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フェラーリの「フロントフェンダーの手書きエンブレム」はこうやって塗装されていた。「これはマラネッロからお客様への感謝の表現手法のひとつです」

フェラーリ

| そうやって聞くと、次から選んでみようかという気になってくる |

現実的には、このオプションを選ぶ人は非常に少ない

さて、フェラーリがオプションとして提供している「フロントフェンダー上の手書きエンブレム」に関するコンテンツを公開。

このオプションは200万円以上のコストが要求されるものだと記憶していますが、通常の(一部車種ではこれまたオプションの)”スクーデリア・フェラーリの立体シールドバッジ(下の画像)”をハンドペイントへと置き換えるもので、そのエンブレムのサイズも大きくなります。

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正直、ぼくは自分でフェラーリをオーダーするまで、このシールドエンブレムに「ペイント」があることを知らず、またそのサイズが大きくなること、さらにはとんでもなく高価なオプションであることを知らなかったわけですが、ここでその詳細について触れてみたいと思います。

この手書きエンブレムの正式名称は「スクデット・エアログラファート」

まず、フェラーリによると、この手書きエンブレムの正式名称は「スクデット・エアログラファート」。

このエンブレムの成り立ちは別の記事を参照してもらうとして、「スクデット・エアログラファート」はフェラーリの全モデルにて選択できるオプションなのだそう。

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そしてこの「スクデット・エアログラファート」は8層にも及ぶ塗装、そしてクリアコートにて仕上げられますが、その工程の最初は「位置決め」で、これは”ディマ”と呼ばれているガイドをボディに当てることから始まります(このディマは車種ごとに決められており、これによって左右同じ位置に、そしてどの個体でも寸分の狂いなくエンブレムをペイントできる)。

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マスキングを施した後に実際の塗装作業に入りますが、まずペイントされるのは「ブラック」。

このほうが下地となるイエロー(ジャッロモデナ)の発色が鮮明になるからだと思われ(かつ、どのボディカラーであっても同じようにイエローを再現できる)、その後にイタリアンフラッグを示すレッドとグリーンをペイントしますが、これらジャッロモデナ、ロッソ、ヴェルデのペイント後にはそれぞれクリアコートが塗られ、つまりこれらだけで「6層」。

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Ferrari

これらマスキングは外科手術用の器具を使用し丁寧に剥がされるそうですが、下塗りのブラック、そして仕上げのトップコートを含めるとちょうど「8層」となるわけですね。

ちなみにエンブレム1つを仕上げるのに8時間を要するため、両側では16時間を費やしているということになりますが、こういった複雑な工程が「200万円以上」という高額なコストの由来であると思われます(ぼくはてっきり、このエンブレムを印刷したウォータートランスファーデカールを塗装の上に貼り付け、その上からクリアを塗っているだけだと考えていたが、事実は全く異なるものであった)。

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Ferrari

なお、ここで「スクデット・エアログラファート」の作業が終わるわけではなく、塗装後には品質管理(QC)による検査を受け、その後に「研磨」が行われます。

この研磨は非常に重要な作業であり、これによって最終的に「ボディの塗装表面と均一な」サーフェスを作り出すことが可能となりますが、驚くべきことにここからさらに「耐湿性テスト」が待っているといい、これは意図的に湿度の高い環境を作り出す「湿気チャンバー」なるテスト機器をスクデット・エアログラファートに上に24時間置いて表面の変化をチェックし、もしなんらかの変化(気泡の発生など)があれば「再塗装」となるのだそう。※ただし、フェラーリによると一度もこの検査で問題が発生したことはないようだ

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つまり、この美しいスクデット・エアログラファートは16時間に及ぶペイント、そして研磨、24時間のテストを経てようやく「最終的なトップコート」をかけられることが許されるということになり、ある意味ではストライプよりもコストが掛かっているのだとも考えられます(実際のところ、そのサイズがストライプよりも小さいにもかかわらず、かかるオプションコストはストライプと同じくらいである)。

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「スクデット・エアログラファート」はフェラーリの卓越した芸術性を表している

参考までに、エンツォ・フェラーリがこのエンブレムの中心なるカヴァリーノ・ランパンテ(跳ね馬)をフランチェスコ・バッカラ伯爵の母親から授かったのは1923年のことですが、エンツォ・フェラーリがこれを初めて使用したのは1932年だとされ(ただし今のエンブレムのデザインではない)、さらに市販車に採用したのは1947年とずいぶん先のこと。

そしてエンツォ・フェラーリは市販車にこれを採用する2年前からエンブレムのデザインを真剣に考えていて、エンブレムのデザインに際しては芸術家のエリジオ・ジェローザへと依頼しており、これもまた「いかにフェラーリブランドを価値のあるものとするか」にプライオリティを置いていたエンツォ・フェラーリらしい行動だといえそうです。

「納車を開始して3年後に、インポーター(ディーラー)からの助言によってエンブレムをようやく考えた」ポルシェとは対極にあるエピソードでもありますが、ただ、それはそれで非常にポルシェらしくもあり、両者の差異が大きく現れている部分でもありますね。

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つまるところ、こういった細部へのこだわりがフェラーリをフェラーリたらしめており、「イタリア」というところからぼくらが連想する「ざっとした仕事」とは全く異なる情熱が(創業前から)注がれていて、そしてこういった情熱がフェラーリを「小さなレーシングファクトリー」から「世界で最も価値のある自動車ブランド」へと成長させたということに。

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そしてフェラーリの各車には、こういった「エンブレム」だけではなく、こだわり抜いたディティールがあちこちに採用され、それがフェラーリの芸術性を高めているのだと考えてよく、そしてこういった「手間をかける作業」は「効率化を重視する大量生産車メーカー」では及ばないところで(ポルシェの場合、ボディ上のグラフィックは基本的にステッカーである。塗り分けは911ダカールで初めて採用されており、918スパイダーですらリバリーはステッカーであった)、しかし1947年にフェラーリがその名を冠したクルマを世に送り出して以来、脈々と受け継がれてきた伝統でもあり、そしてこの伝統を守ってきたからこそフェラーリのクルマを芸術作品にまで昇華させ、唯一無二の存在にしているのだと思われます。

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ちなみにですが、このスクデット・エアログラファートはフェラーリのヒストリックレーシングカーや・・・。

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F1マシンにも用いられてきたもので、ほかの自動車メーカーやコンストラクターを見渡してもここまで明確にエンブレムを示した例はないかもしれません。

ただ、このスクデット・エアログラファートを表示するようになった「由来」についてはわからないようで、しかし(現代の)フェラーリはこれについて「丁寧にペイントし、上からクリアー層にて保護することで汚れや経年劣化から守ろうとしたのではないかと考えています」とコメントしており、当時エンツォ・フェラーリはこのスクデット・エアログラファートが時の流れにも耐え、フェラーリであることをいかなる場合にも強く主張するように願ったのではないか、と推測しています。

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そしてこのスクデット・エアログラファートについき、フェラーリいわく「マラネッロからお客様への感謝の表現手法のひとつ」だとも表現しており、よって次にフェラーリを新車オーダーする際には思い切って選択してみるかもしれません(正直言うと、これまでは立体のバッジのほうが高級感があっていいとも考えていて、この平面のエンブレムに200万円も出すことは検討の余地がなかったが、フェラーリが公開した公式コンテンツを見て翻意した。やはり知識は重要である)。

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参照:Ferrari

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