
Image:Rolls-Royce
| 静粛性とトルクの究極形のはずが…なぜ高級EVは中古市場で苦戦するのか? |
そもそもロールス・ロイスそのものが中古市場にて「高値を誇る」わけではないが
ロールス・ロイス初の完全電動モデルであるスペクター(Spectre)は、静かで滑らかな走行フィールと、V12エンジンを凌駕する瞬時のトルク伝達という「超高級車に理想的な要素」をすべて備えています。
実際のところ、ロールス・ロイス創業者は「自身の考える理想のクルマを実現するには電気自動車が最適」だとも語っており、しかし当時の技術では実用にたるクルマを実現できず、しかし100年の時を経て現実の存在となったのが「スペクター」。
-
-
ロールス・ロイス創業者が120年前に夢見た電気自動車「スペクター」ついに誕生!超高級電動スーパークーペ、同社としては100年ぶりに23インチホイールを装着
| そのスペックや外観よりも、やはりインテリアが最大の魅力。ロールス・ロイスは「空間に勝る贅沢はない」という信念を持っている | おそらくは一見して分かる部分より、「実際に所有してはじめてわかる」部分 ...
続きを見る
富裕層にとって、スペクターは究極の選択肢となるはずであったが
よってこのスペクターはロールス・ロイスが掲げる理想を満たし、その顧客をも満足させるはずであったものの、現実は少し異なっていて、というのも中古車市場ではスペクターのリセールバリューが急速に低下しており、発売から間もない低走行距離の認定中古車が「新車から数千万円落ち」という驚異的な割引価格で売りに出されていることが明らかになっているから。
ここでは、この矛盾が示す富裕層のEVに対する深い疑問を考察してみたいと思いますが、結局のところ、最高級EVが直面する課題は単なる機能性の問題ではなく、「電動化された威信(Prestige)」に対する伝統的な価値観の衝突にあるのかもしれません。
-
-
ロールス・ロイス・スペクターの購入者は驚異の「平均35歳」。5000万円のEVが若年層に大人気となった理由と戦略とは
| もともとロールス・ロイスの客層は「非常に若い」ことでも知られているが | ロールス・ロイス=高齢富裕層? それ、もう古いかも ロールス・ロイスのオーナーと聞くと、多くの人が想像するのは「運転手付き ...
続きを見る
この記事の要約
- ロールス・ロイス スペクターが中古車市場で(新車価格から)数千万円の値引きをされているという事実
- 静粛性やパワーなど、EVが超高級車と理論上最高の相性を持つ理由
- 富裕層がEVに躊躇する深い要因:伝統、V12へのこだわり、インフラの不安
- リセールバリューの急落が示す、超高級EVに対する市場の冷ややかな評価
-
-
ロールス・ロイス「ハイブリッドには何の魅力も感じません。なぜならHVは我々と顧客が求める静かさ、無限のパワーを実現できない」。よって”V12とBEV”という極端な構成を継続するもよう
| さすがにロールス・ロイス、言うことも顧客の性質も全く異なる | ロールス・ロイスが提供するもの、顧客が求めるものは創業当初からブレてない さて、ベントレーは「もはや富裕層はEVに興味を示さず、内燃 ...
続きを見る
スペクターの驚くべきリセールバリュー崩壊の現実販売価格から最大で約2,300万円の大幅割引
ロールス・ロイス スペクターは、そのエレガントな造り、比類なき静粛性、そして完璧な乗り心地により、最高のEVの一つとして評価されています。
しかし、中古市場ではその価値が維持されていないというのが悲しいことに現実です。※日本だと流通台数が少ないためか大きな値崩れは起きていないようだ
-
-
ロールス・ロイスはEV不振など”どこ吹く風”。「ええ、我々のEV(スペクター)に対する顧客の反応は非常にポジティブです。このまま内燃機関を廃止し、今年中にEV第二弾を発売します」
| ロールス・ロイスの向かう方向、そして顧客がロールス・ロイスに求めるものはほかの自動車メーカーと全く異なる やはりロールス・ロイスは自動車メーカーというよりも「ラグジュアリー体験」の提供者である ...
続きを見る
具体的な割引事例:
- 初期ロット車(走行距離約160km): 2024年初頭、オークションサイト「Bring a Trailer」に出品。新車価格$521,650に対し、最高入札額$451,000でリザーブ(最低落札価格)に達せず
- 認定中古車(ボストン): ロールス・ロイスの正規ディーラーで、走行距離が少ない認定中古車が2台、大幅な割引とともに販売される
| 車両 | 走行距離 | 新車価格 (MSRP) | 中古販売価格 | 割引額 |
| スペクター 1 | 約2,100マイル(3,379km) | $521,575 | $385,575 | $136,000 |
| スペクター 2 | 約3,800マイル(6,115km) | $543,150 | $385,150 | $158,000 |
参考までに、この$158,000という割引額は、現地でのポルシェ 911 カレラ Tの新車価格($143,700)を上回る金額だとされ、これは単なる高級車の常識的な値落ちとして捉えることはできず、市場がスペクターの価値を早期に否定していることを示唆しています。

