
| 欧米ではなく「新興国こそ本当の主戦場」 |
日米王の自動車メーカーが「失った市場」を取り戻すのは容易ではないだろう
ここ数年、中国の自動車メーカーが欧州市場に参入していることが大きな話題となっていますが、しかし実際に既存自動車メーカーとの“本当の戦い”が繰り広げられているのはラテンアメリカ、アフリカ、中東、中央アジア、東南アジアなどの新興・低所得国市場であることが統計によって明らかに。
中国メーカーは、これら地域の価格感度の高い消費者層に適したモデルを展開し、急速にシェアを拡大しているという事実が白日のもとにさらされています。
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【衝撃】中国ブランドが欧州でメルセデス・ベンツの販売を上回る。BYDなどのEV・PHEV販売が急拡大
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価格競争力が成功のカギ
これを可能とする中国ブランド最大の強みは「低価格」。
欧州・日本・韓国・米国ブランドが軒並み値上げを続ける中、中国車はより低価格で高い装備・航続距離を実現しており、この価格優位性は特にEV(電気自動車)市場にて顕著な傾向で、BYD、MG、GWM(長城汽車)、奇瑞などが次々と”低価格を武器に”台頭しています。
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フォルクスワーゲンが中国にて「ID.4X」の価格を大きく引き下げ「中国車に対抗」。発売開始時に比較すると30%もの値下げがなされることに
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既存メーカーの苦境:トヨタ、日産、ホンダ、VWもシェア喪失
JATO Dynamicsの最新データによると、中国メーカーの台頭によって最も打撃を受けているのは日本・韓国・欧州・米国の既存ブランドで、これらのメーカーは中低価格帯市場で中国ブランドに急速に市場を奪われつつあることがわかっています。
- 日本勢:トヨタ、日産、ホンダ、三菱、スズキ
- 韓国勢:ヒュンダイ、キア
- 欧州勢:フィアット、ルノー、フォルクスワーゲン
- 米国勢:シボレー、フォード
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中国車の「値下げ競争」はまだまだ活発化?BYDがサプライヤーに対し「10%納入価格を下げるよう」要請を行い競争力の強化を図る
| 中国市場は日米欧の自動車メーカーにとっても非常に厳しいマーケットではあるが | 中国の自動車メーカーにとっても相当にタフな市場でもあるようだ さて、現時点では「EV」というセグメントにおいて敵なし ...
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欧州よりも速いペースで拡大する中国勢
なお、中国車の進出が問題視されている欧州での中国ブランドの市場シェアは2025年8月時点で約5%。
一方、新興国ではその数倍のシェアを記録しているので、やはり「実際の危機」は欧州市場以外の地域であることもわかりますね。
- ブラジル:2024年では6.8% → 2025年は9.1%(第4位に浮上)
- オーストラリア:2024年では11.4% → 2025年は16.7%
- ウクライナ:BYDが3% → **7.7%**へ上昇
また、チリではシボレーがGWMと長安汽車に押され、コロンビアではBYDがトップ10入り(フォードを押し出す)するなど、アジア・中南米全体で同様の傾向が見られるといい、日米欧の自動車メーカーが有効な解決策を提示できていない以上、このトレンドがそう簡単に覆ることはないのかもしれません。
各国における中国ブランドの市場シェア(2025年時点)
そこでアジア・アフリカ・南米各国の「中国車のシェア」を見てみると以下の通りとなっていて、トップ5だと「3割オーバー、あるいは3割近い」数字を誇っており、そのうち「過半数が中国車」となる国が出てくる可能性も。
| 国・地域 | 中国ブランドの市場シェア |
| タイ | 32.4% |
| イスラエル | 32.0% |
| チリ | 30.9% |
| エクアドル | 29.9% |
| ウルグアイ | 26.4% |
| パナマ | 26.0% |
| オーストラリア | 16.7% |
| アラブ首長国連邦 | 16.0% |
| 南アフリカ | 15.0% |
| ウクライナ | 12.7% |
| インドネシア | 12.2% |
| ニュージーランド | 12.1% |
| サウジアラビア | 11.8% |
| コロンビア | 11.2% |
| ブラジル | 9.1% |
| メキシコ | 7.7% |
| マレーシア | 6.7% |
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シェア増加率ランキング(2024年→2025年)
一方でこちらは社率増加ランキング。
特にウルグアイとイスラエルでは前年比で二桁増を記録しており、今後1〜2年で中国ブランドが主要メーカーを追い抜く可能性が高いと見られています。
| 国・地域 | 市場シェアの増加率 |
| ウルグアイ | +12.6% |
| イスラエル | +11.5% |
| インドネシア | +6.5% |
| ウクライナ | +6.2% |
| オーストラリア | +5.3% |
「価格とEV」が新興国市場のキーワード
新興国市場では、EV導入支援策がまだ限定的である一方、燃料価格の上昇や都市部の交通制限が進行しています。
こうした中で、中国メーカーの低価格EVが最も現実的な選択肢となりつつあり、BYD「ドルフィン」「アット3」、GWM「オーラ」、奇瑞「OMODA」などがその代表格。
欧米や日本メーカーが「提供できない」、手の届く電動化”を実現している点が支持を集めていると分析されていますが、中国国内の競争激化から「逃げてきた」中国ブランドがさらに新興国市場で価格競争を繰り広げる可能性もあり、このままだと日米欧の自動車ブランドがそれら市場から「締め出されてしまう」のは時間の問題なのかもしれません。
ただ、「高級車市場」に関しては日米欧の自動車メーカーが力を発揮できる(逆に中国ブランドはここではほぼ戦えない)ところであり、よって高級車を持たない日米欧の自動車ブランドにとっては「撤退」を迫られるケースが出てくるのでは、とも考えられます。
今後の展望:欧州よりも“南半球”での覇権争いが激化
欧州では環境規制やブランド価値が重視される一方、新興国では「価格・性能・供給力」が勝敗を決める大きな要素です。
BYD、GWM、奇瑞、長安、吉利など中国勢の戦略は明確で、「欧州でのブランド構築」と並行して「新興国での販売拡大」を進めていまるという現実があり(安価なクルマ、プレミアムブランドを並行して投入している)、このままのペースで推移すれば、2026年までにラテンアメリカと東南アジアの主要市場で中国ブランドが20〜30%のシェアを占める可能性も指摘されています。
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参照:JATO Dynamics, Motor1
















