
| ポルシェとポルシェデザインとは「近くて遠い、遠くて近い」関係性である |
序章:ポルシェデザインの特異性と専門的定義
ポルシェデザイン(Porsche Design)は、単にポルシェのライセンス製品部門として捉えられがちですが、その本質は、創業者フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ(F. A. Porsche)によって確立された、厳格な機能主義に基づく独立したデザインアイデンティティにあり、自動車メーカーの「ポルシェ」とはその成り立ちを異にしています。
今回はこの「ポルシェデザイン」の歴史的、戦略的、そしてデザイン的な特異性、そして「機能を分析し、形態を導き出す」という普遍的な原則について掘り下げてみたいと思いますが、1972年の設立から現在に至るまでのポルシェデザインの成り立ち、素材および技術革新を伴う変遷、そして現代の工業デザインにおける多角的な活動を、デザイン哲学と企業戦略の両側面から詳細に分析してみたいと思います。
現在その製品群は、時計やアイウェアといったラグジュアリーアイテムから、最先端のエネルギー貯蔵システムに至るまで多岐にわたり、その全てが、流行に左右されない「タイムレスなクラシック」を追求するという一貫した使命に基づいているようですね。
Image:Porsche Design
第1章:成り立ち:機能主義の確立とデザイン哲学(1972年)
1.1. F. A. ポルシェと911の遺産
ポルシェデザインの歴史は、ポルシェ一族の偉大なデザインの系譜から始まります。
(自動車メーカーとしての)ポルシェ創業者フェルディナント・ポルシェの孫にあたるフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ(Prof. F. A. Porsche, 1935-2012)は、1960年代初頭に世界中のスポーツカーの「モノサシ」となるポルシェ911を設計してデザイナーとしての地位を確立した人物でもありますが、この911の成功は、彼の卓越した工業デザイン能力を世界に示す一つの、そして大きな転換点となるわけですね。
この成功によってポルシェはいくつかの変化を迎え、ひとつは「その規模が大きくなり、公的な性格を増したこと」。
そしてもうひとつは、「公的な性格を増すにつれ、ポルシェ内部で”ポルシェ創業者一族が支配力を持つことを問題視する勢力”が、無視できないほどに拡大したこと」。
Image:Porsche Design
こういった変化、とくに後者を理由としてF. A. ポルシェは数名の一族とともにポルシェAGを離脱し、より純粋で妥協のないデザイン構想を実現するため、オーストリアのツェル・アム・ゼーにデザインスタジオ「ポルシェデザイン」を設立した、というのがポルシェデザインの始まりであり、よって自動車メーカーのポルシェを退職したポルシェ一族が立ち上げた「別会社」がポルシェデザイン。
そしてこの独立は、ポルシェによる事業の多角化ではなく、彼のデザインアイデンティティ、すなわち特定の製品カテゴリーや企業の制約から解放された普遍的なデザイン原則を追求するための、明確な「デザインアイデンティティの独立宣言」であったといい、いわばF. A. ポルシェによる、「(功労者である彼を追放しようとする動きを見せた、一部のポルシェ内部の勢力に対する)自分なりの抗議」であったのかもしれません。
かくして彼はポルシェとは別れを告げ、彼自身の言葉である「良いデザインは正直なデザインである (Good design is honest design)」 という信条、そして不変の指針のもと、自身の能力のみを頼りとした活動を開始することとなります。
Image:Porsche Design
1.2. 機能主義(Function Determines Form)の徹底
ポルシェデザインの中核にあるのは「徹底した機能主義」。
F. A. ポルシェの哲学は明確に定義されており、「もしあなたが物体の機能を分析するならば、その形態はしばしば自ずと明らかになる (if you analyze the function of an object, its form often becomes obvious)」というもので、この原則は、形態が機能に従うというバウハウス的な教義をさらに厳格に適用し、装飾や流行を排することを要求しています(この思想は911設計時に確立されていたと考えてよく、そしてその思想は911を通じ、正しかったことが立証されている)。
