>BMW(ビー・エム・ダブリュー)

逆説の勝利:この状況にもかかわらずBMWが大排気量V8エンジン搭載モデル”過去最高”の販売台数を記録した背景とは

2025/10/17

逆説の勝利:この状況にもかかわらずBMWが大排気量V8エンジン搭載モデル”過去最高”の販売台数を記録した背景とは

Image:BMW

| V8縮小方向に動いたメルセデス・ベンツは「賭けが裏目に」 |

電動化の波と、それに抗うV8エンジンの熱狂

自動車業界全体が急ピッチで電動化(Electrification)へと舵を切る中、ドイツの高級車メーカーであるBMWは、独自の「マルチ・テクノロジー・アプローチ」を貫いています。

将来を見据えた「Neue Klasse(ノイエ・クラッセ)」EVプラットフォームの開発に大規模な投資を行う一方、BMWはかねてより「内燃機関を諦めない」とも宣言しており、そして今回は「驚くべき」データが明らかに。

電動化が加速する中でもV8エンジン搭載車の販売が「過去最高」

このデータはBMWの研究開発責任者であるヨアヒム・ポスト博士(Dr. Joachim Post)がカーメディアとの対話の中で明かしたもので・・・。

「我々は顧客に最高のクルマを提供したい。そして彼らにどのパワートレインを選ぶかを決めてもらいたいのです。EVを選ぶなら新しいクルマ、内燃機関を選ぶなら古いクルマ、という状況ではありません。世界は異なっています。昨年、我々は(プレミアムセグメントで)EVの販売台数が過去最高を記録したと同時に、8気筒エンジン(V8)の販売台数も過去最高を記録しました。」

この発言は、BMWが電動化の最前線に立ちながらも、そのコアな顧客層が依然として内燃機関、特にハイパフォーマンスなV8エンジンの「キャラクター」と「パワー」を求めているという、市場の二極化を見事に捉えています。

P90316783_highRes_the-v8-engine-for-th

Image:BMW

V8エンジンが支えるBMWのハイエンド戦略

BMWのV8エンジンは、特に主要市場である米国で高い人気を誇ります。

X5, X6, X7といった大型SUV、7シリーズ, 8シリーズといったフラッグシップモデルの上位オプションとして提供されるほか、M5, M8, X5 M, X6 MといったMパフォーマンスモデルには”標準”にて搭載。

中でも、最新のM5で導入されたプラグインハイブリッド(PHEV)を組み合わせたV8パワートレインは大きな成功を収めており、このハイブリッドシステムは、BMWの最新V8エンジンであるツインターボ4.4リッター「S68」と組み合わされ、以下の二律背反の課題を見事に解決たパワーユニットとして高い評価を獲得しているわけですね。

BMW 640d Gran Coupe

Image:BMW

  1. パワーとキャラクターの提供: 顧客がハイエンドモデルに求める圧倒的な加速力と、V8特有の豊かなサウンドとドライビングフィールを供給
  2. 厳格な排出ガス規制の順守: PHEVシステムによる電動走行能力と排気ガスの低減効果により、世界的に厳しくなるエミッション規制をクリアすることを可能にしている

BMWといえば「直列6気筒エンジン」というイメージがあるものの、V8エンジンは1990年代初頭に5、7、8シリーズにて復活して以来、特に大型で高価格帯のモデルにおいてブランドの収益を牽引する重要な存在となっており、特に近年ではライバルであるアウディ、そしてメルセデス・ベンツが小排気量エンジンへとシフトする中、「逆行」することでそれらライバルが失ってしまったファンを獲得することに成功したのかもしれません。※メルセデス・ベンツは顧客のV8志向を認め、V8回帰を宣言している

P90493629_highRes_the-new-bmw-x6-m60i-

Image:BMW

メルセデスAMG
メルセデスAMG、新世代「M179」V8エンジンを2026年に投入へ。C63の失敗から多くを学び、過激な「フラットプレーンクランク」V8を拡大採用する見込み

| メルセデスAMG C63の「V8廃止」は誤算だった | まさかここまで「ダウンサイジング」「電動化」への拒否反応があろうとは メルセデスAMGとV8エンジンとは非常に強い結びつきを持ちますが、新型 ...

続きを見る

ただ、同じくV8エンジンを搭載する「XM」は成功とはほど遠い、むしろ「悪夢のような」現状となっているとされるので、「V8であれば何でもOK」というわけではなく、そのクルマのキャラクターとのマッチング、そしてそのクルマの「デザイン」も顧客にとって非常に重要であることも推測できますね。

BMW
BMW M専売モデル「第二弾」、XMは正直言って期待外れ?すべての意味においてBMWの思惑とは異なる方向へとものごとが動いてしまい、悪夢のような結果を招くことに

| Z4にも販売台数で抜かれたところを見ると”やはりBMWはSUVではなくスポーツカーを作るべき”であったのかも | 一方のZ4は逆の意味での「想定外」である さて、BMWはM専売モデル「第二弾」とし ...

