
| EUのEV一辺倒政策が「現実路線」に舵を切った理由 |
電動化をひたすら追求してきた自動車メーカーにとっては「悲劇」ではあるが
欧州連合(EU)はこれまで、地球温暖化対策の旗振り役として自動車メーカーに対し極めて厳しい排出ガス規制を課しており、特に「2035年以降、ハイブリッド車を含む内燃機関(ICE)搭載車の新車販売を事実上禁止する」という目標は自動車業界に大きな変革を迫るものとして認識されています。
しかしここに来てその強硬な政策が大きく揺らいでおり、最新情報によるとEUが2035年の期限を緩和し、さらに2040年以降もICE車の販売を容認する可能性が極めて高くなっているとされ、この「ICE車禁止の事実上の撤回」は自動車業界、そしてぼくらのカーライフに衝撃的な影響を与えることとなりそうです。※少し前には「条件付き」でこの禁止法案を撤廃すると言われていたが、今回の内容だと「条件なし」での撤廃になる
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【ガソリンエンジンの勝利】EU、内燃機関禁止を事実上撤回へ。2035年以降も「条件付き」で新車販売を容認
| EUが「技術中立性」に舵を切る。内燃機関の延命をかけた新たな戦略へ | もちろんその「条件」とは合成燃料(E-フューエル)、バイオフューエルの使用である 欧州連合(EU)は2035年以降の内燃機関 ...
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この記事のポイント
- ICE禁止の撤回: 2035年の新車CO₂排出量目標が「100%削減」から「90%削減」へ大幅に緩和される見通し
- 2040年以降も存続: 2040年以降も100%削減目標が課されないことで、内燃エンジン車の未来が開ける※つまり合成燃料を必ずしも使用しなくていい
- プラグインHVの復活: 緩和目標により、PHEV(プラグインハイブリッド車)が生き残る道が明確に
- 世界的影響: 欧州での決定は、生産維持と雇用確保、そして世界のパワートレインの多様性に直結
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EUが2035年に全面禁止を掲げた「内燃機関車の販売」に例外が認められ、内燃機関に”生き残り”の道が開かれる
| 2035年、EUでCO2を排出する新車販売の「完全禁止」そのものは覆らない | 「合成燃料(e-フューエル)限定」にて内燃機関は残りそうだ 「2035年以降、CO2を排出するすべての乗用車の新規販 ...
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EUがICE規制を緩和した具体的な内容と背景
規制緩和の具体的な内容:「100%削減」目標の放棄
EUにおいて、新車販売の規制緩和の動きが顕著になっているというのが直近の状況ではありますが、報道によると、欧州議会の最大会派である欧州人民党(EPP)のマンフレート・ウェーバー党首がEUの執行機関である欧州委員会との間で以下の重要な合意に達したことを示唆した、とのこと。
| 規制項目 | 旧目標(事実上のICE禁止) | 新目標(緩和案) |
| 2035年以降の新車CO₂排出量削減目標 | 企業フリート平均で100%削減(ゼロエミッション) | 企業フリート平均で90%削減 |
| 2040年以降のCO₂排出量削減目標 | 事実上の100%削減が示唆されていた | 100%削減目標は課されない |
| 結果 | 内燃機関(ICE)車の新車販売は全面禁止 | 内燃機関への技術的な禁止は撤廃される |
この合意が意味するのは、2035年以降も残り10%の削減幅が許容されることで、内燃エンジン車を搭載したプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売継続が可能になる道が開かれたという事実です。
また、バッテリー充電用の発電機としてエンジンを搭載するレンジエクステンダー付きEVなども引き続き容認されることになります。
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ICE規制の緩和が「既定路線」になった背景
これまでEUは「規制」という言葉が代名詞となるほど、自動車メーカーに厳しいガイドラインを課してきましたが、フリート排出ガス目標の厳格化は収益性の低いとされるEVへの移行をメーカーに強制するものであり、多くのメーカーが困難に直面していたというのがこれまでの「現実」。
今回の規制緩和は、自動車メーカーからの持続的な圧力と、EV一辺倒では市場と産業が立ち行かないという現実認識の結果であると考えられますが、過度の規制による経済活動の停滞、ひいては雇用の消失、それによってもたらされる経済不安を回避するための対応であるとも考えられます。
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- 自動車メーカーの反対: ボルボやポールスターなどの一部例外を除き、多くの自動車メーカーが2035年禁止に強く反対していた
- 最大会派の圧力: EPPは欧州議会で最も影響力のある最大会派であり、そのトップであるウェーバー氏の発言は、政策変更への強い意思を示している
- 現実的な判断: 2040年以降も100%削減目標を課さないという判断は、当初の禁止策が性急であったことをEU側が認めた明確な証拠と言える
業界と世界への計り知れない影響
EU市場での新車規制は、その市場規模の巨大さゆえに世界的な影響力を持ち、これまでEUにならって「2035年までに内燃機関の販売を禁止する」としていた国や地域も今回のEVの「方針変更」に準ずる可能性が非常に高く、これまで「その方向にむけて」様々な対応を行い、巨費を投じてEVの開発を進めていた自動車メーカーにとっては不本意な流れではあるものの、ぼくらにとっては「歓迎すべき」状況だとも認識しています。
- 生産体制の維持と雇用: ICE車の生産継続が可能になることでエンジン工場を稼働させ続けることができ、数十万人の雇用が守られることに。これは、自動車産業を主要な柱とするドイツなどにとって極めて重要である
- パワートレインの多様性維持: EU市場という重要拠点でICE車が存続すればEV化が遅れる非EU諸国の顧客にとっても、多様なパワートレイン(ガソリン、ディーゼル、ハイブリッド)から選択できるというメリットが維持される
- 技術開発の継続: メーカーはEV一本に絞る必要がなくなり、PHEVや合成燃料(e-fuel)など、ICEを活用した技術の進化に引き続き投資することが可能となる
結論:自動車産業の未来は「多様性」の時代へ
今回のEU規制緩和の動きは、「EVだけが唯一の正解ではない」という現実路線への大きな転換を示しており、環境への配慮は引き続き最重要課題ですが、今回の「事実上の内燃機関廃止」につき、その達成方法として一つの技術に固執するのではなく、PHEV、レンジエクステンダー、そして将来的なe-fuelといった様々な選択肢を持つことが持続可能な社会への現実的な道であると再認識された結果であるとも言えそうです。
そしてこの決定は自動車メーカーに開発の猶予と柔軟性を与え、ぼくら消費者に対しても「より多様で現実的な選択肢」を提供することとなりますが、自動車業界は技術的な禁止に縛られることなく、「いかにCO₂排出量を削減するか」という本質的な目標に向かって再び競争を始めることになることは間違いなく、今後は「目的」達成のため、各自動車メーカーが自社にとって最適な「手段」を用いることとなるのかもしれません(これまでは目的と手段とが入れ替わっていたフシがある)。
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