この機能決定論の結果、ポルシェデザインの製品は、「妥協のない簡潔さで注目に値するタイムレスなクラシック」として認識され、現在においてもポルシェデザインは「機能性、ピュアリズム(純粋性)、完璧さ、関連性、そして情熱」をコアバリューとして掲げています 。
これは特定の視覚的スタイルではなく、むしろデザインプロセスに対する「態度」そのものを定義するものであり、この態度こそが、製品群を超えた一貫性と普遍性を生み出す源泉となっているようですね。
1.3. 創業期の象徴的製品:クロノグラフI(1972年)
ポルシェデザインの哲学を最初に体現し、世界に衝撃を与えた製品が1972年に発表された「クロノグラフI」。
このモデルは、「世界初のオールブラック腕時計」として時計の世界に革命をもたらしましたが、このオールブラックのデザインは、単なる美学や当時のアヴァンギャルドな流行のために採用されたわけではなく、あくまでも「機能上の理由によって採用されたもの」。
その機能的な設計理由は、F. A. ポルシェがスポーツカーのデザインで培った知見に深く根ざしていて、つまり自身が設計したポルシェ911のメーターを意識しています。
このメーターの黒いマットな仕上げは、フロントガラスへの煩わしい反射を最小限に抑え、運転中のドライバーの視認性を最大限に高めるために不可欠であり、そしてここにインスピレーションを得たクロノグラフIは、F. A. ポルシェがスポーツカーのデザイン、美学、機能性に関する彼の考えを腕時計に移植することに成功した、まさに最初の象徴的な事例です。
そしてここからも、ポルシェ911が”メーターといった細部に至るまで”妥協なき設計”を持っていたことがわかりますが(だからこそスポーツカーのメートル原器たり得たのだと思われる)、クロノグラフIの「オールブラック仕上げ」は911への「オマージュ」としてその意匠を借りたからではなく、時を知るという実用的なツールである腕時計であることを考慮して「読み取りやすさ」を追求した結果、911のメーターと同じデザインに行き着いたということを理解しておく必要があるかと思います。
Image:Porsche Design
参考までに、このクロノグラフIは、ポルシェがポルシェデザインに対し、「永年勤続車向けのプレゼントとしての腕時計をデザインして欲しい」という依頼から生まれたとされるため、ポルシェとポルシェAGとが「必ずしも対立関係にあったのではない」こともわかります。
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その一方、F. A. ポルシェがポルシェAGのデザイン部門から独立したことは、彼の機能主義哲学の保護戦略であったと考えられていて、F. A. ポルシェは911を設計した自動車デザイナーとしての専門的な知見(例えば反射防止処理、軽量化技術)を、自動車のモデルチェンジサイクルやマーケティング戦略に縛られることなく、時計や日用品といった全く異なるカテゴリーの機能的課題に応用することを可能にしており、つまりF. A. ポルシェは「自身の活動範囲を自動車のみに限定したくなかった」のかもしれません。
ポルシェデザインの製品が「タイムレス」と呼ばれるのも、形態美を追求した結果ではなく、機能的必然性から導き出された形態が、時代や流行に左右されない普遍性を備えていたためだとも考えられ、例えば、クロノグラフIのオールブラックという選択は、一時的な流行ではなく、「時間を瞬時に読み取ることができる」という普遍的かつ基本的な機能的要件に基づいているから(もちろん、ポルシェ911も同じ思想のもとで設計され、だからこそタイムレスでもある)。
この機能的普遍性こそが、後に40年以上にわたってデザインが変わらないアイウェアの成功、その他幾多もの製品群にも繋がっている、とも解釈することが可能です。
以下の表は、ポルシェデザインの初期の機能主義哲学とその製品への適用を示しています。
哲学の原則 | 定義 | 製品事例 | 機能的メリット/背景 |
