| 現在のアストンマーティンは「他社のシェアを狙う」よりは「独自の市場を創出し、そこで王として君臨する」戦略を選んでいる |
たしかにアストンマーティンが生き残るにはその方法がベターであると考えられる
さて、「アストンマーティンがミドシップ版ヴァンキッシュを発売しないのでは」というウワサ。
「ミドシップ版ヴァンキッシュ」について(けっこう前に出た話なので)おさらいしておくと、これは前々アストンマーティンCEO、アンディ・パーマー氏の時代に企画されたクルマであり、同氏による「ヴァルキリー、ヴァルハラ、ミドシップ版ヴァンキッシュ」というミドシップ三兄弟を発売し、フェラーリやマクラーレン、ランボルギーニなどミドシップスーパーカーを核とするブランドに対抗しようという計画の一環であったわけですね。
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レッドブル代表「ヴァルキリーは、当時フェラーリへと移籍しようとしていた我々のデザイナーを引き止めるため、彼の要望を聞き入れて企画した。ただそれだけのためにね」
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アストンマーティンは巨費を投じて「ミドシップ」計画を進めていたが
なお、アストンマーティンはこれまでに(コンセプトカーとしては「ブルドッグ」が存在するものの)ミドシップスポーツを発表したことはなく、伝統的にフロントエンジンを採用する会社。
ただ、当時のアンディ・パーマーCEOはプレゼンスを高め販売を伸ばすためにフェラーリ、マクラーレン、ランボルギーニへの対抗を戦略に組み入れてミドシップスポーツの開発にかかり、その段階ではフェラーリから多くのエンジニアを引き抜いたことも。
参考までに、当時フェラーリが「そこまでして我々に対抗しようという自動車メーカーが存在することは光栄である」というコメントを残していますが、さらにアストンマーティンは「60年ぶり」となる自社エンジンの開発を進めるなど、かなりのコストを投じています。
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しかしその後に事態が急変する
しかしながらその後、コロナウイルスのパンデミックによってアストンマーティンの販売が激減して「あわや倒産か」というところまで事態が悪化し、これによって経営体制が刷新されることになるのですが、支援の手を差し伸べたのは実業家でカーコレクター、そして当時レーシング・ポイントF1チームを運営していたローレンス・ストロール氏とメルセデスAMG。
かくしてレーシング・ポイントはアストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラワンチームへと生まれ変わり、アストンマーティンのCEOはメルセデスAMGからやってきたトビアス・メアース氏へと交代しています。
この段階でいくつかのアストンマーティンの計画はキャンセルされ、具体的には「ラゴンダ」、そして上述のV6エンジン開発も凍結され、このエンジンの代わりを務めることになったのがメルセデスAMGの4リッターV8ツインターボ(この前からアストンマーティンはメルセデスAMG製のV8エンジンの供給を受けていたが、アストンマーティンはこれを嫌い自社開発のV6エンジンに置き換えようとしていた)。
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しかしその体制においてもひと悶着あったようで、トビアス・メアース氏はわずか2年で退任の憂き目に遇い、かわりにCEOへと就任したのが元フェラーリのアメデオ・フェリーサ氏です。
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メルセデスAMGからやってきたアストンマーティンCEOがわずか2年で退任の憂き目に。どうやら再建計画の遅れの責任を問われたようだ・・・新CEOはフェラーリから
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現在のアストンマーティンは方向性を大きく変える
そしてようやく今回の本題なのですが、いくつかのカーメディアが報じているのが「ミドシップ版ヴァンキッシュのキャンセル」。
これについてはいくつかの理由があるものと思われ、まずは高額な開発費。
本来であれば、ローレンス・ストロール氏は「ミドシップ三兄弟」すべてをキャンセルしたかったのだと思われ、しかしヴァルキリーは「もうキャンセルできないところまで」計画が進んでいたために発売したと説明されており、さらにアストンマーティンは「こういったハイパーカーの開発費は天文学的数字となるため、今後二度とないだろう」とも。
ヴァルハラにおいても事情は同様だと思われ、「開発費を捨ててキャンセルするよりは、なんとか発売にこぎつけたほうがまだマシ」という判断になったのだと考えてよく(予約もけっこう入っていたという)、しかし上述の通りエンジンをV6からV8へと変更して発売の予定であることが公式に語られています。
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ただし「ミドシップ版ヴァンキッシュ」についてはまだ開発がそこまで進んでいなかった可能性があり、よってアストンマーティンはこれをキャンセルすることにしたのだと推測できますが、ここで判断に関係したであろう理由が「ブランドの方向性の変化」。
以前のアストンマーティンは「フェラーリ、マクラーレン、ランボルギーニ」へと対抗しようと考えていたものの、新しいアストンマーティンは「他社に対抗するよりも自社の強みを活かす」方向へとシフトしており、むしろフロントエンジンレイアウトを強調した優雅で高級なグランドツアラー路線を目指すべく「スーパーツアラー」なる新しいセグメントを提案しています。※加えて、販売台数ではなく販売単価=1台あたりの利益を引き上げる方針である
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アストンマーティンの新時代を告げるDB12正式発表!新エンブレムを装着するはじめてのアストンであり「グランドツアラーではなくスーパーツアラーです」
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よって、この路線上では「ミドシップ版ヴァンキッシュ」が果たす役割は大きくはなく、そのためキャンセルに動いたのだと考えられていますが、もうひとつ報じられているのが「開発中であったミドシップ版ヴァンキッシュをアストンマーティンらしく磨き上げ、別の名前で発表する可能性」。※以前に、アストンマーティンが発売するミドシップカーはどれも特別であり、かつ限定モデルになるということも示唆されている
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つまり、フェラーリ、マクラーレン、ランボルギーニへの対抗ではなく、アストンマーティンの唱える新しい方向性に従い「独自性を持つ」ミドシップスポーツとして生まれ変わるのではないかということであり、これについては続報を待ちたいところでもありますね。
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参照:Motor1