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| 伝説のデザインリーダーがオフィスから連れ出された衝撃 |
レンジローバーの現代的な成功を築き上げ、ランドローバーのデザイン言語を再定義した巨匠、そしてJLR(ジャガー・ランドローバー)の最高クリエイティブ責任者(CCO)でもあるジェリー・マクガバン氏が突如として解任されたとの報道。
20年以上にわたりJLRのデザインを牽引してきた重鎮が「即時解雇され、オフィスから連れ出された」という事態は業界に強烈な衝撃を与えています。
この衝撃的な人事は新CEO就任直後というタイミングで発生したとされ、マクガバン氏の転落の裏側には、ジャガーの未来を象徴するも「物議を醸しすぎたコンセプトカー」、Type 00(タイプ ゼロゼロ)が存在しており、ここでは偉大なデザイナーの突然の退場劇の背景にある「権力の交代」と「デザイン論争」、そしてJLRが抱える経営課題を考察してみたいと思います。
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要約:マクガバンCCO解任の核心的な背景
- タイミング: 新CEOのPBバラジ氏が就任した直後の「最初の重大な一手」として解任が実行された
- 功績と汚点: 現行のレンジローバーやディフェンダーなど、JLRの成功の立役者だが、ジャガーの次世代EVコンセプト「Type 00」が「物議を醸しすぎた」
- デザイン論争: Type 00は、「未完成で一貫性に欠ける」と酷評され、社内のデザインチームからも不満の声が上がっていた
- 経営状況: サイバー攻撃による生産停止など、JLRは前期に約1.15兆円(£115億)の売上減という厳しい状況にあった
詳細:新旧CEOの交代とデザイン巨匠の突然の退場
① 20年のキャリアを終わらせた「新CEOの決断」
報道によると、マクガバンCCOの解任は月曜日に即時実行されたといい、長年「VIP中のVIP」の一員であった人物が「オフィスから連れ出された」という事実は、今回の解任が友好的なものではなく、非常に電撃的であったことを示唆しています。
この人事を実行したのは、親会社タタ・モーターズのCFOを務めていたPBバラジ氏。
彼は退任した(こちらも解任されたという方が正しいのかもしれない)エイドリアン・マーデルCEOの後任として、わずか一週間前にJLRの新CEOに就任したばかりであり、今回のマクガヴァン氏の解任は、バラジ新体制による最初の、そして最も大きな組織改革と見られています。
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ジャガーの親会社タタは数カ月前からCEOの後任を探していたとされており、今回任命された新CEOが自身のビジョンを実現するため、そしてなんらかの「変化」をアピールするため、デザイン部門のトップ交代を急進的に進めた可能性が高い、と考えられているわけですね。
② ランドローバーの救世主:ジェリー・マクガバンの偉大な功績
ただ、ジェリー・マクガバン氏の功績は計り知れず・・・。
- キャリア初期: 1997年のフリーランダーのデザイン、2001年の第3世代レンジローバー(L322)のチームリーダー
- 第2期(2004年以降): 現代のディフェンダー、そしてブランドイメージを劇的に向上させ販売を増加させたレンジローバー イヴォークを含む、現在のランドローバー/レンジローバーのデザイン言語のほぼ全てを監督
- 評価: 彼のデザイン戦略はブランドのイメージと販売を新たな高みへと導くことに成功
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つまるところランドローバー/レンジローバーを飛躍的に成長させ、セレブ御用達ブランドにまでイメージと価値を向上させたのも彼の実績。
そういった人物を「電撃解任した」ということが大きな衝撃を業界に与えているのですが、参考までに、彼の持ち味は「ツルっとした」ボディサーフェスで、それは現行のレンジローバー各モデルを見ればよく理解ができるかもしれません。
ただ、「ツルっとした」表面を実現するのは意外と難しく、というのも自動車を構成するパーツは様々な素材でできていて、それら素材の(主に熱による)収縮率はそれぞれ異なるため、これらを「ギリギリのクリアランスで組み立てることが非常に困難だから」。
ただしそれでも彼は常に厳しい要求を現場に突きつけ、自身の考えるデザインを「工業製品として」実現させることに邁進していたとされるので、社内においても「かなり強い反対勢力」が以前から存在したのかもしれません。
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③ 物議を醸した「Type 00」コンセプトが運命を分けたか
マクガバン氏は、ジャガーの電動化とハイエンドブランドへの移行を目指す「ブランド再構築」も担当しており、その旗艦となったのが未来のジャガーを示す「Type 00(タイプ ゼロゼロ、あるいはダブルオー)」コンセプト。
このコンセプトカーは、その極端に長いボンネットや新しいロゴなど、多くの面で強い議論を巻き起こしています。
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- 外部からの酷評: BMWやフェラーリの元デザイナー、フランク・ステファンソン氏は、Type 00を「プロトタイプに行く前に完全に考え抜かれていなかったコンセプト」、「一貫性がなく未完成に見える」と厳しく批判
- 内部の不満: 報道によると、Type 00のデザインを中心としたブランドのリブランディングに際し、デザインチームのメンバーが「蚊帳の外に置かれた」として、マクガバン氏に不満を訴える書簡を送っていたことも明らかになっている
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デザインを率いるCCOとして、ブランドの未来を背負うType 00の論争、そして社内からの求心力の低下が「新体制発足というタイミングで決定的な要因となった」可能性は否定できず、様々な原因によってジェリー・マクガバン氏は退任に追い込まれたのだと考えられます。
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JLRが直面する厳しい経営の現実
今回のトップ交代劇は、デザイン論争だけでなくJLRが直面する厳しい経営環境とも無関係ではないかもしれません。
- サイバー攻撃: 同社は最近、大規模なサイバー攻撃に見舞われ、生産が数ヶ月にわたり停止するという大きな打撃を受けていた
- 業績への影響: この生産遅延は、2025年度上半期(4月1日〜9月30日)の売上が16.6%減となる£115億(約2兆2,000億円)という大幅な減収の一因となった
新CEOのバラジ氏には、デザインによるブランドの「攻め」と同時に、業績の回復という「守り」も求められており、この危機的状況下での「デザインの方向性」を巡る議論が「経営陣の即時かつ断固たる行動」を促した可能性も指摘されています。
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結論:アイコンか、それとも未来への重荷か
ジェリー・マクガバン氏は、レンジローバーを現代のアイコンに押し上げたという紛れもない功績を残しており、しかし自動車業界が100年に一度の大変革期(EV化)を迎える中で、彼の「最後のデザイン」となったType 00が「ジャガーの未来にとって本当に正しい形だったのか」という問いが残るのが今回の解任劇。
新CEOによる解任は、単なるデザインの好き嫌いではなく、「会社の命運を賭けたEVシフト」に対する「経営戦略とデザインの整合性」を問う厳しい決断であったと言え、Type 00が「物議を醸しすぎた」ことで、JLRは、より多くの共感を得られる、新たなリーダーシップとデザインの方向性へと舵を切ることになったのだとも考えてよく、いかに現代の自動車業界において「デザインが重要であるか」がわかる例でもあると捉えています。
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