| もはや腕時計で人を判断する時代ではない |
高額な腕時計(どれくらいから”高額”なのかは人によって意見が分かれるのでここではあえて触れない)をしていると周囲の反応が変わる、ということはよく聞きますよね。
レストランやホテルでの待遇が良くなったとか、いきつけのコンビニで店員の態度が変わった、とかそういった類です。
そもそも腕時計の価格の高低を把握している人も少ない
実際のところ、そういった事例はあるかということですが、ぼくの経験上「無い」ですね。まったく無い。
高価もしくは高級腕時計を身に着けていてなにか待遇がかわったりいい目を見たり得をした、ということは全然無いですね。
そもそも他人は人の腕時計にはほとんど興味はないでしょうし、腕時計に興味ある人などは数千分の一と思われ、そういった人々が自分の腕時計を見る機会は実生活においてまず無い、と言えるでしょう。
腕時計について話題が及ぶこともまず無く、過去にメルセデス・ベンツを試乗した時に「それはルイ・ヴィトンのタンブールですね」と言われたことくらいしか記憶にありません(そこから話題が広がらなかったので時計に興味があるわけではなく、単になにか話をしないと、という感じの切り出しだった)。
ロレックス・デイトナもよく見ないと、時計の外観がエルジンと同じですし、ルーラックスなどというよく似たものもあり、正直素人目で「ロレックス」と判別するのは難しいと考えられます(自分が持っていないとまず判別できないと思われる)。
そもそもロレックスは文字盤やベセルが平坦で、ブレスレットやリューズにも特徴がなく、コピーしやすい時計ではあります。
そして、ロレックスのお金のかかっているところは904Lオーステナイト系ステンレス(腕時計ではロレックスのみ)、無垢でガタひとつないブレスレット(現行)、腐食を防ぐためのWGハンズ、風防内の透かし、ケース内のルーレットなど、ロレックスでしか実現できない高度なものではあるのですが、いかんせんそれが「素人目にはまったくわからない」ということも関係しているかもしれません。
ちょうど自動車だと、ポルシェは「見た目が高級ではなく内装も普通の車ではあるが、ステアリングホイールの内側がマグネシウムだったり、サスペンションがレカロだったり、サスペンションがビルシュタインだったり、ブレーキがブレンボだったり、ベアリングがやたら高性能だったり、というこれまた”素人目にはわからない”というか、そもそも見えないところにお金がかかっている」という現実にも似ていますね(そこがロレックスやポルシェの素晴らしいところでもある。両者とも実際に自分のものとして使ってはじめてその価値が理解できる)。
逆に安価でインパクトのある時計、たとえばスウォッチやセイコー・エアプロ、カシオ・サイバーショック(もはや骨董品)、テンデンスなどは身につけていて話しかけられることが多く、しかしそれは「腕時計」としてではなく、変ったアクセサリーとして興味をそそるのだと思います。
とくにテンデンスのガリバーで、ハイドロゲンとのコラボモデルは目立つようですね。
そう考えると、高級腕時計というのは、「何の得もない、完全な道楽」と言えるもので、これほど自己満足的な嗜好品というのもなさそうです。
服や靴であれば面積が大きく目に入るところも大きいので他者に対してアピールできますし、アクセサリーだと(そもそも男性がアクセサリーを身に付けるのはさほど一般的ではないので目立つため)腕時計よりも小さくてもインパクトはあります。
よって、お金のかけ甲斐がある、とも言えるでしょう。
ですが腕時計は「身につけている事自体が自然」なアイテムであり、高級腕時計になるほど見た目が地味になるという傾向もあって、かけたお金ほどのリターンがある、とは言いづらいですね(よって地味な高級腕時計、IWCやジャガー・ル・クルト、ブレゲ、パテック・フィリップなどを身に着けている人は尊敬に値すると考えている。ぼくは見えっ張りなのでどうしても見栄えやインパクトを気にしてしまう)。
よく聞くのはバーなどでお店側の女の子さんが、お客が身に着けている腕時計でその人の収入を見ぬくというものですが、それほど目利きのできる女の子さんも少ないと思われ、仮にいたとしても「金づる」認定されるだけなので、いい腕時計をしていることが「裏目」に出ていると言えるかもしれません。
とにかく、腕時計は自動車と同じくらいの価格がするものも珍しくありませんが、そういった高価な腕時計であっても対外的なインパクトは薄く、また腕時計のだいたいの相場を知っている人も少ないので(ウブロ・ビッグバン、オーデマ・ピゲ・ロイヤルオークがいくらくらいの時計なのかを知っている人は少ない)、まずほかの人に対して「対応を変えさせる」だけの力は無いと考えています。
同じだけの金額があればもっと面積が大きく印象に残りやすい衣類や靴にお金をつぎ込んだほうが良いかもしれない、と考えることが多々ありますが、腕時計にお金を投じるのは本当に自己満足としか言いようがない、と言えるでしょうね。
もちろんお金が余るほどあれば腕時計にお金を注ぐのも一興ですし、それなりに腕時計の価値を理解する人ばかりが集まる場もあるかと思いますが、ぼくはどちらにも縁がなく、腕時計の購入時にはいつもその価値に疑問を感じてはいるところ(それでも購入するので、それなりに価値は見出している)。
なお車の展示会に行くとそれなりの腕時計を身に着けている人が多く、ポルシェやメルセデス・ベンツだとロレックス、フェラーリだとウブロ、ランボルギーニだとフランク・ミュラーが多いように感じます。
ジャガーやアストンマーティンだとブレゲやパテック・フィリップが多いのかもしれませんね。