
Image:Audi
| ひとくちに「4WD(AWD)」といえど多種多様 |
なぜドイツ御三家のAWDは特別なのか?
雪道や悪路、そして高速道路でのコーナリング。
自動車を運転する上で、路面状況に関わらず「意のままに操れる安定感」はドライバーにとって最高の安心感につながります。
よって世界中の自動車メーカーが四輪駆動(AWD/4WD)システムを提供していますが、特にAudi(アウディ)、BMW(ビー・エム・ダブリュー)、Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)のドイツ御三家が開発したシステムは、その高度な技術と独自の哲学で知られており、しかしこれら「Quattro」「xDrive」「4MATIC」が具体的にどう違い、ぼくらの運転にどのような影響を与えるのか、深く理解している人は少ないかもしれません。
ここでは、エンジニアリングの視点から、それぞれのシステムの「仕組み(メカニズム)」を解説し、ユーザーのカーライフや運転スタイルに最適なAWDはどのシステムなのかを見てゆきたいと思います。
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1. アウディ:Quattro(クワトロ)― 伝統と革新を両立する多角的システム
アウディ「クワトロ」は、WRC(世界ラリー選手権)での活躍を通じてAWDの代名詞となったシステムですが、このクワトロは単一の構成を持つものではなくアウディのAWDシステム全般を指しており、実際にエンジンの搭載方法によって複数のクワトロシステムを使い分けています。
1-1. Torsen(トルセン)クワトロ【機械式・伝統のAWD】
- 搭載モデル例: 縦置きエンジンを搭載した高性能モデル(Sモデル、RSモデルの一部など)
- 仕組み: 機械式のセンターディファレンシャル(トルセンデフ)を搭載。このデフは「トルク感知型(Torque Sensing)」で、電子制御に頼らず、純粋にトルクの流れ(負荷)によって前後へのトルク配分を瞬時に調整可能。
- 特徴とメリット:
- 即応性: ホイールがスリップする前に機械的にトルクを移動させるため、反応の遅延がほとんどない。
- 安定性: 通常は40:60や50:50など、”常時”四輪にトルクを分配(フルタイムAWD)し、高いトラクションを誇る。
- 配分幅: 最大でフロントに70%、リアに80%ものトルクを振り分けることができる。
1-2. Quattro Ultra(クワトロ・ウルトラ)【燃費重視のAWD】
- 搭載モデル例: 比較的新しい縦置きエンジン搭載モデル(A4、A5など)
- 仕組み: センターデフを廃止し2つの電子制御クラッチを使用。通常走行時はリアアクスルを完全に切り離し、前輪駆動状態(FF)で走行する(フルタイム4WDではない)。
- 特徴とメリット:
- 燃費性能: リアの駆動を切り離すことで、抵抗(寄生損失)を減らし、大幅な燃費向上を実現。
- 予測制御: ステアリング角度やアクセル開度などのデータを常時監視し、スリップが起こる前にクラッチを作動させてAWDモードに移行(反応時間は250ミリ秒以下と高速)。
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1-3. Haldex(ハルデックス)クワトロ【横置き・FFベースのAWD】
- 搭載モデル例: 横置きエンジン搭載モデル(A3、TT、Q3など)
- 仕組み: 通常は前輪駆動(FF)。前輪のスリップを検知すると、リアデフ手前のクラッチパックを作動させ、最大50%のトルクを後輪へと送る。
- 特徴とメリット: 構造がシンプルでコンパクトなため小型車への搭載に適している。
2. BMW:xDrive(エックス・ドライブ)― FR(後輪駆動)思想を貫くスポーツ志向システム
BMWの「xDrive」は、「駆けぬける歓び」のブランド哲学に基づき、後輪駆動(FR)をベースとした特性を色濃く残していることが特徴で、「FF」をベースとする傾向が顕著なアウディの「クワトロ」とはまた異なる性質を持っています。
2-1. 縦置きエンジン xDrive【FRベースの主力システム】
- 搭載モデル例: ほとんどのXモデル、3シリーズ、5シリーズなど(縦置きエンジン車)
- 仕組み: トランスミッションの後ろにあるトランスファーケースに電子制御式の多板クラッチを搭載。メインの駆動は後輪で、通常時でも後輪寄りのトルク配分(例:60%後輪、40%前輪)を維持する。
- 特徴とメリット:
- FRフィール: 通常走行時やコーナリング時でも後輪駆動のフィーリングを残し、BMWらしい軽快なハンドリングを提供。
- 可変性: 必要に応じてトルク配分を最大50:50にしたり、極端な場合はほぼ100%を後輪に送ったりすることも可能。
- Mモデル: MパフォーマンスモデルやMモデルでは、さらに高度な電子制御LSD(リミテッド・スリップ・デフ)を採用し、左右輪のトルク配分も制御。
2-2. 横置きエンジン xDrive【FFベースのコンパクトシステム】
- 搭載モデル例: 1シリーズ、X1など(横置きエンジン車)
- 仕組み: 基本的にアウディのハルデックスクワトロに似ており、通常は前輪駆動(FF)。スリップを検知するとリアのクラッチを作動させ、後輪にトルクを送るというシステム。
- 特徴とメリット: 燃費とコンパクト性を両立。性能よりも「安定性」と「安全性」に重点を置いた設計となっている。
3. Mercedes-Benz:4MATIC(フォーマティック)― 安全から過激まで、幅広くカバー
メルセデス・ベンツの「4MATIC」は、常に最高のトラクションと安全性を追求して進化しており、こちらもエンジンレイアウトによって設計が大きく異なります。
