
| EVシフトに警鐘を鳴らした2社:トヨタとBMW |
将来に対する「柔軟性」が明暗を開ける
2020年代初頭、自動車業界はこぞって“電動化の大号令”を掲げることとなり、内燃機関の終焉を宣言するとともにEV専用モデルを次々に発表。
投資家たちがEVブームに熱狂したことは記憶に新しく、しかし現実はそう単純ではなかったことが「その後すぐ」明らかになっています。
そしてそういった「EV狂騒曲」の中、たった2つの自動車メーカー——BMWとトヨタ——だけは冷静な姿勢を貫いており、彼らは「多様なパワートレインこそ持続可能なモビリティの鍵」と主張し、EV一辺倒の流れに乗らなかったのもよく知られる事実です。
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【BMWの真意】ガソリンエンジンは終わらない──「内燃機関は我々の基盤である」。EV一辺倒に背を向けた“現実的”戦略とは
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そして今、彼らの選択が“正しかった”ことを示す数字が出始めており、ここでその一部を見てみましょう。
■ EV楽観論と“早すぎた”内燃機関の葬式
まずは「100年に一度の転換期」とされた新世代の幕開けとともに、フォルクスワーゲン、ボルボやジャガー、ベントレーなどが「2030年以降は完全EV化」と宣言。
一部の政府はガソリン車販売禁止法案を作成し、業界全体が“EVでなければ未来はない”というムードに包まれたのも記憶に新しいかと思います。
一方で、市場には不安の声も少なからず存在し、充電インフラの不足、電力網の脆弱性、そして車両の高価格化による消費者離れ。
実際のところ、2024年通年での世界EV販売比率はわずか約20%にとどまり、米国ではその半分の約9%にしか達せず、EV化が「想定ほど進まない現実」が明らかになったわけですね(多くの自動車メーカーの想定の半分以下の数値である。ただ、ここには「中国車の想定外の躍進」という要素が絡んでいることは間違いない)。
この時、トヨタとBMWが当初から主張していたこと—— 「単一技術に依存せず、複数の道を同時に追求する必要がある」——が、いま現実となり、これが自動車メーカーの「勝敗を分ける」要因となっています。
■ BMW:理想ではなく“現実”に基づいた戦略
BMWは、未来志向でありながらも現実主義を貫く姿勢を示し、「(EVこそが未来と目される中でも)持続可能なモビリティには多様なエネルギー源が必要」として電動・ガソリン(ディーゼル)・ハイブリッドを共存させる「マルチエネルギー・プラットフォーム」を開発。
これが「CLAR(Cluster Architecture)」と呼ばれる柔軟な車体構造であり、このアーキテクチャによってBMWは同じ生産ラインで内燃期間車、PHEV、EVを同時に組み立てることが可能となっています。※さらには地域需要に応じて生産を切り替えられるため、政策変化にも即応できる
同時にBMWはエンジン開発も止めておらず、新開発のS68型V8、B58型直6エンジンはEuro7規制に対応し、合成燃料(e-Fuel)や水素ハイブリッドにも応用可能。
また、トヨタと共同で水素燃料電池SUV「iX5 Hydrogen」を開発中であることも報じられ、こちらの航続距離は約505kmだとされるうえ、排出されるのは水だけというクリーンさを実現しています。
つまるところ、BMWは“未来への多様性”をブランド哲学に昇華させ、EV偏重の時代でも「エンジニアリングと選択肢」を両立させているわけですね。
■ トヨタ:最も現実的な「カーボンニュートラル戦略」
世界最大の自動車メーカーであるトヨタは、各国市場の多様性を熟知する存在としても知られます。
1997年に初代プリウスを発売し、世界で最も早く「電動化」を実現した企業でもありますが、それだけにトヨタは“完全EV化”の波に軽々と乗ることはなく、その理由は「 鉱物資源の確保、電力供給、充電インフラなど、EV普及の壁を熟知していたから」。
これは「早々にEVを発売したBMWがEVオンリー戦略を採用しなかった」のとよく似ていて、両者ともに「他社に先駆けて電動化に取り組んだからこそ、その課題を他のどこよりも早く、そして現実として認識していた」ということなのかもしれません。
そしてトヨタが「提唱したのは「マルチパスウェイ戦略」で、この戦略のもとEV、ハイブリッド、プラグイン、そして水素燃焼エンジンを並行開発していますが、トヨタは「電動化を目的ではなく手段として捉えており、トヨタが真の目的として捉えていたのは「脱炭素」。
つまり最終目的である脱炭素を達成する手段は「EV」のみによるものである必要はなく、今できる、そして人々の生活環境に適応した「様々なパワートレーン」であるべき、としています。
そして新しく開発したパワートレーンの中でも注目すべきは「新世代の小型・高効率エンジン」。
これらはプラグイン、ハイブリッド、水素燃焼など多様な燃料に対応し、わずかな改良で切り替えが可能だとされ、さらにマツダやスバルと共同で合成燃料(e-Fuel)やバイオガソリンの実用化も進めており、「インフラ整備に巨額投資せずCO₂を削減する現実解」として注目を集めているわけですね。
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トヨタはまた水素燃焼のGRヤリスH2、GRカローラH2でモータースポーツ実験を継続中。
同時に「bZシリーズ」としてEVラインアップも拡充しており、次世代では航続745マイル(約1,200km)を目指す全固体電池の量産を計画するなど、「現実的に歩みを進める」戦略を採用しています。
■ 数字が示す“現実”
| メーカー | 年間EV販売台数(2024年) | ハイブリッド・PHEV販売台数 | 備考 | 
| BMW | 42.7万台 | 約200万台(ICE+PHEV含む) | 柔軟生産体制を維持 | 
| トヨタ | 約15万台(EV) | 約415万台(HV+PHEV) | 世界最多の電動車販売台数 | 
このように、両社は内燃機関ラインを維持しつつ、他メーカーがEV偏重投資で赤字化する中でも、堅調な販売台数と利益を確保しており、その一方でフォード、GM、フォルクスワーゲンなどはEV需要の鈍化を受けて数十億ドル規模の投資延期を発表。
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南米・アフリカ・インドなどインフラ未整備地域では、トヨタのハイブリッドとBMWの高効率ターボが圧倒的に売れているというのが現実です(未開発地域では電池が手に入らないので、デジタル式腕時計よりも機械式腕時計のほうが売れるという事実にもよく似ている)。
■ 教訓:柔軟性こそが生存戦略
結論としては、「BMWとトヨタは“理想よりも現実”を選び、単一の技術に依存しなかったことが結果として企業を守った」。
両社の戦略は、「柔軟性=リスク耐性」という新たな教訓を業界に与え、消費者は「便利で経済的な技術」を選ぶのであって、企業や政府の宣言に盲目的に従うわけではない——まさにその現実を、彼らは最初から理解していたということになりそうです。
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■ 結論:焦る業界、動じない2社
2020年代は“内燃機関の終焉”ではなく、“業界が謙虚さを学んだ時代”として記録されるであろうとも考えており、電動化は確かに進むものの、そのスピードと形は国や市場によって大きく異なるのもまた事実。
そしてトヨタとBMWは、どんな未来が来ても生き残れる道を選んでおり、これはイデオロギーではなく、エンジニアリングに基づく判断だとも考えられ、その決断こそが彼らを勝者に導いたのだと思われます。
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参照:CARBUZZ



















