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メルセデス・ベンツの「顔」が消える?28年間同社のデザインを牽引したデザイナー、ゴードン・ワグナー氏が電撃退任、一つの時代が終わる

メルセデス・ベンツ

| ゴードン・ワグナー氏の「28年の功績」と次世代への影響とは |

この記事を5秒で理解できる要約

  • ニュース: メルセデス・ベンツの最高デザイン責任者(CDO)ゴードン・ワグナー氏が2026年1月31日付で退任
  • 功績: SLRマクラーレンW222型Sクラス、最新のEQシリーズなど、28年間にわたりブランドの象徴を創造
  • 影響: 「Sensual Purity(官能的純粋)」という哲学を確立し、アナログからデジタル(ハイパースクリーン)への変革を牽引
  • 背景: 本人の希望による退職。後任やメルセデスの今後のデザインの方向性に世界中が注目
  • 独自視点: 競合(BMW、Audi)への辛口批判でも知られた「強いリーダー」が去った後のメルセデスはどうなる?
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メルセデス・ベンツ激震。ブランドを再定義した天才デザイナーの退場

メルセデス・ベンツを「古き良き高級車」から「デジタルとラグジュアリーの融合」へと進化させた立役者、ゴードン・ワグナー(Gorden Wagener)氏が28年間のキャリアに終止符を打つという衝撃の報道。

「最近のベンツ、デザインが変わったな」と感じたことがあるならば、それは間違いなく彼の仕業であり、彼は単にクルマをデザインしただけでなく、メルセデスのブランドアイデンティティそのものを書き換えた人物だからです。

ここでは、彼が手がけた伝説的な名車たちの振り返り、そして彼が残した「光と影」、さらにはこれからのメルセデス・ベンツがどこへ向かうのかを考えてみたいと思います。

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伝説の軌跡:SLRマクラーレンからハイパースクリーンまで

ゴードン・ワグナー氏がメルセデス・ベンツに加わったのは1997年。そこから彼が歩んだ道は、まさに現代メルセデスの歴史そのものです。

代表的なモデルと功績(スペック・リスト)

モデル / 技術登場年デザインの重要性
SLRマクラーレン2003年ゴードン・マレーと共に開発。現代に蘇った究極のスーパーカー。
W222 Sクラス2013年「世界最高の自動車」としての地位を不動のものにした現代の名作。
AMG GT2014年ポルシェ911の牙城に挑んだ、官能的なプロポーションのスポーツカー。
Gクラス(新型)2018年伝統を壊さずに現代化した、奇跡のアップデートと評される。
EQS / EQE2021年〜極限の空力(ワン・ボウ・デザイン)と電気自動車へのシフトを象徴。
MBUX ハイパースクリーン2021年ダッシュボードを全面ディスプレイ化。インテリアの概念を破壊。

とくに「ツルッとしたボディ表面」「メルセデス・ベンツのスリーポインテッドスターを多用したデザイン」「これでもかというくらいのマイバッハモノグラム」「きらびやかな室内」は彼の持ち味として広く認識されています。

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時代の寵児が提唱した「官能的純粋」

ワグナー氏のデザイン哲学は「Sensual Purity(官能的純粋)」という言葉に集約されます。

これは不要なラインを削ぎ落とし、筋肉質な面構成で美しさを表現するこの手法は、現行のすべてのラインナップに浸透していますが、その反面「どのクルマも同じに見える」「ここ最近のメルセデス・ベンツのデザインは変わり映えしない」「他社に比較するとデザインの変革がない」とされていたのもまた事実。

参考までに、他の多くの自動車メーカーは「意図的にデザインを変革してゆく」ことを目的にデザイナーを短期間で入れ替える傾向があり、BMWはグループ内でシャッフルを定期的に行うほか、ランボルギーニも「10年」を目処にデザイナーの再配置を行っています。

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一方、メルセデス・ベンツは非常に長い間デザイナーを「変えない」傾向があり、ここはポルシェともども「ひとつの企業的な特徴」であると言えるのかもしれませんね。

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⚡ 賛否両論を恐れない「攻め」の姿勢とその裏側

長年同社でのデザイナーを務めたといえど、彼のキャリアは常に順風満帆だったわけではありません。

特に近年、EVブランド「EQ」シリーズで見せた極端な流線型デザインや(ナスのようだと批判された)、巨大なグリルを備えたコンセプトカー「Vision Iconic」は、一部の伝統的なファンから「個性が強すぎる」と批判されることも少なくはなく、しかし彼は確固たる意思をもって自身の仕事を肯定的に捉えています。

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一方、ワグナー氏は直近のインタビューでも、競合他社のデザインに対して非常に攻撃的な姿勢を貫いており、こういった強烈な個性とメルセデス・ベンツとの方針が徐々に合わなくなった可能性も考えられ、たとえば「ガソリン車っぽいデザインに」逆戻りしてしまったEQSなどは「ゴードン・ワグナー氏の意見とメルセデス・ベンツの方針とがせめぎあった結果」なんじゃないかとも考えています。

  • アウディへの批判: 「1995年の車のようだ」と一蹴
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メルセデス・ベンツのデザイン責任者「AIによるカーデザインはほぼ“駄作”ばかり」。さらなるAIの「問題点」を指摘する

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加えて彼は、メルセデス・ベンツが常に「他社を10年先取りしている」という絶対的な自信を持っており、その自信の象徴が「ダッシュボード全体を覆う39.1インチのハイパースクリーン」。

アナログな計器を捨て、デジタルラグジュアリーに全振りした決断は、彼にしかできなかった仕事であろう、とも言われています。

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考察:ワグナーなき後のメルセデスはどう変わる?

ワグナー氏が去った後のメルセデスには、大きな課題と期待が残されています。

  1. 「EQ」デザインの修正: 直近ではEVモデルに「伝統的なスリーポインテッド・スター」やグリル造形を戻そうとする動きがあり、ワグナー氏の退任はこの「揺り戻し」を加速させるかもしれない
  2. ライバルとの競争: アウディのように「デザイン」を武器に戦うという方向性を採用する例も見られ、メルセデス・ベンツにも新たなデザイン言語が必要とされる
  3. 中国市場への適応: 派手さとデジタルを好む中国市場と、伝統を重んじる欧州・北米・日本市場とのバランスをどう取るか
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結論:一つの時代の終わり、そして新時代へ

2026年1月末。ぼくらがが知っている「ワグナー流メルセデス」の幕が閉じます。

彼が残した「SLRマクラーレン」の衝撃や「Sクラス」の品格は、これからも自動車史に刻まれ続けることは間違いなく、それと同時に、彼が強引に推し進めた「デジタル化」という種は、今後のメルセデスにとって最大の武器になることも想像に難くありません。

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「メルセデスが最も輝いていたのは、ゴードン・ワグナーの時代だった」——後世にそう語り継がれることになるのか、はたまた同氏を超える輝きを放つ次世代デザイナーが登場するのか。今後の動向にも大きな注目が集まり、後任の正式発表を待ちたいところでもありますね。

なお、ゴードン・ワグナー氏は現在57歳。

退任は「自身の希望」とされていますが、28年という長期間の激務を経て、別のステージへ進む準備が整ったのかもしれません。

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