3-1. 横置きエンジン 4MATIC【FFベースのシステム】
- 搭載モデル例: Aクラス、Bクラス、GLAなど(横置きエンジン車)
- 仕組み: 基本は前輪駆動(FF)。前輪のスリップを検知すると、後輪のデフ手前にある多板クラッチが作動し、最大50%程度のトルクを後輪に送る。
- AMG 45 4MATIC+: 高性能モデルでは、後輪に2つのクラッチパックを搭載し、左右の後輪で独立したトルク制御(トルクベクタリング)を行うことで、圧倒的な旋回性能とトラクションを実現可能。
3-2. 縦置きエンジン 4MATIC【FRベースのシステム】
- 搭載モデル例: Cクラス、Eクラスなど(縦置きエンジン車)
- 仕組み: 世代にもよるが、最新のシステムは後輪駆動(FR)を基本とし、必要な時にクラッチで前輪を引っ張り込む方式を採用。トルク配分は完全に可変式。
- 特徴: BMW同様、FRの走行安定性を重視しつつ、悪路での脱出性や高速安定性を高めるという考え方。
3-3. G-Class(Gクラス)の4MATIC【別格のオフロードシステム】
- 搭載モデル: Gクラス(ゲレンデヴァーゲン)
- 仕組み: 形式上は4MATICを名乗るものの他とは全く異なる設計を持ち、センター、リア、フロントの3箇所に、ドライバーが任意でロックできる機械式のデファレンシャルロックを搭載する。
- 特徴: 50:50の固定トルク配分により、デフロックをかけることでタイヤが空転しても必ず駆動力を伝える「純粋なオフロード走破性特化」のシステム。
4. 【一目でわかる】ドイツ御三家AWDシステム比較
| 特性 | Audi Quattro (Torsen) | BMW xDrive (縦置き) | Mercedes 4MATIC (縦置き/現行) |
| 基本の駆動方式 | フルタイムAWD | FR(後輪駆動)ベース | FR(後輪駆動)ベース |
| 制御の仕組み | 機械式(トルセンデフ) | 電子制御クラッチ | 電子制御クラッチ |
| トルク配分の傾向 | 均衡(40:60〜50:50) | 後輪寄り(60:40が基本) | 後輪寄りが基本 |
| 主な設計思想 | 究極のトラクション性能 | FRの走りを維持しつつ安定性を向上 | 安全・安心と快適な走行性能 |
| 燃費効率の差 | やや不利 | 〇 (燃費改善に配慮) | 〇 (燃費改善に配慮) |
| 主な派生システム | Quattro Ultra(燃費)、Haldex(FFベース) | 横置きエンジン用(FFベース) | 4MATIC+(トルクベクタリング)、Gクラス(3ロックデフ) |
5. 運転スタイルに最適なAWDの選び方
結局のところ、どのシステムが優れているのかではなく、「自分のの目的と運転スタイルに合っているか」が重要です。
| 目的・運転スタイル | 最適なAWDシステム | 理由と共感ポイント |
| 機械的な信頼性、雪道・悪路での安心感を重視したい | Torsen Quattro (Audi) | 「電子制御よりも機械の反応が好き」という人に。電子制御の介入を待たず、物理的に即座にトルクが動くため、一瞬の滑りにも対応する。 |
| 「FRらしい走り」のフィーリングを保ちたい | xDrive (BMW) | 「AWDでもBMW特有の駆けぬける楽しさは譲れない」という人に。通常時は後輪寄りの配分なので、スポーツ走行の醍醐味を味わえる。 |
| 日常の燃費も重視しつつ、安全にAWDの恩恵を受けたい | Quattro Ultra (Audi) / 4MATIC (横置きエンジン) | 「普段はほぼFFで低燃費、いざという時だけAWD」という賢い選択。通勤や街乗りが多い人に最適。 |
| 究極のスポーツ走行、過激なトラクションを楽しみたい | 4MATIC+ (AMG) / xDrive (Mモデル) | 「速さの追求、コーナーを曲がる快感を最大化したい」という人へ。トルクベクタリングなどにより、曲がる力までもアシスト可能。 |
| 舗装路を離れ、本格的なオフロードに挑戦したい | G-Class 4MATIC | 「デフロックなしには語れない」という生粋のオフローダーを求める人に。他のシステムとは一線を画す、圧倒的な走破性が約束される。 |
まとめ
Audi、BMW、メルセデス・ベンツのAWDシステムは、すべてが優れた技術ではあるものの、それぞれがブランドの哲学や、そのクルマが想定する「使い方」を反映しています。
- アウディ・・・純粋なトラクションと効率の追求
- BMW・・・FRベースのスポーツ性能の維持
- メルセデス・ベンツ・・・安全と快適性の最大化
つまるところ、これらのシステムは単なる「4WD」ではなく、ブランドDNAそのものともいえる存在です。
よって、AWDシステムを搭載するクルマを選ぶ際には、そのシステムの設計思想まで深く理解することにより、さらに満足度の高いカーライフを送ることができるのかもしれません。
そして現在は「ハイブリッド」「EV」の登場により、前後タイヤ(正確にはアクスル)が「機械的に連結されていない」4WDも登場しており、そして今後はさらに多種多様な4WDシステムが登場するものと思われ、しかしそれらも「メーカーの考え方」を示す存在であることには間違いなく、ひとくちに「4WD」といっても、さらに思想の差異が明確になってくるのかもしれません(それだけ表現力が多様化した時代にいることはある種の幸運でもある)。
アウディ、BMW、メルセデス・ベンツの4WDシステムを開設する動画はこちら
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