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テスラ「モデル Y」完全無人走行が実現、テスト車両が目撃された後にテスラ株が急騰、株価が最高値を更新した背景とは

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| テスラは今や「テック企業」として認知されつつある |

この記事のハイライト

  • 安全監視員なしでテスト開始: テスラはテキサス州オースティンで、これまで助手席に配置されていた人間の安全監視員を乗せず、Model Yをベースとしたロボタクシーの公道テストを開始
  • 株価が即座に反応: イーロン・マスクCEOの「乗員なしでテスト中」という短い確認投稿を受け、テスラ株は一時約5%急騰。企業の評価が、自動車販売よりも完全自動運転技術への期待に強く依存していることが明確に
  • 残された大きな課題: 完全無人化への進展は目覚ましい一方で、規制当局の承認や役員報酬に対する公正性の問題など、テスラの長期的な成功を左右する根深い課題が依然として残っている
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「車内に誰もいない」。 イーロン・マスクCEOの8文字が市場を揺るがした理由

「Testing is underway with no occupants in the car.(車内に乗員を乗せずにテストを実施中です)」

テスラCEO、イーロン・マスク氏がXへと投稿したこの短い一文はテスラにとってはもちろん、投資家、そして自動運転車の未来にとって重大な意味を持っています。

テキサス州オースティンの公道で、運転席にも助手席にも誰も乗っていないModel Yが走行している短い動画がネットに流出し、マスク氏が上の一文とともにそれを認めたことがウォール街に熱狂をもたらしたわけですね。

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投資家が歓喜した決定的な一歩

この無人走行テスト開始のニュースを受け、テスラ株は一時4.9%も急騰し、約1年ぶりの高値を記録(さらにその後もテスラ株は高値を更新している)。

この動きは、テスラの企業価値(時価総額約1.53兆ドル)が、日々の自動車販売事業ではなく、「自動運転とロボティクス」が将来、自動車販売の利益を矮小化するだろうという巨大な期待の上に成り立っていることを鮮明に示しています。

テスラは今年6月にオースティンで、専用に改造されたモデルYを使った限定的なロボタクシーサービスを開始しましたが、これまでは地域が限定され、必ず助手席に人間の「安全監視員」を乗せていたという「完全自動とはいえないシロモノ」。

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しかし今回、この最後の人的監視を取り払ったことは、完全な自律走行への最も重要な一歩として市場に受け止められたわけですね。

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テスラは常に「先をゆく」

なお、テスラ及びイーロン・マスクCEOの行動や目指すところは「一般には理解されにくい」ことが多く、しかしぼくが考えるにそれは「常に時代の先をゆく」。

たとえばテスラはまずそれまでの「小さくて遅く節約志向、なにもかもを我慢して乗らなくてはならない」という乗り物であったEVを革新し、「オープン2シーターで非常に速い」という、それまでのEVとは全く異なるEV(初代ロードスター)を提案しています。

続くモデルSそしてモデルXもやはり「とんでもなく速く」、そして「ガソリン車にできることはなんでもできる」クルマであり、EVだからといって何かを我慢しなくても良い製品であったわけですね。

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ただ、その分価格は効果になってしまったものの、イーロン・マスクはEVのターゲットを「ケチくさい人々」ではなく「環境に配慮する富裕層そしてアーリーアダプター」に定めて意図的に高級なEVを「限られた人向けに」販売し、これが大きな成功を収めています。

そしてこの成功にあやかろうとポルシェ、メルセデス・ベンツなどの既存メーカー、そしてルシードやファラデー・フューチャーなどの新参者が同じマーケットになだれ込む頃には「モデルY」「モデル3」といった音頃価格のEVを提供することで「戦場を変更」して自分が作った市場から「一抜け」することで競争を回避(のこされたポルシェ、メルセデス・ベンツは悲惨な目にあっている)。

つまるところテスラは「自分で市場を切り開き、その市場に追随者が登場する頃には次の市場へと移行して」いるわけですが、テスラは他社の動き、そして市場動向を見据えているからこそこういった離れ業が可能となるわけですね。

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さらにいえば、「グリルレス」「フラッシュドアハンドル」「(室内の)タッチ式操作」「自動運転」という世界中のほとんどのEVが備える要件を最初に提案したのがテスラであり(それぞれはテスラが最初に取り入れたものではないかもしれないが、最初にパッケージ化したのはテスラである)、つまり業界のトレンド(あるいはスタンダード)を作り出しているのもテスラです。

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イーロン・マスクの活動範囲は私企業、そして自動車メーカーの範囲を超えている

ただ、テスラは自らの考え方や手法が「標準」となりコモデティ化すること、そうなると自身もそれらの中に埋没してしまうことを理解しているため、常に「先を」見据えた行動を取っているのですが、それらのうちの代表的なものが「自動運転」そして「ロボット」。

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しかしこれらについてもいくつかの自動車メーカーがテスラを猛追しているという状況で、しかし「トータルでは」まだまだテスラがリードを保持していると考えてよく、さらにテスラは「スペースX」「スターリンク」という隠し玉を持っており、今後はスペースXのIPO、そしてその資金によるスターリンクの展開の拡大、宇宙へのデータセンター開設、それを活用したロボタクシーの運用までもが考えられ、そうなるともう他社が追いつくことが難しいレベルとなってきます。

