| フォルクスワーゲングループでは「電動化」に関するずいぶん過酷な人事があったが |
現代ではこれまでにないほどの難しい経営判断を迫られている
さて、フォード、GM、ポルシェなど自動車メーカー各社において、数年前に設定した”野心的な”EVへの転換目標を次々と撤回しているという状況ですが、今回アウディもついに「内燃機関搭載車の販売が、以前に予定されていた期限を超えても続く可能性がある」と認めることに。
アウディは(フォルクスワーゲンとともに)比較的早い段階から電動化に着手したブランドの一つでもあり、「2033年までに電気自動車のみのラインアップに移行する」と宣言し、少し前まで「その計画に変わりはない」とコメントしていたものの、ここへきてその姿勢がついに変わったわけですね。
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アウディにとって重要なのは「柔軟性」である
今回の方針転換に関し、アウディCEO、ゲルノット・デルナー氏は、「我々は柔軟性を保たなければならない」と強調し、ここで引き合いに出したのが「有害な排出ガスを排出する新車の販売を2035年までに禁止するという目標を延期するという欧州連合の決定の可能性」。
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たしかにアウディのもともとの計画は「2035年に内燃機関搭載車の販売が禁止される」という方向性を考慮したものであったので、今回の方針転換もやむなしといったところですが、それでもやはり「長期的にはEVが唯一の道だとも付け加え、以下のようにも語っています。
「現在の法律では、将来的に自動車は”CO2排出ゼロ”でなければならないと定められており、たとえEフューエル(合成燃料)でさえ排出ゼロではないため、法律に適合するための役には立ちません。人類として二酸化炭素排出量の変化が必要だと信じるなら、そして気候変動に対応しなければならないのなら、唯一の方法はバッテリー式EV(BEV)です。パリ協定では、2050年には二酸化炭素排出量ゼロが必要だとされています。」
アウディは当面の策として「プラグインハイブリッド(PHEV)強化」
ただし現時点での様々な状況を鑑みるに、無理にEVへの転換を進めると会社の存続自体が危うくなるのは火を見るよりも明らかであり、よってアウディが今回の方針転換とともに直近で採用するのは(他の自動車メーカー同様に)「プラグインハイブリッド製品への注力強化」。
よってガソリンエンジンを搭載した将来のすべての車両にはPHEVが選択できるようになるといい、EVへの移行が当初の予想ほど速く進んでいないこととあわせて考えると、必然的に(PHEVとともに)内燃機関が当初の計画よりも長くラインナップに残ることとなるわけですね。
なお、同じVWグループの企業傘下にあるポルシェも同様の方針を述べていて、「2020年代末までに電気自動車の販売台数を80%以上にするという目標を堅持しているものの、それは”顧客需要次第”だともコメントし、かつ”顧客の要望に応え”カイエンには2030年以降もV8 エンジンを採用することについても言及済み。
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さらには同じくVWグループにとどまるベントレーも「2030年までにガソリン車を廃止するという予定を2033年に延期する」と発表し、同社初のピュアエレクトリックカーの発売も1年先送りされているという状態で(ただしこれはソフトウエアの開発遅れが原因だとされる)、フォルクスワーゲングループ全体として電動化計画の見直しが入ったのは間違いないものと思われます。
さらに総本山であるフォルクスワーゲンについても、EUが”内燃機関を搭載する新車”の販売を禁止するまで(内燃機関を搭載した)現行世代のゴルフをラインナップに残すことを否定しておらず、つまり法律が変更されない限りは2035年までゴルフ8が販売されるという可能性を意味することに。
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そのほかの自動車メーカーはこんな動きを見せている
フォルクスワーゲングループ以外だと、ボルボも「これから10年先であっても内燃機関がラインナップに残る可能性がある」という見解を述べており、これは2021年に掲げた「2030年までに完全電動化する」という目標の事実上の変更だと考えられ、実際に同社CEO、ジム・ローワン氏は「安全策を取るため、マイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドへのさらなる投資を行う」と発表。
そのほか、メルセデス・ベンツは当初、「2025年までに年間売上高の50%をPHEVとEVで占めることを目指す」という計画を持っていたものの、現実を直視した結果、新しい目標は「10年後までにこの目標を達成する」という内容へと変更され、現実問題として「2030年代に入ってもガソリンエンジンで駆動され続ける」こととなり、「2030年までに(状況が許せば)完全電動化を達成する」としていた計画の変更を余儀なくされています。
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高級車セグメント以外だと、フォード・オブ・ヨーロッパは「この10年後も内燃機関を放棄しない」と述べ、しかし当初の計画では「2030年からは電気自動車のみを販売する」。※つい先日、フォードのモデルE(電動化部門)のCOO、マリン・ジャジャ氏が「それは野心的すぎた」と認めている
世界最大の自動車メーカーであるトヨタに至っては、そもそもEVへの完全な移行さえ信じておらず、豊田章男会長は「電気自動車の市場シェアが30%を超えることはないだろう」と語り、ガソリンエンジンは確実に残るという信念のもと、新しい内燃機関へと追加投資を行っています(マツダおよびスバルと提携し、ハイブリッド車とカーボンニュートラル燃料に重点を置いた内燃機関技術への長期的な取り組みを表明している)。
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こういった方針の転換を見るに、自動車メーカーにとって、現在はおそらくこれまでで最も困難な経営判断を迫られる時期であり、その一方ではますます規制が厳しくなっていて、企業は車両のCO2排出量を削減し、多額の罰金を回避するためEVへと投資するよう迫られています。
また他方では、電気自動車は依然としてかなり高価であり、充電インフラはまだ不足しているという現実もあり、その結果、多くの人がガソリン車を使い続けるか、ハイブリッドあるいはプラグインハイブリッドを購入するという選択を行っていますが、この状況はある意味で「中国製の安価なEV」へのカウンターにもなりうると考えていて、つまり「日米欧の自動車メーカーがガソリンエンジン搭載車を作り続けることで、消費者が中国車を購入することから遠ざけることができ」、つまり貿易上の摩擦を起こさずして中国車を間接的に排除し、主権を日米欧の自動車メーカーに取り戻させることになるのかもしれません。
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参照:Top Gear