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【テスラの戦略転換】「サイバーキャブ」が幻の「モデル2」になる?自動運転の理想と現実の規制との壁、そしてテスラの柔軟な「路線変更政策」と「実利重視」戦略とは

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| ハンドルなき未来から、ステアリングのある現実へ |

路線変更による「価格競争力の発揮」にも期待

テスラが構想した「サイバーキャブ(Cybercab)」は他のどのテスラ車とも違う異彩を放つ存在で、バタフライドアを備え、ステアリングホイールもペダルもない完全な自動運転車として生まれています。

そしてイーロン・マスクCEOはこれを3万ドル以下で大量生産し、未来のモビリティを現実にすると宣言していたのが昨年の話。

しかし、その理想のビジョンに「現実の壁」が立ちはだかっているという報道がなされており、テスラは現在、約束した生産台数を達成するためには「サイバーキャブに従来の操作系(ハンドルとペダル)を搭載する可能性がある」ことを正式に認めています。

つまりその戦略が根本から変更されることを意味しますが、もう少し深くその内容を掘り下げてみましょう。

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サイバーキャブ=幻の低価格EV「モデル2」となるか?

テスラの取締役会長であるロビン・デンホルム氏は、サイバーキャブを「投資家が長らく求めてきた低価格モデル」であり、しばしばメディアで『モデル2』と呼ばれてきた車種と(自身が)見なしていることを明らかにしています。

もともと2シーターという実用性に乏しい設計に加え、完全に自動運転に頼るという当初の構想は販売戦略上の大きな課題でもあったのですが、現在のテスラの自動運転ソフトウェア(FSD)はまだレベル4やレベル5の完全自律には程遠く、消費者が操縦系を持たないクルマを安心して受け入れるか、そもそも法規的に発売が可能なのかどうかは「まったくもって不透明」。

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そこで今回のデンホルム会長による「もしステアリングホイールが必要なら、ステアリングホイールとペダルを搭載できる」という発言につながってくるのですが、これは「完全なロボタクシー」から「人が運転できる低価格EV」への柔軟な戦略変更を示唆しています。

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なお、このロボタクシーこと「サイバーキャブ」はもともと「モデル2」として設計されていたという説があり、というのもテスラ内では実際にモデル2プロジェクトが存在していたからで、しかしある段階にて、イーロン・マスクCEOが社内の反対を押し切って「モデル2プロジェクトを中止し、サイバーキャブの発売にシフトした」とも言われています。

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つまり、開発中であったモデル2がそのまま「サイバーキャブ」に転用された可能性が非常に高く、実際に「非常に簡素でコストが低い」とされるサイバーキャブは”モデル2の転生”ともいえる存在であるとも考えられ、これはデンホルム氏の言う「サイバーキャブを、実質的なモデル2だとみなしている」という内容ともつながってくるわけですね。

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理想を阻む「規制」という名の高い壁

ただしテスラが当初の構想から方向転換を検討している最大の理由は技術よりも「米国の法規制」。

  • NHTSA(米運輸省道路交通安全局)の規制: 現在、メーカーが従来の操作系なしで路上に展開できる自動運転車の台数は年間わずか2,500台に制限されている

イーロン・マスクCEOは、多額の献金を含む政治的な影響力で規制緩和を目指してきたと見られますが、現時点では規制当局の動きはなく、テスラの目標は「数百万台の生産」であり、年間2,500台の枠では到底達成できないということがわかります。

デンホルム会長は、過去の「そもそも、モデルYの初期設計にもハンドルとペダルはなかった」という例を挙げつつ、「何かがないために販売が難しいなら、我々は規制機関と協力して必要なことをする」と述べ、理想を捨てて現実の規制に従ってでも、まずは市場に製品を投入することを優先する姿勢を明確にしたというのが今回の発言の真意ということになります。

つまるところ、信念を貫き通すよりも、営利企業として必要な対応を行うことで状況に対応し、求められる利益を上げてゆくということになりそうですが、もしかすると「モデル2からサイバーキャブへと転生した車両」が一周回ってモデル2になって市販されるかもしれないという状況が生まれているのが直近のテスラということに。

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まとめ:ビジネスにおける「柔軟性」の重要性

このテスラのサイバーキャブを巡る動きは、ビジネスにおける「理想と現実のバランス」そして「戦略の柔軟性」の重要性を改めて示しています。

イーロン・マスク氏の掲げる「ハンドルなし」の未来は確かに革命的で、しかしどれほど優れた技術や革新的なアイデアであっても、法規制や市場の受け入れ態勢といった「現実」を無視しては、大量生産や普及は叶いません。

参考までに、テスラの当初の「マスタープラン」だと、「世界で最も安価なEVを製造して世界中のクルマをEVに置き換える」という計画を持っていて、しかしその後は「価格よりもテクノロジー(自律運転)へと方針を転換済み。

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テスラの値下げは「計画通り」?2006年発表の最初のマスタープランにその計画が記されており、当時は誰も理解できなかったイーロン・マスクの予言がいま現実に

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その理由は明かされていないものの、おそらくは「中国の自動車メーカーが予定外の”安い価格をもって”参戦」してきたため、そこで戦うのは得策ではないと考えたのかもしれません。

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つまりテスラはこれまでにも大きな方向転換を行ってきたということになり、テスラが究極の未来を象徴するサイバーキャブを、投資家が待ち望む低価格EV(モデル2)という形で一時的に「着地」させるのであれば、それは未来への新しい一歩としてだけではなく、現実的な収益源を確保するための賢明なビジネス判断であると捉えることができ、株価上昇への大きな足がかりとなる可能性も。

この決断がテスラが停滞していた低価格EV市場での成長を加速させるのどうか、今後も注目が集まるところでもありますね。

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参照:Bloomberg

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