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そして少し前までは「EVの販売台数」に一喜一憂していた株主たちも、テスラのこういった先見性、他社が持ち得ないアドバンテージにようやく目を向けるようになり、「今現在のEV市場における競争過多やテスラの販売台数」よりも、「これからテスラが成し得ようとしていること」を見るようになったのかもしれません。

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つまるところ、かねてよりイーロン・マスクCEOが主張してきたように、テスラは「テクノロジー企業」であってEVメーカーではなく、そして投資家の認識がようやくイーロン・マスクと一致してきたということなのだと考えています。

そこで冒頭の「自動運転」に話を戻すと、この自動運転への取り組みが「テスラの未来」だと評価された可能性が高く、もはや投資家は「EVの販売台数」を気にしておらず、テスラが成し遂げようとしていること、つまりは「まだ見ぬ未来」に対する投資を行い始めた、ということになりそうです。

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参考までに、イーロン・マスクCEOは若い頃から「人類への貢献」をビジョンに掲げており、そのために自分ができること、なすべきことは「環境への貢献」「インターネット」「宇宙産業」の3つだと主張していて(これは同氏の活動初期から今までまったくブレてない)、実際に「EV」「スターリンク」「スペースX」にて分散され進められていますが、ここ数年もすればそれらが統合され、同氏のビジョンが誰の目にも分かる形で示されることになるのかもしれませんね。

もう一つ参考までに、同氏は「世界中の車をEVに置き換える」ことを目指していますが、その手段は「自社のEVのみ」による必要はなく、他社のEVが普及することも全く意に介していないようで、それはテスラ立ち上げ初期に述べた言葉に象徴されるように思われます。

「誰かが(EVを)やらねばならないのであれば、それは自分だ。道は険しく、途中で倒れるかもしれないが、たとえ私が倒れたとしても、私が持って走り出したボールを受け取って、少しでもボールを前に進めてくれれば、それで構わない」

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自動運転がもたらす「オートメーション・プレミアム」への期待

自動運転に話を戻すと、モーニングスターのシニア株式アナリスト、セス・ゴールデンスタイン氏は以下のようにコメント。

「安全監視員なしのロボタクシーテストのニュースは、テスラがテストで進歩を遂げているという我々の予想と一致している」

つまりこれまでの多くのアナリストが行ってきた批判とは一転し、今回の進展を素直に評価していることがわかりますが、テスラは来年、完全自動運転専用に設計された「サイバーキャブ(Cybercab)」の量産開始を控えており、今回のModel Yでの無人テスト成功は、その商用化に向けた技術的信頼性を高めるものだと捉えられています。

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消費者が享受する未来の恩恵

テスラがこのビジョンを達成すれば、ぼくらは以下のような未来の恩恵を受けることになり、これはまさに「革命」かもしれません。

  • 移動コストの劇的な低減: ロボタクシーが普及すれば、人件費がゼロになるため、既存のタクシーやライドシェアよりもはるかに安価な運賃で利用できるようになる
  • 待ち時間の解消: 大規模なロボタクシーのフリート(群)が都市を巡回することで、タクシー待ち時間がほぼゼロになる「オンデマンドの移動」が実現
  • 所有からの解放: クルマを所有しなくても、アプリ一つでクルマが迎えに来るため、駐車場やメンテナンスの悩みから解放される。さらに「出先でも駐車場問題」も考えなくていい

進展の「影」:残された2つの重大な課題

完全無人運転への道筋が見えてきた一方、テスラには、その成功を脅かしかねない根深い問題が潜んでいます。

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1. 規制と安全性の監視強化

無人走行が本格化することで、テスラの技術はこれまで以上に厳しい規制と世論の監視にさらされます。

  • 事故時の責任: 監視員がいない状態での事故が発生した場合、誰が最終的な責任を負うのかという法的な枠組みはまだ発展途上
  • 信頼性の確保: 過去には安全監視員が同乗していても、システムが一方通行を逆走するなどの問題も報告されており、エッジケース(想定外の状況)への対応能力について、規制当局の厳格な承認プロセスをクリアする必要がある

2. 役員報酬の公正性

CTVニュースの報道によると、テスラの取締役会の役員報酬が、同業他社の役員に比べて「劇的に多い30億ドル以上」に達しているという問題が浮上しています。

  • 共感のギャップ: 投資家や社員は「完全自動運転」という夢に賭けている一方、高額すぎる報酬は、経営陣のガバナンス(統治)や公正性に対する疑念を生み出している
  • 結論との関連: 長期的な成功と持続可能な成長を実現するには、技術的な進歩だけでなく、企業経営の透明性と公正性が不可欠である
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結論:テスラは今、正念場を迎えている

テスラのModel Y完全無人走行テストは、「自動運転は実現する」というイーロン・マスク氏の長年の公約に最も強い確証を与える出来事です。

これによりテスラは市場からの絶大な評価をさらに固めたこととなり、しかし技術の進化が加速すればするほど、規制、倫理、企業統治といった「人間社会のルール」との摩擦は避けられません。

テスラの長期的な成功は、ロボットが運転する未来を実現する技術力と、その未来を支える社会的な信頼を両立できるかどうかにかかっており、この無人テスト、その先にある自動運転は、その両方に対する「試金石」となるものと思われます。

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参照:DogeDesigner(X)

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