機能決定論 | 機能を分析すれば、形態は自ずと明らかになる | Chronograph I (1972) | レースカーのダッシュボードに倣い、反射を抑え視認性を最大化するマットブラック仕上げ |
ピュアリズム | 余計な装飾を排除した、妥協のない簡潔さ | Studio F. A. Porsche 製品群 | 機能性を阻害する要素を排除し、誠実なデザインを追求 |
タイムレスネス | 流行に左右されないデザインの創出 | P'8479 Exclusive Sunglasses | 40年以上変わらず販売されている事実がデザインの普遍性を証明 |
第2章:変遷I:素材革新とパートナーシップ時代(1970年代後半〜1990年代)
ポルシェデザインの初期の変遷は、デザインの適用範囲を広げると同時に、特に素材技術のフロンティアを開拓することによって特徴づけられており、自動車や航空宇宙産業から得た知見を伝統的なラグジュアリー製品に「移植」することによって、業界全体の技術水準を引き上げる役割を果たしたのだと解釈されています。
2.1. ウォッチメイキングの革命:IWCとの提携とチタンの構造的応用
素材革新の最も顕著な例は、スイスの高級時計メーカーIWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)との戦略的提携から生まれた「チタン・クロノグラフ(Titan Chronograph)」。
IWCとは1977年に提携が開始され 、その成果として1980年に発表されていますが、このモデルは、”世界で初めてチタンをケース全体に使用した構造材として採用した腕時計”として時計製造史における重要なマイルストーンを築いたことでも知られます。
Image:Porsche Design
1970年代にも、チタンはダイヤル(文字盤)などに審美的な目的で限定的に使用された例があったものの、ポルシェデザインとIWCは、チタンのユニークな構造特性、すなわち軽量性と耐久性を、ケース全体と一体型のブレスレットに活用し、これによって比較的大きなサイズ(42mm径)を持ちながら優れた装着感を提供するダイバーズウォッチ「オーシャン(Ocean)」や、革新的な「コンパスウォッチ」など、技術的に先進的な製品群がこの提携時代に生み出されています(”オーシャン”シリーズは今でも高い人気を誇る)。
ポルシェデザインは、この提携において、単なるデザインの外注先ではなく、自動車工学の知見を基に、伝統的なラグジュアリー業界に対して新しい素材と技術の適用を促す「外部イノベーター」として機能することを証明し、航空宇宙産業で使用される素材の活用は、パートナー企業の技術的な限界を引き上げ、「スポーツカーのデザイン哲学」を抽象的な素材科学レベルで移植することに成功したのだとも考えられています。
2.2. アイウェア市場におけるアイコン化
ポルシェデザインの機能主義哲学は、アイウェア製品でも同様に成功を収めており、1978年に発売された「Exclusive Sunglasses P'8479」は、瞬く間にブランドの象徴的な製品へ。
このサングラスの成功の鍵は、その革新的な機能にあり、P'8479は交換可能なレンズ機構を持つサングラスとしてよく知られ、これは異なる環境下での視認性の要求に応えるという、極めて機能主義的なアプローチの「製品化」 。
この機能的必然性から導き出されたデザインは、40年以上にわたり外観が変更されておらず、世界中で約1,100万個が販売されるという、デザイン界でも稀有な永続的な市場価値を証明しています 。
この時期、ポルシェデザインは時計やアイウェアに加え、筆記具(P'3130ボールペン)、パイプ(P'3100 The Pipe)、テレビ(TV 55)といった幅広いライフスタイル製品にも手を広げ、これらは「ポルシェデザインの哲学」自体を商品化する戦略であり、特定の製品カテゴリに縛られない普遍的なデザイン価値を市場に証明する試みであったのだと捉えられています。
Image:Porsche Design
以下の表は、素材革新と多角化の時代における主要なマイルストーンをまとめたものです。
歴史的マイルストーンと製品革新の年表
年代 | 出来事 | 製品/プロジェクト | 革新性の内容 |
1972 | Porsche Design設立(F. A. Porsche) | クロノグラフI | 世界初のオールブラック腕時計(視認性向上) |