Image:Rolls-Royce
富裕層が高級EVを避ける理由
本来、富裕層は自宅に専用充電設備を持ち、長距離旅行に他のクルマを使うなど、航続距離やインフラの問題に煩わされることが少ない層であると考えられています。
にもかかわらずスペクターが敬遠されるということは、その背景に「より文化的・感情的な要因」があるのかもしれません。
- 伝統とV12への愛着: ロールス・ロイスは、V12エンジンが奏でる、極めて滑らかだが存在感のある「音」や、内燃機関(ICE)の持つ歴史と伝統の上に築かれたブランドでもあり、静かすぎるEVはその「威信」を構成する重要な要素を奪い去っている可能性がある
- ガソリンエンジンの魅力再認識: 一部の富裕層は、EVの波が押し寄せる中で、「V12のようなクラシックな内燃機関」こそが、ステータスを示す最後の砦だと再認識している可能性がある
- 未知のインフラ不安: 自宅での充電環境は整っていても、別荘や長距離の移動における充電インフラの信頼性に対する不安は、超高級車ユーザーであっても完全には払拭されていない可能性がある

Image:Rolls-Royce
なお、先日トヨタは「センチュリーをEV化せず、ガソリンエンジンを積む理由」として「ガソリンエンジンならではの威厳」という表現を使用していますが、このスペクターの事例はまさに「ガソリンエンジンの存在の大きさ」を端的に示しているのかもしれません。
-
-
トヨタ「新しいセンチュリーはEVではなくガソリンエンジンを搭載します。ええ、品格を守るためです」。究極の無駄=贅沢を体現か
Image:TOYOTA | レクサスを超越したトヨタの「最上級ブランド」が目指すもの | センチュリーは「究極の贅沢」を体現する存在、そしてブランドへ トヨタは50年以上の歴史を持つ日本の最高級セダ ...
続きを見る
結論:EVは究極の贅沢だが「威信」の定義が未定
スペクターの割引事例は、EVプラットフォームがロールス・ロイスにとって「究極のモーターリング」を届ける最高の手段であるという理論と、富裕層の実際の購買心理との間に大きな乖離があることを示しています。
EVは静粛性、トルク、滑らかさにおいてV12を超える性能を提供しますが、超富裕層は単なる機能的メリットではなく、クルマが持つ「威信(Prestige)」や「歴史的背景」にお金を払うという傾向も。

Image:Rolls-Royce
電動化時代において、ロールス・ロイスやベントレーといったブランドが、この「電動化された威信」をどのように定義し、伝統的なV12エンジンへのこだわりを持つ富裕層を振り向かせることができるのか。
スペクターの今後のリセールバリューの推移は、超高級EV市場の未来を占う試金石となりそうですね。
-
-
ロールス・ロイスはなぜ「ゴースト」「スピリット」「スペクター」など異世界系の命名を行うのか?その始まりは一世紀前、「神秘的な感覚を重要視したから」
| 「不吉」とも思える別世界の命名を「自信をもって」行うのはロールス・ロイスくらいのものだろう | このネーミングにはロールス・ロイスが語る真実のほか、「通説」もあるようだ さて、ロールスロイスはゴー ...
続きを見る
あわせて読みたい、ロールス・ロイス関連投稿
-
-
ロールス・ロイス、春をテーマにした「スペクター・プリマヴェーラ」公開。桜とパステルが彩る3種類の特別仕様を発表、来春の納車に向け受注開始
Image:Rolls-Royce | さらに顧客はこの仕様に独自のアレンジを加えることができるもよう | 価格は非公開、「価格を尋ねるということは、あなたにはその金額を支払うことはできない」なのかも ...
続きを見る
-
-
ロールス・ロイスがスペクターにも「ブラックバッジ」を追加。同社史上最強の出力に加えて「光るグリル」の発光色が増え、これまで以上にインパクトのある仕上がりに
Rolls-Royce | ロールス・ロイスのイメージカラー「パープル」が新色として追加される | さらには「ローンチコントロール」も装備され、そのパフォーマンスに磨きをかける さて、ロールス・ロイス ...
続きを見る
-
-
ロールス・ロイスが最新ワンオフ「スペクター・ルナフレア」を公開。内外装は月をイメージした仕上げに、そしてスーパームーンの夜に幻想的な撮影会が行われる
| このロールス・ロイス・スペクターは「ドアまでも」がスターライト仕様に | 今後、スペクターのワンオフ仕様が相次ぎ公開されることとなりそうだ さて、現在ロールス・ロイスの多くは「オーダーメイド」にて ...
続きを見る
参照:CARSCOOPS












