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2026年のポルシェは「利益99%消滅の2025年」から「聖域なきリストラ」と「超富豪戦略」へ。10年の黄金期を築いた前CEOが去り、マクラーレン出身の新CEOが手腕をふるう

ポルシェ

| マクラーレン出身といえど、新CEOはポルシェに在籍していたことも |

【この記事の要約:30秒でわかるポルシェの現在地】

  • 利益激減の衝撃: 2025年第3四半期は赤字。年初9ヶ月の営業利益は前年比99%減の4,000万ユーロ(前年は約40億ユーロ)
  • EV戦略の挫折: 「2030年にEV比率80%」の目標を事実上撤回。戦略転換に伴う特別損失が約31億ユーロに
  • リーダー交代: 10年率いたオリバー・ブルーメ氏から、フェラーリ・マクラーレンを渡り歩いた「技術と財務の鬼」マイケル・ライターズ氏へ
  • 生き残りへの舵切り: 普及価格帯を捨て、1台数億円の「ワンオフ(特注)」やハイブリッド車に注力する超高級路線へ

「最新のポルシェこそ最良のポルシェ」。

これは進化を続ける911に否定的な「保守派」に対抗するためにポルシェが主張した”格言”ではありますが、今は経営の文脈において「最新の戦略が最新なのか」が試されています。

ここで2025年を振り返り、2026年からの新しいポルシェの戦略を整理してみたいと思います。

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ポルシェの営業利益がなんと「1/100」、営業利益率は「1/70」に。2025年はもしかすると「赤字」、しかし2026年からは力強い成長を見込む
ポルシェの営業利益がなんと「1 / 100」、営業利益率は「1 / 70」に。2025年はもしかすると「赤字」、しかし2026年からは力強い成長を見込む

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ポルシェは2026年から「新体制」へ

2025年12月30日、ポルシェはシュトゥットガルトの本社にて、10年間にわたりブランドを牽引してきたオリバー・ブルーメCEOを拍手で送り出しています。

ただしこれは同氏が「責任を問われて解任」されたわけではなく、兼任していたフォルクスワーゲングループのCEOへと”専念”するため。

かねてより同氏の「ポルシェとVWグループ」との二足のわらじについては懸念が示されており、「パフォーマンスかつプレミアムブランドのポルシェ、そして大衆車ブランドのフォルクスワーゲンを中心としたVWグループの運営は方針として相反する可能性がある」「そもそもリソース的に無理なのでは」などの意見があり、今回は(ポルシェの不振もあって)そういった意見を一蹴するための対策です。

もちろん、こういった対策が必要になったのはは「厳しい現実」があったからで、これまで通りの「成長」が記録できていたならば、こうした「CEO交代」は怒らなかったのかもしれません。

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【ポルシェ新CEO決定】元マクラーレンCEOミヒャエル・ライターズ博士が2026年1月より「出戻り」就任。オリバー・ブルーメ氏はVWグループCEOに専念へ
【ポルシェ新CEO決定】元マクラーレンCEOミヒャエル・ライターズ博士が2026年1月より「出戻り」就任。オリバー・ブルーメ氏はVWグループCEOに専念へ

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2025年、ポルシェを襲った「三重苦」の正体

いまポルシェが直面しているのは、単なる一時的な不調ではありません。3つの大きな要因が重なった「パーフェクト・ストーム(最悪の事態)」です。

① 中国市場の「黄金時代」の終焉

かつてポルシェにとって最大の利益源だった中国市場。しかし、現地EVメーカーとの激しい価格競争と景気後退により、2025年の販売台数は26%も急落し、「ポルシェなら売れる」という神話が崩壊することに。

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② EVシフトの計算違いと巨額損失

「タイカン」に続くEV化を急ぎすぎた結果、市場の需要が追いつかず、開発中だった複数のEVプラットフォームを凍結。この戦略転換により、約31億ユーロ(約5,000億円)もの巨額な減損費用が発生する。

ポルシェ
ポルシェ718ケイマン/ボクスター、次期モデルは911GTS譲りのハイブリッド水平対向6気筒を搭載か?もちろん価格は大きく上がりそう

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③ 米国による15%の関税障壁

トランプ政権による輸入車への15%関税がポルシェの収益を直撃。米国に工場を持たず、全車両をヨーロッパから輸出しているポルシェにとって、この関税は年間で約7億ユーロの重荷となる。

