| V16エンジンはその有用性が語られつつも、「あまりに複雑で高額」であることが知られている |
自動車メーカー、顧客ともそのメリットに対しての「代償」に価値を見いだせないのであろう
さて、長きにわたり高級車=V12エンジンという認識が自動車業界に根付いていますが、それは主に「各シリンダーの爆発感覚が短くなって振動が減少し、スムーズに動作するため」だと思われ、これが高級車に求められる要件にマッチしたためだと思われます。
よってメルセデス・マイバッハ、BMW 7シリーズなど多くの自動車メーカーのフラッグシップはV12エンジンを搭載してきたとという事実があり、”人類が作りうる最高のクルマ”をリリースするロールス・ロイスに至っては「V12エンジンのラインアップであった」という稀有な歴史を持つ自動車メーカーでもあるわけですね。
ロールスロイスはV16エンジンを積むことを考えたことがある
そしてロールス・ロイスはその排他性を更に高めるべく、2003年にはファントムVIIへと巨大なV16パワープラントを導入する可能性を検討したものの、最終的に実現しなかったという歴史が明らかになっています。
このロールス・ロイス ファントムVIIは、1998年にフォルクスワーゲンとの厳しい戦いの末にBMWを買収して以来、BMWの管理下で開発された最初のモデルであり、その意味においても伝説的な英国ブランドの歴史において”非常に”重要なクルマ。
BMWは、ロールスを高級車メーカーの王者として再浮上させようと考えていたため、新型車には「ロールス・ロイスらしい」しかし「これまでにはない」特徴を与えようと考えており、まず”ファントム”の名前が選ばれたのは、ブランドにとっての歴史的重要性によるものです。※過去にすでに6世代のモデルが発売されており、それまでの最後のモデルは1990年に生産を終了していた
そして次の「これまでにない」というところがV16エンジンであったわけですが、BMWはそれまでにもM70とS70というV12エンジンを持っており、850iクーペやマクラーレンF1にもこれらが搭載されているため、V12に関する経験は非常に豊富。
もちろんこのV12エンジンでも「十分」ではあるものの、その一方でBMWおよびロールス・ロイスは「V16がこのモデルに加われば面白いものになる」と考えていたといい、それはV12よりも大きく堂々としていて、リッチなビジネスマンがゴルフクラブで友人やライバルに見せびらかすのに理想的なだけでなく、パワーも大幅に向上するはずだったから。
よってロールス・ロイスはこのアイデアに真剣に取り組み、エンジンの完全な開発プログラムを完成させ、合計4台のプロトタイプをテスト用として製作しています。
このV16エンジンは、創業者チャールズ・ロールズとフレデリック・ヘンリー・ロイスの最初の出会いから100周年を記念して製作された2004年の100EXコンセプトカーでデビューを飾っていますが、この100EXはファントムのコンバーチブルクーペバージョンといった形状を持ち、2004年のジュネーブモーターショーで発表されることに。
そしてこれは単なるショーカーではなく、エンジンが完全に機能し、走行可能なスペックを持っていたわけですね。
ロールス・ロイスは、生産が開始される予定であったことを常に否定していたものの上述の100EXのような「走行可能な」バージョンを製作しており、よって真剣にこの製品化を考えていたことは間違いないものと思われます。
Image:Rolls-Royce
加えてBMWは1980年代に「ゴールドフィッシュ」なるV16エンジン搭載プロトタイプを製作しているため、どこかでV16エンジンを実用化したいと考えていたのかもしれません。
-
何このBMW 7シリーズ?なんとBMWは80年代に「V16エンジン」をテストするために”シークレットセブン”なるV16エンジン搭載”767iL”を製作していた!
| ただしというか当然ながら市販化にいたらず永遠に闇に葬られることに | BMWが自身のFacebookにて、なんと「過去にV16エンジンを開発していた」という事実を公表。自動車史上「16気筒」エンジ ...
続きを見る
なお、このV16エンジンについては公式にスペックが発表されることはなかったものの、700馬力を発生していたとされ、ロールス・ロイスは顧客に対しV16エンジンを搭載することについての調査を行ったと言われていて、しかし(これも公式には言及されていないものの)その結果として「V16へのアップグレードの価値はない」という結論に至ったもよう。
かくしてBMWは6.75リッターV12エンジンをファントムとファントム・ドロップヘッドに搭載することとなりますが、一部顧客はV16エンジンを強く望んでいたようで、(Mr.ビーン役で知られる)俳優のローワン・アトキンソンはこのV16を手に入れたいと考え、スパイ映画『ジョニー・イングリッシュ』第2弾のヒーロー・カーとして登場するファントムクーペのボンネットにV16を搭載したいとBMWへと申し出を行い、(興味深いことに)BMWはこのプロジェクトに同意することとなり、ここでV16エンジンが実際にファントム・クーペのボンネットへと収められることに。
その後BMWがV16エンジンに興味を示したという事実はなく、現実的に(御存知の通り)BMWはV12エンジンを廃止、そしてロールス・ロイスではピュアエレクトリックへと切り替わってゆくことになりますが、その過程においてこういった動きがあったというのは実に面白い事実でもありますね。
合わせて読みたい、関連投稿
-
ブガッティ・トゥールビヨンはもともと「W16」の予定だった。ただしコスワースの「W16は高回転自然吸気に向きません。V16で行きましょう」の一声でV16に決定【動画】
Bugatti | 結果的にこのV16エンジンはブガッティにとって「正解」であったのだと思われる | そしてこのV16エンジンはほかのどの自動車メーカーであっても真似はできないであろう さて、ブガッテ ...
続きを見る
-
アウディが1930年代に計画されつつも生産されず「世界最速のクルマになるはずであった」タイプ52を当時の設計図を頼りに復刻。なんと6リッター16気筒エンジン搭載
| そのルックスは見るからに「怪物」である | 当時のアウディ含むドイツの自動車産業はひたすら「大排気量」を追求していた さて、みんな大好き「生産に移されなかった悲運のクルマ」。今回アウディが1930 ...
続きを見る
-
V16エンジンを積む市販車は「シロン後継モデル」が自動車史上ではわずか4例目、84年ぶり。これまでのV16エンジン搭載車、コンセプトカーを振り返る
BUGATTI | そもそも、なぜほかの自動車メーカーはV16エンジンを積まず、しかしブガッティにはそれができるのか | なぜなら、それは「ブガッティだから」 さて、ブガッティは先日「シロン後継モデル ...
続きを見る
参照:CARBUZZ