続きを見る

加えて、上述の通り、M5に積まれるV8エンジンはPHEVとの組み合わせとなりますが、にもかかわらず高い人気を誇るということは、「顧客は必ずしも電動化を嫌っているわけではない」ということ、そしてM5登場時に酷評された「重量」についての問題が、現在では(納車が進むと同時に)霧散しており、BMWはみごと「悪評(風評被害にも近い)」を実力でひっくり返すことに成功したと考えていいのかもしれません。

BMW-M5 (8)

Image:BMW

BMW「新型M5の重量を発表時に公開したのは間違いでした。だれもパフォーマンスに注目せず重量しか語らなくなったからです」。今後重量は一呼吸置いて発表
BMW「新型M5の重量を発表時に公開したのは間違いでした。だれもパフォーマンスに注目せず重量しか語らなくなったからです」。今後重量は一呼吸置いて発表

Image:BMW | 実際のところ、最近のBMW「M」、メルセデス「AMG」のニューモデルは信じがたいほど重量が増加している | ただしこれは主に「環境規制」によるものであり自動車メーカーのせいでは ...

続きを見る

継続投資がもたらした「リスクヘッジ」と「顧客志向」の成功

多くの競合他社が「オール・イン(全振り)」戦略でEVへの完全移行を計画する中、BMWはより慎重なアプローチを採用。

それは、優れたEVを市場に送り出しながらも、内燃機関への投資を止めないというもので、この「両睨み」の戦略が今、明確に報われているのだとも考えられます。

P90071804

Image:BMW

  • 市場の変動リスクへの耐性: EV市場の需要が国や地域によって不安定な状況下で、依然として堅調な内燃機関(ICE)市場の需要を取りこぼすことなく、収益基盤を確保することに成功
  • 顧客の選択肢の最大化: ポスト博士が述べたように、「顧客に最高の選択肢を与える」という哲学は、EVシフトへの抵抗感を持つ既存の高性能車ファン、そして伝統的な内燃機関の魅力に惹かれる新規顧客の両方を惹きつけることに成功している

「電動化」と「内燃機関のピーク」という一見矛盾するデータを同時に叩き出したBMWの成功は、自動車産業のメガトレンドが一方通行ではないこと、そして、真の成功は技術的な卓越性だけでなく、顧客の深層心理と市場の多様性を尊重する戦略から生まれることを示しているのかもしれません。

P90050138_highRes_the-bmw-activehybrid

Image:BMW

関連情報:ハイエンドPHEVの戦略的役割

BMWがMモデルにPHEVを採用する背景には、単なる環境対策以上の戦略的な意図が存在します。

BMWは、V8という「音と振動」の魅力を残しつつ、PHEVという「未来への妥協点」を見つけることで、ハイエンド市場での「最後の内燃機関の砦」としての地位を固めており、その戦略がみごと奏効したということになりますね。

項目従来のMモデル(ICE)最新のMモデル(PHEV V8)戦略的メリット
トルク特性回転数依存電動モーターによる瞬時のトルクブーストV8のターボラグを打ち消し、発進・再加速性能が向上。
環境規制規制順守が困難化EV走行モードにより、市街地走行でのCO2排出量を大幅に低減厳格な都市規制や、平均車隊排出量規制をクリア。
ブランド訴求伝統的な高性能「効率とパワー」を両立した現代の高性能電動化時代におけるMブランドの未来像を提示。

あわせて読みたい、BMW関連投稿

BMW
【BMWが明言】直6とV8エンジンは“絶対に残す”。欧州排ガス規制「ユーロ7」下でも性能は維持

| ダウンサイジングと電動化が進む中、BMWは「小排気量や3気筒、4気筒はない。伝統の直6とV8を守る」 | BMWは今の時代でも内燃機関にこだわり続ける 今の時代、BMWのパフォーマンスカーに求めら ...

続きを見る

BMW
BMW「Mカーではダウンサイズされたエンジンを用いることはない。直6とV8で行く」。メルセデスAMGとは真逆の方向にてハイブリッドスポーツへとアプローチ

| BMWはあくまでもガソリンエンジンをメインだと捉え、エレクトリックモーターはその補佐にとどめる | バッテリーの重量やコストを嫌い、これによって軽快さが失われないようにしたいのだと思われる さて、 ...

続きを見る

BMW
【BMWの真意】ガソリンエンジンは終わらない──「内燃機関は我々の基盤である」。EV一辺倒に背を向けた“現実的”戦略とは

| 他社がEV目標を後退させる中、BMWは「最初から約束していない」 | 内燃エンジンは「未来のビジネスを支える基盤」 テスラが電気自動車(EV)の販売目標を修正し、「完全EVブランド」への移行を計画 ...

続きを見る

参照:Motor1

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

->BMW(ビー・エム・ダブリュー)
-, , , ,