1977 | IWCとの戦略的提携開始 | - | 高級時計製造における素材革新の基盤 |
1978/79 | アイウェア市場参入 | Exclusive Sunglasses P'8479 | 交換可能なレンズ機構の導入(機能的適応性) |
1980/81 | チタン製時計の提供開始 | Titan Chronograph | 世界初のチタンを構造材に用いた腕時計 |
1989 | 製品多角化 | TV 55 (テレビ) | 多岐にわたる工業製品へのデザイン哲学の適用 |
第3章:変遷II:ブランド統合と企業構造の進化
21世紀に入ってポルシェデザインは企業構造を大きく進化させ、創業者が求めたデザインの独立性を維持しつつも親会社ポルシェAGとの関係を強化し、事業の統合と集中が進められたのもこの時期です。
3.1. 企業としてのポルシェデザイングループの確立
現在のポルシェデザイングループ(Porsche Design Group)は「自動車メーカーのポルシェ」に買収され、Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft (ポルシェAG) によって100%所有されています 。
ここではポルシェAG傘下の「Porsche Lifestyle Group」の一部として機能していて、車両事業とは独立したライフスタイル・ブランド事業を担っていますが、経営面では、ステファン・ブッシャー(Stefan Buescher)が最高経営責任者(CEO)を、フォルカー・ストロトマイアー(Volker Strotmeier)が最高財務責任者(CFO)を務める体制にて運営されています 。
ポルシェAGによる完全所有 は、かつてF. A. ポルシェが独立した動機(純粋なデザインの追求、ポルシェ内におけるポルシェ一族の権力の希薄化)とは一見矛盾するように見えますが、しかしこの体制は、ポルシェデザインに対して強固なブランドの信用と安定した資源供給を保証することとなり、これによってポルシェデザインは、後述するStudio F. A. Porscheを通じ、自動車ブランドに縛られない外部の工業デザインコンサルティング事業を、高い信頼性をもってグローバルに展開することが可能となっているわけですね。
これは、親会社(ポルシェAG)がポルシェデザインを単なるマーチャンダイジング部門ではなく、普遍的なデザイン知見を提供する独立したプロフィットセンターとして尊重していることの表れでもあり、そしてポルシェデザインは「期待された利益」を生み出すべく、ポルシェAGの持つ”あらゆる資産”を駆使することが可能となり、いわゆるWin-Winの関係が成立しています。
3.2. ブランドアンバサダー戦略と認知度拡大
現代のポルシェデザインは、伝統的な機能美に加え、グローバルな高級ブランドとしての魅力を高めるマーケティング戦略を採用しています。
その一環として、ハリウッド俳優のオーランド・ブルームが、タイムピースおよびアイウェアコレクションの新しいブランド・アンバサダーに就任しており、これは厳格な機能主義を基盤としつつも、現代のグローバルなラグジュアリー市場におけるブランドの認知度と魅力を戦略的に高めることを目的としています。
3.3. ウォッチメイキングの再集中と製造の統合
IWCとの提携終了後、ポルシェデザインは時計製造事業を内製化する道を選ぶこととなり、腕時計メーカーを買収し自社に組み込むことによって独自の時計製造部門「Porsche Design Timepieces AG」を設立し、スイスのゾロトゥルン(Solothurn)に製造拠点を置いています 。
この製造拠点では、ブランドのアイコンを現代の技術で再解釈した限定版モデル(例:Chronograph 911 Spirit 70、Chronograph 1 Utility – Limited Edition)が手作業で製造され、特に、最新のタイムピースには、特許取得済みの炭化チタン(Titanium Carbide)などの最先端技術が採用されており 、これは第2章で確立された素材革新の伝統を継承するもの(初期のクロノグラフI、その後のチタンシリーズとのハイブリッドであるとも考えられる)。
