
| 少なくともフォルクスワーゲングループが「売却先を見つけるまでは」グループ離脱はないだろう |
イタルデザインが単独で生き残ることは難しい
フェラーリやランボルギーニと並び、“イタリア車の美しさ”を象徴してきたデザイン会社 イタルデザイン。
BMW M1、ロータス・エスプリ、デロリアンDMC-12、マセラティMC12など数々の名車を生み出してきたその名門に重大な動きが報じられ、どうやら「売却」の可能性があるもよう。
「イタルデザイン」とは?
イタルデザイン(Italdesign Giugiaro S.p.A.)はイタリアのトリノに拠点を置く、世界的に有名な自動車のデザインおよびエンジニアリング会社であり、その革新的なデザインと高い技術力で、自動車業界に大きな影響を与えてきた、というのが一般の認識です。
イタルデザインの概要:
- 設立: 1968年
- 創業者: ジョルジェット・ジウジアーロ(Giorgetto Giugiaro)、アルド・マントヴァーニ(Aldo Mantovani)
- 本社: イタリア・トリノ近郊のモンカリエーリ
- 主な事業内容:
- 自動車のデザイン(エクステリア、インテリア)
- プロトタイプおよび少量生産車の開発・製造
- エンジニアリング
- コンサルティング
- インダストリアルデザイン(自動車以外の製品デザインも手がける)
- 現在の所有者: フォルクスワーゲン・グループ(アウディAGを通じて)が100%所有
イタルデザインの歴史と特徴:
- ジョルジェット・ジウジアーロの才能: 創業者であるジョルジェット・ジウジアーロは、「20世紀最高のカーデザイナー」とも称されるほどの才能を持つ人物で、彼が手がけた数々の名車は、いまなお自動車デザインの歴史に深く刻まれる
- 革新的なデザイン: イタルデザインは、常に時代の先端を行く革新的なデザインを生み出しており、直線基調のシャープなデザインや、機能美を追求したスタイルは、多くの自動車メーカーに影響を与えることに
- 幅広いクライアント: 設立以来、フィアット、アルファロメオ、ランボルギーニ、マセラティといったイタリアのメーカーはもちろん、フォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツ、ルノー、プジョー、トヨタ、日産など、世界中の主要な自動車メーカーのデザインを手がける
- コンセプトカーの発表: モーターショーなどでは、未来の自動車デザインを示唆する数々の魅力的なコンセプトカーを発表し、注目を集めており、これらのコンセプトカーは後の市販車に影響を与えることも少なくない
- 少量生産車の開発・製造: デザインだけでなく、プロトタイプや少量生産車の開発・製造も行っており、これによってクライアントは革新的なアイデアを具現化することが可能に
- フォルクスワーゲン・グループの一員として: 2015年にフォルクスワーゲン・グループの傘下に入り、グループ内のデザイン戦略においても重要な役割を担っている
イタルデザインの主なデザイン代表作(一部):
- アルファロメオ: ジュリア スプリントGT、アルファスッド
- BMW: M1
- デロリアン: DMC-12
- フィアット: パンダ(初代)、ウーノ
- フォルクスワーゲン: ゴルフ(初代)、シロッコ(初代)、パサート(初代)
- ロータス: エスプリ
- マセラティ: メラク
- いすゞ: ピアッツァ
これらの代表作からもわかるように、イタルデザインは様々なジャンルの自動車において、時代を象徴するデザインを生み出しており、現在であっても自動車業界の電動化や自動運転といった新しい潮流に対応しつつ、革新的なデザインと技術を提供し続けているわけですね。
▶ VWグループがイタルデザインの売却を検討中?
こんなイタルデザインですが、まずは2010年、フォルクスワーゲングループ(VW)がイタルデザインの株式90.1%を取得することから「VW傘下入り」しており、この際の買収はグループ傘下のランボルギーニを通じて行われ、現在はアウディの管理下に。
その後は大きな動きもなく現在に至るものの、この5月になってイタリアの主要紙『Corriere della Sera(コリエーレ・デッラ・セラ)』が「イタルデザインの売却」を報じ、その後Automotive News Europeも同様の報道を行っているというのが現在の状況ですが、イタルデザインの労働組合代表にはすでに「売却に向けたデューデリジェンス(精査)が始まっている」と伝えています。
▶ 重要な会議が5月に2回開催予定
さらに関係者を交えた会議が持たれているといい、報道によるとその具体的な日程も。
- 5月12日:イタルデザイン本社にて従業員向け説明会
- 5月19日:トリノ産業連合(Turin Industrial Union)も交えた追加会議
なお、トリノといえば、かつては世界的な自動車デザインの中心地であり、しかしベルトーネ(Bertone)の消滅と再生、ピニンファリーナのインド企業マヒンドラへの売却など、ここ数年で大きな変化が相次いでいます。
今回のイタルデザイン売却報道に対しても、地元トリノでは「中国企業への移管」を懸念する声も上がっており、かなりな注目を集めているようですね。
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▶ この「売却」にはVWグループ全体の経営状況も影響か?
イタルデザイン売却の背景には、(ここ最近頻繁に報じられる)VWグループの財務的な不安定さも見え隠れしており、イタルデザインも残念ながら「切り離し対象」としてリストアップされてしまった可能性があるのかもしれません。
- EV販売は伸びているが、ドイツ国内では工場閉鎖の危機も
- 今後5年間で35,000人超の人員削減を予定
- こうした状況下で、収益を生まない部門や子会社の整理が進行中と見られる
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果たして、この歴史あるイタルデザインが再び別の企業の傘下に入るのか、それとも独立系として再出発を図るのかについて興味は尽きず、しかし既存の大手自動車グループはすでに「インハウス」によるデザイン体制を構築しており、イタルデザインの買収に興味を示さない可能性も。
さらにイタルデザインが単独として生き残れる可能性は非常に低く(他社からのデザインや車両の開発・生産委託は規模が小さく不安定である、)となるとやはり「中華系」新興自動車メーカーによる買収しか存続のチャンスがないのかもしれませんね。
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