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| 100年前は日本市場のほとんどを支配していたフォード |
そのフォードがなぜ輝きを失ってしまったのか
今や日本でフォード車を見かけることは(撤退に伴い)ほとんどなくなってしまいましたが、実のところフォードはかつての日本市場をほぼ独占していたほどの存在です。
1917年、日本へとモデルTが初めて輸入され、1924年には横浜にフォードの現地法人が設立されたというのが「日本市場でのフォードの始まり」で、当時の日本にはまだ自動車産業が存在せず、フォードは公共交通機関の代替手段としても活用されていたというのが当時の状況。
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日本政府の規制、そして戦争がフォードの勢いを止める
その後に発生した1923年の関東大震災をきっかけに自動車需要は一気に拡大し、フォードとGMは1930年には日本国内市場の95%を占有することに。
ただしその絶頂期は長く続かず、というのも1936年、日本政府は外国自動車メーカーに対して販売産台数の増加を禁止する規制を導入したためですが、これは急成長していた日本の自動車メーカー(後のトヨタや日産)を保護する目的があったとされています。
この規制によりフォードは徐々に存在感を失い、1941年には正式に日本市場から(第一回目の)撤退を決め、第二次世界大戦が始まった時点でフォード・オブ・ジャパンはほぼ「幽霊会社」と化していたのだそう。
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戦後の再参入、そして“最悪のタイミング”だった1974年
しかしながら戦後になると日米関係が急速に改善され、経済的な協力体制も強化されるなか、フォードも再び日本市場への再参入を試みるものの、日本国内ではすでにトヨタ、日産、ホンダなどが躍進しており、1974年まで本格的な展開は実現できなかったという実情も。
そしてようやく導入されたのがフォード・マスタングIIで、しかしタイミングは折悪しくも「オイルショック直後」。
よって「燃費にすぐれない」アメリカン・マッスルカーは人気を獲得できなかったといい、これはフォードの責任ではなく「単に不運であった」のだとも考えられます。
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マスタングIIとピント、アメリカンマッスルの迷走
しかし日本へと導入されることとなった1974年型マスタングIIは、あの悪名高き「ピント」と同じプラットフォームを使用し、搭載されていたV6エンジンでさえ101馬力、0-100km/h加速12秒超えという、もはや「スポーツカー」とは呼べない性能。
参考までに、この「ピント」はフォードが1971年から1980年まで販売していたサブコンパクトカーなのですが、燃料タンクの配置が適切ではなく、追突されるとそのタンクが破損して炎上しやすかったという危険なクルマです。
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加えてコストを優先して貧弱なバンパーを装着するなど安全対策にも問題があり、しかも当時のフォードはこの問題を認識しつつも「改良費用が膨大な額にのぼるためにリコールを行わず、起きた事故についてはお金で片付ける」という(今となっては)信じられない判断を下してしまったわけですね(当然ながら、大きな批判を浴びることとなった)。
とにもかくにも、まずこのマスタングIIは、主に日本に駐在するアメリカ軍関係者に向けて販売されていたそうですが、国内ユーザーにはまったく刺さらなかったといい、実際のところ、同時期のトヨタ・セリカST(97馬力)に乗ったユーザーからすれば、「なぜアメリカ人はこんなクルマを崇拝するのか?」という疑問を持ったであろうことも想像に難くありません。
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2016年の撤退、そして「日本は輸入嫌いではない」という事実
しかしフォードは(トーラスのヒットなどもあり)その後しばらく持ちこたえ、それでも最終的にフォードは2016年に日本市場から完全撤退という判断を下すことに。
ただ、実際のところ、フォードが売れなかった理由はドナルド・トランプ大統領が言うように「日本人が輸入車を嫌っているから」ではなく、実際に2016年にはメルセデス・ベンツが67,386台、BMWが50,571台、ジープでさえ9,392台が新規登録され、しかしその一方でフォードの登録はわずか2,225台。※シェアはわずか0.1%
フォードが日本で失敗した本当の理由とは?
つまりほかの輸入車ブランドが売れる中、フォードはその波に乗れなかったということになりますが、フォードの日本市場での失敗には、以下のような複合的な理由があるとされています。
- クルマのサイズが大きすぎて日本の道路事情に合わない
- 欧州車に比べて「質感」や「ブランドイメージ」で劣る
- 主力車種であるF-150などの大型ピックアップは日本市場では需要皆無
- 日本市場向けに専用チューニングやモデル戦略を行わなかった
つまり、「輸入車だから売れなかった」のではなく、日本市場をリスペクトした戦略がなかったことこそが最大の敗因であるとされていますが、一般にアメリカの企業は現地にあわせた商品展開や運営を行わず、「消費者が企業側に合わせてなんぼ」と考えており、これはウォルマートなど過去のいくつかのアメリカ企業の(日本市場における過去の)状況を見ればわかるかと思います。
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一方で、アメリカのスタイルがぴったり日本市場や日本人の嗜好、ライフスタイルとマッチする例、物珍しさが受け入れられるもあり、それは「ジープやスターバックスやコストコ」。※日本は世界で2番目にジープが売れている国である
逆にローカライズ(現地化)して成功した例としては「マクドナルド」「サブウェイ」などがありますが、もしフォードが日本市場向けに車両を改良していたならば(BMWは立体駐車場に収まるよう、3シリーズのドアハンドルを日本市場専用に再設計し日本へと輸入していたことがある)、また違った結果となっていたのかもしれませんし、その(成功したならば、その)経験はほか市場でも活かすことができ、アメリカ市場以外でも強い競争力を持つに至っていたのかもしれません。
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参照:Japan Today, Ford Japan, Carbuzz