実現すれば「異常」なプレミアが付くコレクターズアイテムに
ランボルギーニがなんと「マニュアル・トランスミッション」復活を検討中、との報道。
現在ランボルギーニは「アヴェンタドール」「ウラカン」「ウルス」と3台のラインナップを持ちますが、いずれもマニュアル・トランスミッションの設定はなく、アヴェンタドールは「ISR(インディペンデント・シフティング・ロッド。ロボットクラッチの一種)」、ウラカンは「LDF(デュアルクラッチ)」、ウルスは「トルコン式AT」。
つまりいずれも方式は違えど「ATといえばAT」です。
現在はまだ「可能性の模索中」
今回の報道はMotorTrendによるもので、この内容は「ランボルギーニのステファノ・ドメニカリCEOが、アヴェンタドールとウラカンに、マニュアル・トランスミッションを設定したスペシャルエディションの健闘をはじめた」というもの。
まだまだ詳細は不明であるものの、報道ではアヴェンタドールの場合で限定200台に留められ、価格は280万円ほど高くなる、とも(しかしこの上昇幅で収まるとは思えない)。
なおランボルギーニ・アヴェンタドールは最初から「マニュアル・トランスミッションを考慮せず」に設計されているので、よってこれをマニュアル・トランスミッション化するのは非常に困難だと思われます。
一方ウラカンの場合、これはガヤルド/アウディR8と共通の部分がまだ多く、そしてこれらにはマニュアル・トランスミッションが設定されていたため、まだ(MTへの変更が)容易なのかもしれません。
なぜマニュアル・トランスミッションはありがたがられる?
なお、「マニュアル・トランスミッション神格化」はやはりポルシェ911Rからはじまったと考えてよく、これは当時「デュアルクラッチしかなかった」911GT3RS系をマニュアル化し、かつシンプルにして発売したもの。
この911Rが一気に「億」というプレミア価格をつけるにあたり、(ポルシェにとっても)マニュアル・トランスミッションへの注目が高まったと考えて良さそうですが、それまでの流れはいずれのメーカーも「マニュアルは作らない」というもの。
これはクルマのパフォーマンスが高くなりすぎてマニュアル操作が追いつかないためで、速く走らせるにはマニュアルは「無意味」となってしまったという状況に起因します。
実際のところ、ぼく自身もかつてはマニュアル・トランスミッションを好んで選択していたものの、「300馬力を超えるともうマニュアル・トランスミッションでは速く走らせることができない」と考えていて、現代のハイパフォーマンスカーに乗るのであればMTは選択する必要はないだろう、とも考えているわけですね。
そしてアメリカでは「スポーツカー=MT」という信仰が根強く、実際にコルベットもこれまでずっとMTをラインアップしているものの、最近だとそのMT比率は23%で、これは「年々低下中」。
さらに「スーパースポーツをMTで走らせることができる」ということがひとつのウリだったスクーデリア・キャメロン・グリッケンハウスのSCG004Sも「実際にはMTを注文する人はいない」。
そして「我々は最後までMTを作るメーカーになる」としていたアストンマーティンにおいても、実は顧客がMTを求めていなかったという事実を鑑みて「MTは二の次」に。
それでもMTにこだわるメーカーもいくつかあって、その一つがポルシェ。
「GT系にMTはいらない。速く走るならPDK一択」としていた姿勢を翻してMT継続の意向を示していますが、これは現行GT3系でMTを復活させたことでもその方向性が明確に(911Rがすべてを変えたと言っていい)。
そしてBMWも「現行M2でMTは最後」としながらも翻意を行い、「MT存続」をアピール。
ただ、面白いのは年々パワーの大きくなるエンジンにマニュアル・トランスミッションが耐えられなくなるとしており、しかしトルコン式ATであれば対応が可能だと述べています。
そしてATについてはポルシェのような「デュアルクラッチ」ではなく「トルコン式」を強く推していますね(トルコン式ATの前ではDSGも無意味だと発言している)。
未来のMTはどうなる?
そこで「大パワーにも耐えることができ、構造の変更が極めて小さい」として登場する可能性があるのが、「疑似MT(ATのMT化)」。
これはシフトレバーとトランスミッションをリンケージではなく「ハーネス」で結び、クラッチもペダルを踏むことでシリンダーを押すのではなく「スイッチを切り替える」というもの。
シボレーがすでに似たような特許を出していますが、フォルクスワーゲンもかつてゴルフR400(コンセプト)で「ATなのにシフトゲートを切ったセレクターレバー」を装備してMT風の操作ができるデバイスを装備していますね(こちらの場合はクラッチレス)。
つまりATをMT的に操作するということですが、この方法であれば「クラッチを踏んで、ギアを入れる」という作法をこなすことができ、MT派を満足させることができる可能性もありそうです(スロットルバイワイヤーのように、自然な操作感を演出できればの話ですが)。
加えてドライブモードとの連携で「シフトスピード」の調整もできると思われ、エンストの可能性もなく、けっこういい選択肢なのかもしれません。
ただ、DSGだと「段飛びシフト」ができないので「1速づつ」シフトすることにはなりますが、これが実用化されれば「MT、ATの区別」をなくしてスポーツカーは全部これを装備し、マニュアルでシフトしたくなければ「オートモード」で走れるようにしとけばいいいじゃないかと思ったり。
なお、その場合のシフトゲートはやっぱりスーパーカーっぽく(ジョイスティックをピコピコやるんじゃなくて)、きっちりゲートを切っていて欲しいとも思います。
MTは限定でないと価値がない?
なお、マニュアル・トランスミッションが神聖視されるもう一つの理由としては「手に入らないから」というものがあると思われ、「いつでも手に入る」のであれば上述のコルベットやSCG004Sのように「誰も選ばない」ということになって、しかし限定であれば高いお金を払って購入する人がいるというのは実に奇妙な事実でもありますね。
ぼく自身は上述のように「”基本”マニュアル・トランスミッション派」ですが、それは「クルマが自動でギアを選ぶのと、自分自身でギアを選んで走るのとでは、根本的に”走る”意味が異なる」と考えているため。
クルマを走らせるというのはペダルを踏んでステアリングを切るということではなく、「どのような状況においても、最適な選択と操作を行うことだ」と信じていて、それにはやはり「自分で選ぶ」という行為がもっとも重要なのかもしれません。