| テスラはまたしても他社の一歩先へ、そして他社を淘汰の渦に突き落とす |
この段階でかなりの新興EVメーカーが消滅するものと思われる
さて、テスラが大きく値下げを行ったこと、そして値下げによって販売が急増していることが報じられる昨今ですが、テスラは電気自動車市場で早くから優位に立ち、コストを下げて利益を上げてきたことでも知られます。
そして今回報じられているのは、その「コストを引き下げる」という戦略が有効に作用しており、市場が新たな競争相手で溢れかえってEVの価格がいかに下落し価格競争になろうともテスラに利益を与え続けている、というニュース。
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やはり値下げの効果は大きかった?中国にてテスラの販売が急増、そして米国では新規投入した廉価グレードが一瞬で完売。これからEVは仁義なき価格競争に突入か
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テスラの一台あたり利益は203万円
ロイターの最近の調査によれば、2022年第3四半期においてテスラは1台当たり15,653ドルの粗利益を上げたとされ、これはフォルクスワーゲンなどの競合他社の2倍以上、トヨタの4倍、フォードの5倍に相当するのだそう。
このコスト優位性は、生産コストをコントロールするための大規模な投資の結果であって、新しい組み立てライン技術、バッテリー製造の内製化、設計の標準化などがコストを低く抑えることに役立っており、それらが積み重なってこの利益を生み出していると考えられますが、いち早くにEVマーケットに参入し、ブルーオーシャン状態にて生産台数を拡大したことによって(コスト引き下げのための)大規模投資が可能になったのだと考えられます。
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テスラの1台あたり生産コストは2017年に比較して半分以下の43%にまで下がっていた!そのほとんどは製造工程と設計の最適化によってなされている
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現在は多くの新規EVメーカーが市場に参入し、かつフォードやGM、BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンなど既存自動車メーカーが積極的にEVを投入している状況ではありますが、このシチュエーションは「テスラにとって不利」「テスラの存在を希薄化している」と言われたものの、このEV戦国時代において、テスラはこれまでのリードによって得た「低コストで生産が可能になった」という状況をフル活用しており、またしても優位性を発揮していると言わざるを得ない状態です。
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逆にほかの新興EVメーカー、既存自動車メーカーがEVのコストを引き下げようとしても「そもそもまだ採算ベースに乗ってない」可能性が高く、その先行投資段階において値下げを行ったり、コストを下げた次世代EVの開発を行うことは非常に困難なのかもしれません。
トヨタは「EV用に開発したE-TNGAのコストでは、今後のEV競争に勝つことは不可能」と判断し、E-TNGA開発コストを捨ててでも低コストEVプラットフォームの開発に乗り出すと報じられていますが、つまりは「そうでもしないと、またしてもテスラに市場を牛耳る機会を与えてしまう」ことになるのだとも考えられます。
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テスラの動きはフレキシブル
なお、テスラは2022年に数回値上げを行い、パンデミック下による利益の最大化に力を注いでいたものの、逆にその”状況”が改善されれば値下げが可能になるとコメントしたことも。
ただしその際にはまだまだインフレが続いていて、サプライチェーンが分断されていたこともあって誰もが「値下げなどは夢のまた夢だろう」と考えていて、しかし年末年始にかけて「まさか」の値下げを行っており、これは文字通りの予想外。
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しかしながらテスラには値下げを行ってでも需要を喚起セねばならない理由があり、それは「そうしないと生産能力が余剰になるから」。
現在はカリフォルニア、テキサス、上海、ベルリンといった4つの工場(ギガファクトリー)を持ちますが、これら工場でもつねにアップデートを行っているために生産能力がどんどん拡大しており、4工場をあわせた生産能力は現在で年間450万台にのぼると言われます。
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一方、北米では年間280万台のEV需要があるといい、つまり「450万台」という生産能力は北米のEV需要を遥かに超えていて、ほかの地域での販売もあるとはいえど、さらにカナダやメキシコでもギガファクトリーの建設を行うとされる今、需要を作っておかないと工場が遊んでしまうことになり、となるとそのぶん経費がかかるだけとなってしまうわけですね。
よって今後しばらく、テスラはこの値下げを有効に活用してゆくことになるかと思いますが、相変わらず「追ってくるものの先をゆく」ことになるのかも。
まずテスラはモデルSをヒットさせ、これを見た他社がモデルSのライバルを作って市場投入する頃にはモデル3にて別の市場へと移っており(残された他社だけが争う形になった)、そして中国はじめ新興EVメーカーが今度はモデル3の対抗を市場投入した頃には「値下げ」にて競争の軸を新たな、そしてテスラが勝てる分野へとシフトさせることとなっています。
つまり、ワリを食ったのはテスラを追いかけた競合他社ということになり、それは今回の「値下げ」でも同じことで、すでに(この時点で利益が出ていないと言われる)シャオペンが値下げを行っており、おそらくはNIOなど他メーカーも追随せざるを得ない状況なのは間違いなく、ここでテスラのように「コスト改善ができるレベルに達していないメーカーは」自滅し淘汰されてゆくのかもしれません。※シャオペンの2023年第3四半期における1台当たりの粗利益はわずか4,565ドル、純損失は11,735ドルなので、値下げに耐えることができる体質ではない
一方のフォルクスワーゲン、フォード、GMなどの既存大手自動車メーカーはガソリン車において大きなアドバンテージを持つ一方、EVの生産プロセスを合理化するだけの経験や生産規模がなく、歴史とともに大きくなってしまった会社そのものの運営コストもかかるため、この価格競争について行くのは難しいかもしれません。
いずれにせよ、先行することで多くのマージンを手に入れたテスラは、強力な武器を持っていると考えてよく、「その分野でのフロンティアになる」ことの重要性がわかるひとつの事例でもありますね。
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参照:Reuters