| レクサスLSは消費者に潜在的要望を気づかせ、需要を喚起したことが”新しい” |
さて、何かと話題になるのが初代レクサスLS(日本ではセルシオ)が高級車のあり方を変えた、という話。
ただしこれについては「ただ静かなだけが取り柄だったクルマがなぜ業界を変えたのか」という疑問符も常につきまとっており、今回LEONがその疑問を霧散させる記事を掲載することに。
記事を書いたのはモータージャーナリストの岡崎宏司氏で、当時現場でその衝撃を肌で感じた一人でもあり、それだけにリアリティのある内容となっています。
1989年は日本の自動車産業における黄金期
まず、初代レクサスLS/トヨタ・セルシオが世に出たのは1989年。
この1989年というのは初代レクサスLS/トヨタ・セルシオのほか、ホンダNSX、マツダ・ロードスター、日産R32 GT-R、フェアレディZというクルマたちが次々と発表または発売された年であり、2004年まで続いた国産車の出力自主規制枠上限の「280馬力」カーが続々誕生した記念すべき年でもあります。
記事によると、岡崎宏司氏はレクサスLS400の開発にも関わったと述べており、主に東富士と北海道士別試験場での開発作業に携わった、とのこと。
レクサスLS400は”日常領域からアウトバーン領域まで、超一級の静粛性と快適性、かつ高い安心感と優れた燃費の達成”を目指していたとのことですが、全長10kmにもおよぶ士別周回路での走行は静粛性の追求に大きく貢献したといい、ここでわずかな音や振動すらも潰すための研究が行われたようですね。
なお、ロールスロイスも「静粛性」を追求したクルマですが、開発時には「グローブボックスの中でボールペンがわずかに転がる」音すらもテスターが聞き分けるほどの厳密なテストを行うと言われていて、初代LS400のテストもそういったレベルであったのかもしれません。
発表時には欧州のジャーナリストが絶賛
そして開発されたレクサスLS400ですが、アウトバーンにて行われた国際試乗会では、メルセデス・ベンツやBMW、アウディのサルーンに乗り慣れたジャーナリストたちが、レクサスLS400の静粛性について(文中の表現を借りると)”「異次元」「圧倒的」「驚異的」「ありえない」”といった評価を下したとされ、とにかく静粛性はずば抜けていたようですね。
当時の記憶を辿ってみると、欧州の自動車メーカーは「ガソリンエンジンを積んでいるので振動や音は当たり前」としてそれを完全に消すことは考えておらず、かつ「運転している感覚を味わうには、ガソリンエンジンの存在を感じさせねばならない」という風潮があったと言われていて、しかしレクサスはそういった常識に真っ向から挑んだと紹介されることが多かった模様。
その(レクサスが静かさを追求した)理由として、最後発として高級車市場に参入するために、欧州の自動車メーカーと同じ手法では存在価値を発揮させることが難しいと考えたのだと思われ、そしてこの静粛性は欧州よりも北米で大きく歓迎されることに(今も昔も、米国市場は乗り心地の良さや静粛性を好むようだ)。
この静粛性については、「LS400のボンネットの上にシャンパングラスを乗せ、エンジンを始動させ(シャシーダイナモの上で)エンジン回転数を上げてもシャンパングラスがビクともしない」CMが非常に有名です(最近だと、ロールスロイスが、エンジンカバーの上にコインを立てて乗せ、エンジンに火を入れてもコインが動かないという動画を公開している)。
消費者は「まだ存在しない」新しい価値を知りようがない
なお、ぼくはレクサスLSについて「国際試乗会でジャーナリストを驚かせた」ことよりも、実際に「売れた」ことのほうが大きいと考えていて、つまりは欧州の自動車メーカーが「まったく意識していなかった」静粛性を打ち出し、それが実際に消費者に受け入れられた(それで欧州の自動車メーカーが慌て出した)ということですね。
「消費者は、それを形にして目の前に出されるまで、それが欲しかったということにすら気づかない」とはスティーブ・ジョブズの言ですが、レクサスがはじめて「静粛性」を体感できる形として消費者に提示した時、消費者は「そうそう、これこそが欲しいものだった」と気づかされることになり、多くの人が実際に購入に走ったということになります(ポルシェですら、初代LS400に試乗した際、「これこそが我々の作りたかったクルマだ」と気付いたという)。
同じような例だと、アウディが「チリ(ボディパネル同士の隙間や段差)」にこだわり、その狭さを売り物にしたとき、メルセデス・ベンツは「誰もそんなことは気にしていない」と冷ややかだったものの、実際には多くの消費者がアウディの(チリの小ささによって演出される)塊感に魅了されることになり、あわててメルセデス・ベンツはじめ高級車メーカーがこれに追随したという例も。
そのほか「ハイブリッド」も同じ現象を招いており、トヨタがプリウスを発売した時にはほとんどの自動車メーカーが「過渡的技術」「一つの車にモーターとエンジンという、2つの動力源があるクルマは無駄」と断じ、「我が社はハイブリッドなどやらない」と明言したことも。
ただしその後ハイブリッドは消費者に大きく受け入れられることになり、現在ではご存知のとおり「猫も杓子もハイブリッド」という状況です。
さらに新しい例だと「テスラ」があり、登場初期はどの自動車メーカーも「そんな車は売れない」「我々の競争相手にもならない」と冷ややかだったものの、いざ売れだすと「テスラの対抗車種」をこぞって作っているのもまた事実。
欧米ではもはや(高級車セグメントにおいて)テスラ・モデルSに対抗できるクルマは存在せず、ジャーマンスリーは完全に歯が立たない状態となっていて、これもまた「既存自動車メーカーや消費者すら気づかなかった価値」をテスラが示したからなのだと思われます。
そして、自分すら気づかなかった価値を示し、そのメリットを体感させてくれたメーカーやブランドに対して消費者は忠誠心を抱くことになり、それが1989年当時の「レクサスが成し遂げたこと」であり、現代だと「テスラがここまで支持されるようになった理由」なのでしょうね。※こういった例を見るに、最初にリスクを冒してチャレンジし、何かを成し遂げることの意味は大きい
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