| 前人未到の速度域では「予想外」のことが容易に発生しうる |
地球上には現代のハイパーカーの性能を試すことができる場所が「ほぼ存在しない」
さて、ここ最近にわかに盛り上がっているのが「最高速の記録更新」。
つい先日ブガッティはW16ミストラルにて「オープンカー最速」記録を樹立していますが、このほかにもブガッティは過去に何度か最高速記録を更新しており、そのためブガッティは「スピードの象徴」とも言える存在となっています。
そしてブガッティが近代における「スピードキング」となったのは(1,001馬力を誇る)ヴェイロンにて時速400kmの壁を突破した瞬間で、それ以降も(ケーニグセグなど)いくつかのメーカーがさらに速いクルマを発売しているものの、ブガッティは常に最初の記録保持者であり、さらに記録を更新し続けています。
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ブガッティは時速400kmでクラッシュしたことがある
現在ブガッティはフォルクスワーゲングループを離れ「ブガッティ・リマック」として活動していますが、これによって生じた大きな変化が(フォルクスワーゲングループ所有する)エーラ・レッシエンのテストコースを使用できなくなったこと。
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よって現在のブガッティ・リマックがトゥールビヨンにて最高速記録を更新しようとなるとエーラ・レッシエン・テストコース以外を使用する必要があり、そして今回、この)エーラ・レッシエン以外で最高速チャレンジができるコースとなると、可能性としては「ナルド・サーキット」。
このナルド・サーキットはイタリアにある(ほぼ円形の)バンクを持つ高速周回路ですが、過去にブガッティが「398km/hにてクラッシュしていた」ことが明らかになっていて、この事故は2005年4月29日に(ヴェイロンが)時速400kmを超えるに際し、その前に行われたテスト段階にて生じたものだと報告されています。※ナルド・サーキットには4車線があり各車線の傾斜角度が異なる。最も外側の車線は12度の傾斜が設けられている
この事故についてはブガッティからは公表されていないものの、ブガッティのテストドライバーであるロリス・ビコッキがイタリアのジャーナリスト、ダヴィデ・チローニとのインタビューで事故の経緯を語ったという記録が残っており、それによるとお、ヴェイロンの試作車を約398km/hで走行していた際、タイヤがバーストしクラッシュを引き起こしたこと、このクラッシュによってナルド・サーキットのガードレールが1.8kmにわたって損傷することとなったのだそう。※ロリス・ビコッキはパガーニ・ゾンダ、ランボルギーニ・カウンタック、ケーニグセグ・CC8S、ブガッティ・シロンなどの開発に関わったベテランである
ブガッティ・ヴェイロンの事故はこうやって発生した
ロリス・ビコッキはこの事故が「2002年か2003年のある日曜日」であったと回想していて、このテストは冷却系やオイル循環、水温などが高速度でも問題なく機能するかを確認するため比較的高い速度で行われたそうですが、当時の「ルーチン」であり、問題なく進んでいた、とのこと。
「そして、”全開でラップしてみてくれ”と言われたのです。私はその指示に従い、12.55kmのコースを全開で1周し、400km/hに近い速度で走行しました。その後、エンジニアたちは温度がまだ上昇していることを確認し、温度がどこで安定するかを確認するために、同じ速度で2周するよう求めました。”2周は多いけれど、試してみましょう。全開で2周やってみます”。私はそう答え、しかし、2周目の終わりに事態は急変したのです。2周目の終盤に差し掛かり、走行中の速度が390-398km/hで変動し、エンジン回転数も100rpmほど上がったり下がったりしていたことを覚えています。さらには突然何か小さな[ウィーンという音]が聞こえ、その後ボン!というと爆発音がしたんです。何も見えなくなりました。前左タイヤが爆発し、フェンダーも一緒に飛んで行きました。」爆発したタイヤで視界が遮られ、ガードレールにぶつかってしまいました。最初の衝撃で後左タイヤもバーストし、サスペンションも壊れました。」
フェンダーとボンネットがフロントガラスに押し当てられて視界が遮られ、タイヤが2本バーストし、サスペンションも壊れ、ブレーキも効かない状態(サスペンションの故障によってホースが破損したことに起因)だったため、ガードレールとの摩擦を使って車両を減速させたそうですが、この恐ろしい状況にもかかわらず、ロリス・ビコッキは幸いにも軽症にてクルマから脱出することができたのだそう。※1.8kmにわたるガードレールの修繕費はブガッティが負担することとなったが、この事故はヴェイロンの高い安全性を立証することにもなった
この事故は、ナルド・リングのようなバンクトラックでの高速テストの課題を浮き彫りにしていて、つまり「外側」のタイヤにかかる遠心力は、速度が増すにつれて大きくなり、タイヤに均等に温度が分布せず、タイヤへの負荷が危険なレベルに達する可能性があることを示唆しています。
実際のところヴェイロンの場合、2周目の高速走行後にタイヤがバーストしバンクトラックでの高速テストには限界があることを証明しており、ナルド・リングの設計は一部の高速度テストには適しているものの、一定の速度を超えてしまうとトラックのバンク角が車両に常に力をかけ続け、タイヤの摩耗を不均一にし、車両性能にも影響を与える可能性が考えられます。
つまり最高速記録を達成するためにはもっと長い、そして平坦な直線コースが適しており、ブガッティが以前使用していたエーラ・レッシエンなどの長い直線がある施設が「より安全にトップスピードを目指す場所として理想的」というわけですね。
たしかにケーニグセグやSSC、ヘネシーは「平坦な路面」にてテストを行っており、しかしブガッティが当時直面した問題は「前人未到の速度域に達した」唯一の自動車メーカーで、その速度域での問題を事前に予測できなかったのかもしれません。
参考までに、ナルドでは(上述のとおり)4つの速度域を想定した設計がなされ、車線1 では100km/h、車線2では140km/h、車線3では190km/h、車線4では240km/hに設定されていて、これら「ニュートラルスピード」で走行していればステアリングホイールを切ることなく(中立で)走行でき、しかしブガッティが挑戦した速度はこれらを大きく逸脱していることもわかりますね。
よって、ブガッティ・リマックが速度記録に挑戦するには「ナルド以外」を選ばねばならず、ここがヘネシーやケーニグセグの言うように「最高速チャレンジにおける、クルマ以外の大きな問題」ということになりそうです。
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参照:CARBUZZ