| もしレクサスの車両に問題があればブランド価値は大きく影響を受けることに |
さて、2018年2月に起きた「レクサスLSの暴走による死亡事故」。
これについては週刊文春が状況を追いかけていますが、最近だと6月30日に東京地裁にて第4回公判が開かれた模様。
事故の内容について簡単にまとめると、2018年2月18日に、元東京地検特捜部長の石川達紘弁護士がレクサスLS500hを停車させ、ブレーキホールド機能を作動させた状態でクルマを降りようとしたところ、クルマが勝手に動き出したというもの。
ただ、さらに状況を悪くしたのは、動き出したレクサスLS500hが加速を続けて時速100キロにも達し、都合320メートルを走行して男性一人をはねて死亡させ、商店に突っ込んでようやく停止したという事実。
お決まりの「ペダル踏み間違い」で片付けられるはずだったが
石川氏は当時79歳と高齢であったため、「アクセルとブレーキとの踏み間違い(運転操作の誤り)」ということで自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)等の罪を問われて起訴されることになりますが、石川氏は「クルマを降りようとしていたためにアクセルを踏める状態になく、かつアクセルを踏んだ記憶、踏み続けた記憶が無い」とし、自身の潔白を証明するために戦うことを決意した模様。
なお、すでに石川氏と死亡男性の遺族との間では示談が成立しており、石川氏は慰謝料を軽減しようとしようとしているわけではなく、ただ単に自身の正義のために検察そしてトヨタに立ち向かうということになります(まるでゴリアテに挑むダビデのように)。
なお、検察側の言い分は下記の通り。
・アクセルとブレーキとを踏み間違えたと見ている ・車両EDR(イベント・データ・レコーダー)の記録だと衝突4.6秒前から衝突の瞬間までアクセル開度が100% ・ブレーキコイルが焼けており、ブレーキが掛かった状態で暴走した形跡がある ・事故車には電子的・機械的な異常は認められない |
そして石川氏側の言い分は下記の通り。
・クルマを降りようとして車外に右足を出したところクルマが動き出した ・右足がドアに挟まれてアクセルを踏めない状態で、左足も宙に浮いていたのでアクセルを踏める状態ではない ・実際に右足の甲を骨折しており、ドアに足が挟まれていたことを示している ・そもそも右足がドアに挟まれた状態では、左足がアクセルペダルにもブレーキペダルにも届かない ・仮にアクセルを踏んだとしても途中で失神しており、筋肉が弛緩することを考慮すると、衝突まで踏み続けるのは不可 ・事故車には電子的・機械的な異常がある |
さらに、石川氏が乗っていたレクサスと同じ時期に製造されたレクサス500hは「エンジン制御コンピューターの不具合」でリコールが届け出られており、これは暴走に関するものではなく「エンジンの吸気量をコンピューターが正確に算出できず、エンストの可能性がある」というものですが、専門家によると「エンストの逆で、過大に吸気を行うと暴走の可能性も否定できない」という見解も(石川氏は)得ていて、「様々な要因を考慮するにクルマ側に問題がある」と主張している、ということになります。
加えて、レクサスLS500hは含まれていないものの、レクサスはNX200t、NX300tに対して「ブレーキホールド作動中にて停車し、シートベルトを外す等の動作を行うと、意図せずクルマが動き出すおそれ」があるとしてリコールを届け出ていて、この内容は石川氏が事故時に取った行動(ブレーキホールドにて停車し、クルマを降りようとした)と一致しているようにも思えます。
そして最新の公判において、独立行政法人の専門家が「ブレーキの不具合で発進、暴走の可能性もある」と証言するなど、ややトヨタにとって旗色の悪い流れとなっているのが現在の状況(もし検察が負け、トヨタに責任があるとなると、トヨタは遺族に対しても責任を追うことになりそう)。
検察側の対応は今ひとつ的を射ていない
週刊文春は(現時点では慎重に”中立”を貫いているもの)検察側の言い分の不明瞭さや証拠の曖昧さ、石川氏の主張を無視した起訴内容について疑問を呈しているように見受けられ、「警察・検察とトヨタとの関係」についても触れていて、1986年以降、元検事総長経験者が4名もトヨタの社外監査役に就いており、さらには元警視総監もトヨタの顧問に就任しているという事実を挙げるなど、その関係の深さも今回の事件に無関係ではない(トヨタにとって、個人を黙殺するのは難しくない)だろうという見解も示しています。
ちなみにレクサスの場合、ブレーキホールド(強くブレーキペダルを踏み込むと、停車状態を保持し、アクセルを踏むまではブレーキペダルから足を離した状態でもブレーキが掛かっている)が3分続くと電動パーキングブレーキへと移行する、とのこと。
石川氏が停車していたのは7分だとされ、よって電動パーキングブレーキへと移行していたのは間違いなく、かつ車両の「ブレーキが焼けていた」という検証内容からもブレーキが掛かったままで暴走したというのも時事と考えて良さそう。
ただしギアはDレンジに入っていたのでアクセルを思いっきり踏み込むとブレーキを引きずってでも走る可能性があり、クルマを降りようとしたときに「うっかり」左足でアクセルを踏んだということも否定はできませんが、右足を車外に出したままでずっとアクセルを踏み続けるのは困難で(しかも足が届かないということが立証されている)、それらの状況を鑑みるに謎多き事故でもありますね。※発進については、石川氏側はクリープからだんだん加速していったと主張し、検察側はアクセルを踏んで急発進したと主張するなど、相違も多い
現時点では「石川氏が右足をドアに挟まれて動かせなかった」ことについて検察、石川氏ともに認めており、焦点となるのは「左足でアクセルを踏めたのかどうか」。
これについては石川氏側では「踏めない」ということが立証できているものの、検察側は「踏めた」という立証ができておらず、ここについて今後も争われることになりそうです(次回後半は7月16日)。
なお、ぼくは現代のクルマに装備される電子デバイスを完全に信頼しきっているわけではなく、ブレーキホールド、電気式パーキングブレーキもその例外ではないため、車外に出るときは「必ず」Pレンジに入れるか、エンジンを切るようにしています(基本的にはエンジンがかかったままで車外には出ない)。
参照:文春オンライン