F. A. ポルシェの哲学は、彼が亡くなった後も「デザインに対する姿勢」として受け継がれており、現代の限定版ウォッチに見られるように、デザイン要素には、1970年代の911のシートに採用された「パシャ柄」や、クラシックモデルのレヴカウンターの配色(蛍光グリーンやトラフィックレッド)といった、自動車のヘリテージから抽出された審美的な要素が抽象的に融合されています 。
それでもこれらは「単なるレトロテイストの表現」にとどまらず、最新の素材(炭化チタン)や技術をもって製造され、最適な視認性と着用感という機能的要件を満たすように再構築されており、これはまさに「ヘリテージを現代の機能的要件で再定義する試み」であると考えていいのかもしれません。
第4章:現代:Studio F. A. Porscheの活動と工業デザインの再定義
現代のポルシェデザインの最も重要な活動領域は、デザイン哲学の普遍性を証明する、Studio F. A. Porscheによる広範な工業デザインコンサルティング事業であり、現在のポルシェデザインはポルシェブランドの枠を超え、世界的なデザインの権威としての地位を確立すべく展開を見せています。
4.1. Studio F. A. Porscheの役割とミッション
Studio F. A. Porscheの本社は創業時のポルシェデザインと同じくオーストリアのツェル・アム・ゼー。
その一方、ベルリン、ロサンゼルス、シンガポールなどにグローバルな拠点を展開しており、プロダクト、モビリティ、インテリアデザインを専門とし、そのミッションは、機能性、ピュアリズム、完璧さを核として、「革新性と機能性を通じて日常生活に具体的な価値を提供する製品創造」だと定義されています。
ポルシェデザインは45年以上にわたり、特定の産業に限定されることなく、外部の主要なグローバルブランドとの協業を通じて活動を続けているというのがこれまでの流れではありますが、これもまた創業者の意思を「そのまま」反映した思想だと捉えることもできそうですね。
4.2. B2Bデザインへの注力と戦略的提携
Studio F. A. Porscheのデザイン哲学が、自動車や高級品とは全く異なる分野においても普遍的に適用可能であることを証明しているのが「B2Bデザインコンサルティング」。
ポルシェデザインは、権威あるiF Design Awardにおいて、通算100回目の受賞という画期的なマイルストーンを達成しており 、そのデザインの客観的品質が国際的に高く評価されています。
特に注目すべきは、以下のiF Gold Award受賞プロジェクトで、これらの成功は、ポルシェブランドのネームバリューではなく、デザインそのものの品質が高く評価されていることを意味します。
Image:Porsche Design
- Ampere.StoragePro E3(ソーラーバッテリー貯蔵): この家庭用エネルギー貯蔵ソリューションは、高機能性とモダンな美学を見事に融合させており、モジュール設計はシームレスな拡張性を可能にし、斜角のインターフェースは最適なユーザーアクセスを実現。機能的なデバイスを超越し、「建築的な存在感」を持つデザインとして評価されている 。
- Panasonic ALPHA Set(洗濯機&乾燥機): 最先端技術と洗練されたモダンデザインが融合した家電製品。従来のボタン配置に異議を唱えるLCD磁気コントロールパネルを特徴とし、ユーザーに対して直感的でシームレスな操作性を提供している 。
- Artweger PRESTIGE(シャワーエンクロージャー): 最小限の外観を保ちながら機能性を向上させた例。革新的な開閉ヒンジがロッドプロファイルに統合され、扉を最大360度まで開けることが可能になり、ユーザー体験を劇的に向上 。
こういった「自動車とはまったく関係がない」、洗濯機やホームエネルギーストレージといった分野でもiF Gold Awardを獲得している事実は、F. A. ポルシェの「機能決定論」が持続可能性、エネルギー、スマートホームといった現代の複雑な技術課題に対しても普遍的に適用可能であり、最高峰の成果を生み出すことを証明しているかのようですね。
以下の表は、現代Studio F. A. Porscheの主要なデザインプロジェクト(抜粋)を示しています。
現代Studio F. A. Porscheの主要なデザインプロジェクト(抜粋)
