| アストンマーティンはフェラーリやマクラーレンから多数のエンジニアなどスタッフを引き抜いていたが |
それらスタッフはもう「用済み」となってしまい去就が気になる
さて、アストンマーティンは前々アンディ・パーマーCEOの時代に「ミドシップスポーツ」セグメントへ参入し、フェラーリやマクラーレン、ランボルギーニに対抗する意思を示していましたが、その後経営体制が変わるに際し、「その計画を諦めた」との報道。
ちなみにアストンマーティンはそれまでにミドシップカーを発売したことがなく、しかし強豪ひしめくこのセグメントに参入するにあたり、以下の計画を立案しています。
- まずは(アストンマーティン初のミドシップスポーツである)ヴァルキリーを発売
- ヴァルキリーをもってニュルブルクリンクへと挑戦し、圧倒的な速さを示すことでアストンマーティンのミドシップの優位性を誇示
- その後にやや価格が安めのハイパーカー、ヴァルハラを発売することでさらに「アストンマーティン=ミドシップ」というイメージを浸透させる
- さらにその後、フェラーリやマクラーレン、ランボルギーニのミドシップモデルと同等の価格帯にて、ミドシップ化された新型ヴァンキッシュを発売することで販売を拡大し、市場の制圧を狙う
しかし最後の「ミドシップ版ヴァンキッシュ」計画が潰える
現在アストンマーティンはヴァルキリーのデリバリーを進めており、ヴァルハラの発売に向けて進んでいるところではありますが、今回の報道だと最後の「ミドシップ化されたヴァンキッシュ」計画が凍結され、つまりはこれが発売されることはない、とのこと。
ちなみにヴァルキリーとヴァルハラは「もう引き返せない」ところまで計画が進んでおり、顧客に対しても納車を約束したり保証金(デポジット)を受け取っていたりしたために「計画をキャンセルすると大きな問題になる」という理由があったのかもしれません。
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ではなぜアストンマーティンが「もっとも台数が売れるであろう、ヴァンキッシュのミドシップバージョン」計画を破棄したのかについて、これは現在経営権を握っているローレンス・ストロール会長が「台数は重要ではない」という考え方を持っており、台数よりも1台あたりの利益を追求するという思想を持っているからだと報じられています。
ちなみに(これから発売される)ヴァルハラにつき、ローレンス・ストロール会長は「非常に印象的なクルマである」と述べていますが、これはカーボン製シャシーを採用し、搭載されるエンジンはメルセデスAMG由来の4リッターV8ツインターボ、トランスミッションは8速デュアルクラッチ、そして前後アクスルに1つづつ(計2つ)のエレクトリックモーターを有することでシステム合計1,000馬力以上を発生させるハイパーカー。
生産台数は999台を予定していて、つまりヴァルキリーの「クーペ150台、オープンモデル85台」よりはかなり多い数字ではあるものの、すでに全数完売しているとも言われているので、生産が開始され納車が進めばアストンマーティンの収益性を飛躍的に改善させることができるのかもしれません。
ただ、ローレンス・ストロールCEOは「ヴァルキリーやヴァルハラのようなハイパーカーは、開発にコストが掛かりすぎる」とも述べており、「二度と同様のクルマを作ることはない」ともコメントしていて、よってヴァルキリー、そしてヴァルハラは「非常に希少性が高い」クルマとなりそうですね。
アストンマーティンが重視するのは収益性と排他性
なお、正確に表現するならば「収益性と排他性」を最重要視するというのがローレンス・ストロール氏の考え方であり、つまり「これまでのCEOは、フェラーリなど他社の製品に対抗し競争する考え方を持っていたが、ローレンス・ストロール会長はむしろ競争ではなく、ライバルと比較されない(できない)領域に行く」という真逆の戦略を採用しているとも考えられます。
そして「排他性」を実現する方法については、「究極のラグジュアリー(たしかにこれはフェラーリやマクラーレン、ランボルギーニには真似できない)」「F1との密接な関係性」「超高性能」。
後ろの2つについてはフェラーリやマクラーレンでも持ち得る特性ではあるものの(ただし現段階ではアストンマーティンのほうがF1では好成績を納めている)、しかしこれら3つすべてを満たすとなると「アストンマーティン以外では実現できず」、つまりこれがアストンマーティンの持つ排他性というわけですね。
そしてこの排他性が利益を生むということになり、同氏の考え方としては「自社の強みをとことん伸ばし、それでお金を稼ぐ」ということになりそうです(ローレンス・ストロール氏は自動車業界出身ではなく、ファッション業界出身のビジネスマンである)。
このほかにも前経営陣との大きな考え方の相違があり、たとえばアンディ・パーマーCEOが行った新しい(ウェールズ)工場への投資も「自分だったら絶対にやってない」とコメントしていて、ローレンス・ストロール氏はむしろ「工場を拡大したり増やすよりも、小規模な工場で、高品質で高価格なクルマを徹底した管理のもとで作りたかった」のかもしれません(ただ、すでに新工場は完成してしまったので、これを閉鎖するほうが維持するよりもコストがかかるといい、よってこの工場はしぶしぶ残されることになる)。
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ちなみにローレンス・ストロール氏は「30万ドルのミドシップスーパーカーのような普通のクルマはアストン・マーティンにはうようである」と表現したそうですが、30万ドル(4200万円)のクルマを普通だと言い切っているあたりを見るに、今後のアストンマーティンのラインアップは現行モデルに比較してぐっと高くなり、それによってライバルとは別次元に行ってしまうのかもしれません。
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参照: Autocar