| いかに中国広しといえど、これができるのはBYDくらいのものであろう |
BYDの勢いはどうにも止めようがない
さて、BYDは今年1月に初となる「自社専用の自動車輸出専用のための貨物船”BYD Explorer No. 1 ”」を就航させており、深センの小桃国際物流港からヨーロッパに向けて旅立ったことが報じられています。
この船は7,000台の車両を収容でき、チャイナ インターナショナル マリン コンテナーズの造船関連会社であるCIMCラッフルズによって製造されていますが、なんと中国の造船所で国産車の輸出専用に建造された初の自動車運搬船なのだそう。
参考までに、EV輸送中の火災で話題となったフリーマントル・ハイウエー、フェリシティ・エースに積まれていた車両は「3,000台超」だというので、このBYDの船はとんでもなく大きい、ということになりそうです。
さらにBYDは7隻の自動車運搬船を「増便」
中国で始めて「自前の自動車運搬専用貨物船」を建造したこと、そしてその規模の大きさにも驚かされるものの、さらにびっくりなのはBYDが「2年以内に、同様の船舶を7隻就航させ、合計8隻とする」と発したコメントで、これは自社のEVが世界的に非常に高い競争力を持つという事実から「輸出を拡大する」意向を固めたため。
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BYD創業者で会長の王伝福氏は「BYDは自動車輸出向けの輸送能力不足を緩和するため、今後2年間に7隻の自動車運搬船を配備する予定である」と述べ、自前の船で輸送することによって輸送コストを削減したいと考えているそうですが、こういった戦略は世界広しといえどBYDくらいしかできないのかもしれません(船舶会社でもないのに自前の貨物船を発注し運用するだけの財力を持つ会社はそうそうない)。
なお、中国は2023年に2022年比で58%増の490万台を輸出し、これによって日本を抜いて世界トップの自動車輸出国となっていますが、そのうち プラグインハイブリッドを含むNEV(新エネルギー車)の輸出は78%増の120万台。
急速に拡大する輸出に輸送力が追いついていないといい、つまりは相当な需要があると考えて良さそうです。
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そしてさらに驚くのは、英国企業クラークソンズ・リサーチによると、2023年11月の時点で「中国船主が所有する自動車運搬船は40隻」ということで、BYDがフルに8隻を運行するようになれば、中国における「自動車輸送船シェア」においてもトップに立つことになるのかもしれません。※中国経済全体に占めるBYDの影響力が非常に強いものとなりそうだ
参考までにですが、この全40隻の積載能力は合わせて約11万台だとされ、日本の160万台、ノルウェーの93万台、韓国の49万台を大きく下回っているので、2023年に達成した「490万台」については他国の船を活用して輸出を行っていると解釈できますが(ただし工場の位置次第では、船を使用する必要がないケースもある)、現在海上輸送においては「スペースの奪い合い」となっている可能性が高く、そのためBYDはこの争い、そして積載スペース争奪戦の結果として高騰するコストの影響を避けたいということなのだと思われます。
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もうひとつ参考までに、日本の自動車輸出は1960年代に本格化し、1970年の110万台から1980年では600万台にまで増加していますが、この増加に合わせて日本の造船所、さらにはヨーロッパや韓国の造船所も大型の自動車運搬船をより多く生産することで歩調を合わせてきたものの、それが今は「中国の時代」に入ったと考えてよく、中国の船主は合計29万台の輸送能力を誇る自動車運搬船を37隻発注しているとの報道もあり、今後この傾向はさらに加速する可能性もありそうです。
なお、BYDが販売先として見込んでいるのは主に欧州であり、というのも欧州の消費者は環境意識が強く、よってEVを選ぶ傾向が他地域に比較して強く、つまりはそのぶん商機があるという判断を下しており、とくにドイツ、イタリア、フランス、スペインにて可能性を見込んでいるもよう。
ただ、英国にて報じられたように「アフターサービスが追いつかず」消費者の負担となるケースも報じられ、この状況が続くようであれば欧州の消費者も「地元の自動車メーカー」のEVを(多少高くても)選ぶようになるのかもしれません。
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加えて、現在欧州では「中国製EVに関税をかける」方向で動いているとされるので、もし関税が課されるようなことになれば「中国製EVの輸出に急ブレーキ」ということにもなりかねず、そしてその場合は「輸出拡大を見越して輸送船を大量に作ってしまった」ことから逆に輸送料金が下がったりといった事態に陥る可能性もありそうですね(その場合、BYDは大きな損害を被ることになるのかもしれない)。
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参照:Nikkei Asia, Car2day