ポルシェ
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数字で見るポルシェの変遷:ブルーメ時代の光と影

オリバー・ブルーメ氏がポルシェを率いた10年間は”爆発的な成長と現在の停滞”という両極端な結果を生みだしており、販売台数含む数字だけを見ると、「就任前」から悪化しているのが興味深いところです。

項目2015年(就任時)2024年(ピーク時)2025年(現在)
納車台数約22.5万台約31.0万台約21.2万台(9ヶ月)
従業員数約2.5万人約4.2万人リストラ進行中
営業利益率約15%約18%0.2%
戦略の柱規模の拡大デジタル・EV化コスト削減・ICE回帰
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マイケル・ライターズ新CEOによる「逆転のシナリオ」

2026年1月1日から指揮を執るマイケル(ミヒャエル)・ライターズ氏は、フェラーリやマクラーレンで「いかに少数・高単価で利益を出すか」を叩き込んできたプロフェッショナルであり、ポルシェではかつてカイエンの開発を主導したことも。

マクラーレン
マクラーレン新CEOに前フェラーリ重役、そしてポルシェに在籍したマイケル・ライターズ氏が就任。プロサングエ、カイエンの開発経験を買って「マクラーレンもSUVを」?

| このシナリオは「マクラーレンがSUVを開発」するもっとも現実的なものでもある | マクラーレンの今後の動向には期待がかかる さて、マクラーレンの新しいCEOにマイケル・ライターズ氏が指名された、と ...

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「経営」よりも「技術」に明るい人物であり、彼の戦略は明確です。

  • 「数」より「利益」: 無理な増産を止め、1台あたりの利益率を再び20%以上に引き上げる
  • 内燃機関(ICE)の延命: 市場の需要に合わせ、カイエンやパナメーラのガソリン車・ハイブリッド車を2030年代まで販売継続
  • 「超富豪」への特化: 「ソンダーヴンシュ(特別リクエスト)」プログラムを強化。世界に数台しかない、数億円単位のコーチビルド(受注生産)モデルを増やし、真の富裕層を狙い撃ちにする

実際のところ同氏はマクラーレンにおいて「量より質」への転換を成功させており、よって今後はポルシェにおいてこれを再現するということになりそうです。

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マクラーレン
マクラーレンCEO「我が社の平均販売単価が4570万円になりました」。現在は量から質への転換中、ただし「オプションの押し売り」は行わないもよう

| マクラーレンはかつて「販売台数」を追求したがために本社を失うまでの窮地に陥っている | しかし現在、「理想」に向けて順調に回復への歩を進めているようだ さて、マクラーレンCEO、マイケル・ライター ...

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ポルシェは再び「夢」を取り戻せるか

ポルシェが選んだ道は、中産階級に向けた「手が届くラグジュアリー」からの決別ともいえるもので、中産階級が縮小し、富が一部に集中する現代において、ポルシェは再びフェラーリのような「選ばれし者のための象徴」へと回帰しようとしています。

2025年を「底」とし、2026年から反撃に転じることができるのかどうか。

マクラーレンからやってくる「エンジニアの心を持つCEO」、マイケル・ライターズ氏の手腕に世界中の投資家とファンが注目しているというのが現在の情況です。

マクラーレン
マクラーレン新CEOに前フェラーリ重役、そしてポルシェに在籍したマイケル・ライターズ氏が就任。プロサングエ、カイエンの開発経験を買って「マクラーレンもSUVを」?

| このシナリオは「マクラーレンがSUVを開発」するもっとも現実的なものでもある | マクラーレンの今後の動向には期待がかかる さて、マクラーレンの新しいCEOにマイケル・ライターズ氏が指名された、と ...

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ポルシェは「理想と現実」とのはざまにて揺れ動く?

今回のポルシェの決断は、自動車業界全体が直面している「EVへの理想」と「ビジネスとしての現実」の乖離を象徴しているかのよう。

特に興味深いのは、マクラーレンからCEOを招聘した点で、ポルシェはこれまで「毎日乗れるスポーツカー」という汎用性を売りにしてきたものの、これからは「所有すること自体が究極の資産となる」ブランドへの転換を目指しているのだとも考えられます。

これは、ポルシェというブランドが再び「稀少性」を取り戻すための、痛みを伴うリセットなのかもしれません。

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