランボルギーニは内燃エンジン(ICE)を未来に残す方法として「合成燃料(e-fuel)」に注目しているのは既報の通り。
この合成燃料とは、大気中から回収したCO₂と水から抽出した水素を結合させて生成する液体燃料のことで、従来のガソリンとほぼ同様に使用可能。
しかも、(あらかじめCO2を吸収しているため、燃焼によってCO2が発生しても、CO2発生量がプラスマイナスゼロになるという)理論的にはカーボンニュートラルであることから、ICEを残したいメーカーにとっては“合法的な救世主”とも言える存在です。
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ランボルギーニCTO「合成燃料は内燃機関の救世主になりうる」
ランボルギーニはすでに独自に合成燃料(E-フューエル)の開発に着手していることでも知られますが、この合成燃料につき、オーストラリアのメディア「CarExpert」のインタビューにて、ランボルギーニの最高技術責任者ルーベン・モーア氏は次のように語っています。
「EVには可能性を感じていますが、まだ感情面での魅力がICEには及んでいません。私たちのような“エモーショナルなクルマ”を作るブランドにとって、合成燃料は内燃エンジンの救世主になりうる存在です。」
これはちょっと興味深い発言であり、ランボルギーニはこれまでに「EVであってもランボルギーニらしさを実現できる」としていたものの、この発言を見るに「やはり現段階のEVでは感情的な結びつきをドライバーとの間に生み出すのは難しい」と考えている可能性が高く、これが「初のEVの発売を延期した」ことにつながっているのかもしれませんね。
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「ブランドを存続させるには内燃機関を存続させるしかない」
ランボルギーニは「EV発売延期」の理由につき、「市場(受け入れ側)の準備が整っていない」と述べていますが、これは正確にいうならば「ランボルギーニとしては、エレクトリックカーが生み出す新しい体験を提供する準備ができているものの、いまの消費者はおそらくそれを理解できない(しようとしない)であろう」ということなのかもしれません。
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さらには直近にてフェラーリも「初EVの発表延期、EV第二弾の発表延期」について触れており、こういった動きは半ば「拒否的」ともいえる「プレミアムセグメントにおけるEVへの顧客の反応」を考慮したためだとも思われます。
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フェラーリ、第2の電気自動車の発表を延期へ|高級EV分野での需要減退の兆しが理由
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こういった動きを鑑みるに、スポーツカーメーカーがそのブランドを存続させるには「内燃機関を存続させるしかない」のが今の状況で、そのための手段が「合成燃料」ということになりそうですね(カーボンニュートラルではない燃料の使用は遅かれ早かれ禁止されるため)。
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ランボルギーニが合成燃料の開発を開始!「いかなる手段を用いてもガソリンエンジンを存続させ、そのためにはハイブリッドも活用する」
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「合成燃料の現場」はどうなっているのか
そして合成燃料の「現在」についてですが、もっとも進んでいると思われるのはポルシェであり、ポルシェはチリにe-fuelの試験生産施設を建設し、すでに生産を開始しています。
この施設では、
- CO₂を大気から直接回収
- 水素を水から電気分解で抽出
- それらを合成してe-fuelを製造
といった工程で燃料が作られ、実際にポルシェ・エクスペリエンスセンターやワンメイクレースで使用されていることがアナウンスされています。
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ポルシェが自社で開催するワンメイクレース「スーパーカップ」に合成燃料(Eフューエル)を採用すると発表。ポルシェは燃料においてもイノベーションを目指す
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合成燃料の課題:非効率なエネルギー変換
ただし、合成燃料にもいくつかの問題点が存在するのもまた事実。
- 製造には多くの電力が必要
- その電力源が石炭や天然ガスなど化石燃料だと本末転倒
- 太陽光や風力、核エネルギーなどのグリーンエネルギーで製造しなければ意味がない
- 製造した合成燃料を「輸送し流通させる」にもCO2が発生
- そもそも非常にコストが高い
- 電力を直接バッテリーに充電する方が効率的
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環境団体「ポルシェの進める合成燃料は、ポルシェ乗りのためのニッチな解決策にしかすぎません。リッター390円、しかも汚染性が高く、脱炭素化を遅らせる」
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こういった課題があるため、「すべての移動手段を合成燃料に置き換えるのは非現実的」とも言われているわけですが、ただし「日常的に乗るわけではなく、オーナーがそのコストを気にしない」クラシックカーや限定生産のスーパーカーなど、ニッチな分野では「合成燃料は非常に有望」だとされており、まさにランボルギーニがその対象となる可能性があるわけですね。
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そしてこういった問題からか「そもそも合成燃料に興味を感じない自動車メーカー」も多く、石油メジャーもほとんど興味を示していないという事実からも「合成燃料はニッチから脱することができない」と見る向きも少なくはないようで、仮に製造が本格化したとしても、航空業界や船舶など「電動化できない」輸送手段から先に使用されるようになり、個人向けの自動車で使用できるのは「ずっと先の話」という意見もあるもよう。
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合成燃料(Eフューエル)製造メーカー「合成燃料が一般向けの自動車用として提供されるのはずいぶん先です。まずは航空機や船舶など、内燃機関の代替がない業界からです」
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もう一つの可能性:水素内燃エンジン
そして合成燃料の未来に疑問を感じ、トヨタ、BMW、ヒョンデは「水素」にも着目。
たとえばトヨタは「水素を燃焼させる内燃エンジン」に注力しています。
- 水素を燃やして動力を得る(燃料電池とは異なる)
- トヨタは水素エンジン搭載のレース車両を日本で実走行中
- ル・マンのハイパーカークラスに新設が検討されている水素内燃車を開発中
Image:TOYOTA
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【プリウス顔で登場】トヨタの新型レーシングカー、GR LH2 レーシングコンセプトがル・マンへ。水素×ハイブリッドの未来を切り拓く
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BMWもかつて水素対応V12エンジンを開発したことがあり、マツダも水素ロータリーエンジンを試験的に運用していた経緯がありますが、水素は炭素を必要としないため、合成燃料より製造工程がシンプルになる一方、こちらはこちらで以下のような課題も残っています。
- 水素の製造にも電力が必要
- 車両設計やタンクの特殊化が必須
- 水素チャージのための専用施設が必要(合成燃料だと、既存のガソリン輸送・販売施設を利用できるとされている)
- 不特定多数の人が水素を安全に補充することは難しい
今後の展望:選択肢は「多様化」がカギ
電動化が主流になりつつある今、内燃機関を存続させる道として合成燃料と水素燃焼の2つが現実的な選択肢と考えられています。
- 合成燃料:クラシックカー、スーパーカーなど趣味性の高い車両向き
- 水素燃焼:専門家のみが車両を使用するモータースポーツ向き
- EV:大衆車・都市部の移動手段向き
どの技術が“勝者”となるかは未知数ですが、「単なる移動手段ではなく」、感情に訴えるクルマを提供するランボルギーニにとっては、エンジンの鼓動を残す選択肢が非常に重要な意味を持っていることは間違いなく、その意味において合成燃料に可能性を見出すことも十分に理解ができようというものですね。
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参照:CarExpert