クライアント/カテゴリー | プロジェクト名 | デザイン領域 | 特徴的なデザイン要素 |
エネルギー貯蔵 | Ampere.StoragePro E3 (Gold Award) | B2B/工業デザイン | モジュール設計、斜角の人間工学インターフェース、建築的な存在感 |
家電 | Panasonic ALPHA Set (Gold Award) | B2B/家電 | LCD磁気コントロールパネルによる直感的な操作性、ピュアなステンレスボディ |
タイムピース | Chronograph 1 Utility | 高級時計製造 | チタンカーバイド素材の使用、軍用クロノグラフからの機能的インスピレーション |
4.3. 現代のハイエンドライフスタイル・ポートフォリオ
ポルシェデザインの現代的なライフスタイル製品ポートフォリオはデジタル時代に合わせて進化し、高い性能と耐久性を追求していますが、これら新世代の製品には高性能モニター(Porsche Design AOC Agon Pro PD34)やBluetoothヘッドフォン、スピーカーなどのマルチメディアアクセサリーが含まれます 。
特にノートPCスリーブやタブレットケースといったデジタルデバイスの保護アクセサリーにおいては、素材の選択が機能性を決定づけており、耐久性と軽量性を追求してカーボンファイバー、ナッパレザー、ネオプレーンといった高耐久かつ軽量な素材が多用されることに。
これは、1972年のクロノグラフIが911のダッシュボードから機能性を抽出したのと同様に、「素材や加工による機能性の最適化」という哲学を、現代のデジタルデバイスの保護と耐久性という新たな機能的要件に転用していることを示す例にほかなりませんが、過去のイノベーション(チタンの利用)が軽量化と耐久性 に貢献したように、現代のカーボンファイバー はデジタル時代における「移動性と耐久性」という新たな機能的課題を解決するために利用されています。
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結論:時を超越したデザイン哲学と将来的な展望
ポルシェデザインの半世紀以上にわたる歩みは、創業者F. A. ポルシェが提唱した「機能が形態を決定する」という一貫した哲学によって厳格に特徴づけられていますが、この徹底した機能主義こそが、ポルシェデザインを、単なる自動車ブランドのライセンス部門ではなく、工業デザイン界における独立した権威へと押し上げた決定的な要因です。
ポルシェデザインの独自性は、以下の二点に集約されます。
- 機能的必然性の追求: デザインの形態は、常に具体的な機能的課題の解決、例えば視認性(クロノグラフI)、軽量化と耐久性(チタン・クロノグラフ)、あるいは操作性(Ampere.StoragePro E3のインターフェース)といった、普遍的な要件から導き出されている。これにより、ポルシェデザインは、一時的な美意識や過剰な装飾に依存する競合他社とは一線を画したデザインを実現している。
- 技術的普遍性の証明: Studio F. A. Porscheによる外部クライアントとの協業の成功、特にエネルギー貯蔵システムや家電製品といった異分野でのiF Gold Award獲得 は、ポルシェのデザイン哲学が、自動車という特定の領域を超え、持続可能性やスマートホームといった現代の複雑な技術課題に対しても有効であり、最高レベルの成果を生み出すことを客観的に証明している。
ポルシェデザインは、ポルシェAGの完全所有体制の下で経営的な安定性とブランドの信用を享受しつつも、Studio F. A. Porscheという形でデザインの独立性を維持し、その技術的知見を外部に展開する独自のビジネスモデルを確立しています。
今後も、その構造的独立性とエンジニアリングに根ざしたデザインアプローチにより、モビリティ、デジタルテクノロジー、そしてエネルギーソリューションといった分野において、機能と形態の完璧な共生を目指し、工業デザインの最前線に立ち続けることが予測され、「ポルシェ」の名を様々な業界へと轟かせることになりそうですね。
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参照:Porsche Design