| ポルシェのデザイナーの仕事は他の自動車メーカーのデザイナーとは全く異なる |
伝統を守りながら、新しいものを作り出さねばならないというジレンマに常に直面
さて、現在ポルシェのデザイナーはミヒャエル・マウアー氏が努めていますが、今回ポルシェが同氏の業務そして職責に焦点を当てるコンテンツを公開。
なお、ポルシェは「911」という輝かしいアイコンを持っていますが、この40年間ずっとそのシルエットを大きく変えず(というか、変えることが許されない)やってきたという歴史があり、自虐好きのポルシェは自身のデザインチームをして「自動車業界中、もっとも怠惰なデザインチームであった」と表現したことも。
一方でポルシェのデザインチームには「ほかのどの自動車メーカーよりも伝統を守ってゆき、しかし進化させねばならないという責務」があり、これについてミヒャエル・マウアー氏は「才能や専門知識があるだけでは不十分であり、勇気をもって前に進むチャレンジが必要である」とも語っています。
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ポルシェのデザイナー、ミヒャエル・マウアーはポルシェ911二何を思うのか
ミヒャエル・マウアー氏が初代と最新のポルシェ911を並べて思うのは「ポルシェの過去のデザイナーたちが伝統を守り、素晴らしい継続性を維持してきた」ということ。
そして初代911については「スポーツカーを未来的に解釈したもので、その時点ですでに手を加えることが許されない完成度を持っている」とも。
たとえ他のシルエットを試そうとしても結果的に初代911のルーフラインに落ち着いてしまうといい、そのルーフラインについては「世界一速く走ることができるクルマのひとつであるにも関わらず、威圧的なところがまったくない」こと、そして全体的に見ても他社のライバルに比較して「上品で奥ゆかしく、傲慢さを微塵たりとも感じさせないにもかかわらず、自信たっぷりである」ことにも言及しています。
たしかにこれは納得できる部分であり、ポルシェ911は「日常性」「ドライバーに負担をかけない」ことを目的に設計されているの対し、フェラーリは「非日常性」「興奮を与える」といった反対の方向から設計されており、しかし両者が”同じレベルの”パフォーマンスを発揮するのは面白いところ。
なお、ポルシェについてはこの「傲慢さがないのに自信たっぷり」という表現がぴったりだと考えていて、もっともそれを感じるのは(ぼく的には)走り去る後ろ姿だとも考えています。
このほか、ミヒャエル・マウアー氏が911について思うのは「精度までがデザインされている」「人間でいえば自己主張の強い人ではなく、様々な分野に長けており、たとえばトライアスロンの選手のようで、相談を持ちかけたくなるような人」だと述べており、これはまさにポルシェ911の本質、そして多様性を表しているのかもしれません。
ポルシェ911をデザインするという難しさ
そして次にミヒャエル・マウアー氏が語るのはポルシェ911をデザインすることの難しさ。
(時代に対応し、新しい顧客を獲得するために)変えなければならない、しかし変えてはならない部分も多く、これは本当に難しい仕事であると思われますが、同氏が言うのは「人々を渇望させるデザインを行わねばならない」「何もかもを説明したがる、説明が要求される現代において、説明不要で、製品が自ら語るデザインが必要である」こと。
一方で、他のブランドに比較して「より伝統を強く守る必要性や難しさ」については「むしろ、911のアイコン性はむしろ助けになる」と語っています。
ちなみにですが、多くのデザイナーが最も嫌うのが「レトロモダン」だといい、レトロな過去の作品をリバイバルすることは、つまり自分の創造性を否定されたのと同じことであると捉えるもよう。
たしかに「お前のデザインはダメだから過去の優れたデザインを使え」と言われているようなもので、これはデザイナーにとってはある種の侮辱だと言えるのかもしれません。
ただし911の場合は事情が大きく異なり、ミヒャエル・マウアー氏は911のデザインを「挑戦」だと捉えているようですね。
ポルシェ911のデザインにおける「冒険」はこうやって始まる
そしてミヒャエル・マウアー氏が新しいポルシェ911をデザインするに際して利用したのが心理学。
心理学によって分類される12の概念から「英雄タイプ、創造者タイプ、反逆者タイプ」の3つを選び、それぞれジェームス・ディーン、フェルディナンド・ポルシェ、スティーブ・マックィーンをペルソナとして当てはめ、それぞれのペルソナにマッチしたキーワードを選定したのだそう。
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そのキーワードはジェームス・ディーン=フォーカス(集中)、フェルディナンド・ポルシェ=ミッション(目的)、スティーブ・マックィーン=テンション(緊張)であり、このキーワードをデザインチームに共有することで「ブレない」デザインが可能になるといいます。
なお、こういったイメージの共有は非常に重要で、スズキ・ジムニーだと「サイ」、ホンダ・オデッセイ(初代)では「黒豹」を共通イメージとして用いており、オデッセイの場合だと関連書類全てに黒豹の絵柄が入っていたようですね。
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そうやってミヒャエル・マウアー氏は100人を超える社内の人々と意見を交わしながら新しい911を形作ってゆくわけですが、同氏はその過程を「一台のクルマをデザインするのではなく、ポルシェというブランドを作ってゆく行為である」と認識しており、過去にポルシェが築き上げてきたものを未来に伝えてゆく作業であるとも捉えている、と述べています。
そうやって美的で感情を揺さぶる、しかし堂々として自身に満ち溢れた未来の911が作られてゆくわけですが、現在「911 – 2050年プロジェクト」なる計画が進行しており、そこでは3世代先の911を想定したデザインが協議されていて、しかし面白いのは「現代から次世代、その先、またその先にまで」といった具合に今から先にコマを進めるのではなく、いきなり2050年のポルシェを考え、もし自分たちが2050年のポルシェのデザイナーであったとしたら、「2030年のポルシェはどんなクルマだったんだろう」と過去に戻ってゆくというプロセスを採用していること。
そうすると2030年の時代背景を客観的に見ることができ、現在と未来とをスムーズに結びつけることができるようになるそうで、これは非常に面白い手法だと思います。
参考までに、BMWがミニ(R50)をデザインする際に採用したのは逆の手法を用いていて、クラシックミニがモデルチェンジし、それがまたモデルチェンジを繰り返して・・・という仮想モデルチェンジを下敷きにしてR50が誕生したと言われています。
最後に話をポルシェ911に戻すと、ミヒャエル・マウアー氏は未来のポルシェ911についてどんなふうなクルマになるのかという問に対しては「ディティールが変わっても、ひと目でポルシェ911だとわかるクルマになることは間違いありません。それを見た人が”あっ911だ、でもあれは新しい911だ”と直感的に理解できるようなクルマとなっているでしょう」。
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参照:Christphorus