| アストンマーティンは同時にほかプロジェクトを進行させすぎた |
アストンマーティンが2019年におけるセールス下落、そして英国のEU離脱に伴うコスト増のため、最大で54億円規模の投資「削減」を行うと発表。
アストンマーティンはこれまで、「ひたすら前進」を行ってきた会社であり、今回の発表はちょっと意外であるとともに「やっぱりな」というところもあります。
実際のところ、アストンマーティンは2019年の販売を7,300〜7,100台と見込んでいたものの、今回の発表にあわせてこれと6,500〜6,300台へと下方修正。
けしてアストンマーティンの規模が「縮小」しているわけではない
ただ、この「6,500〜6,300台」でもけして販売が減少するわけではなく、2018年の「5,117台」に比べるとしっかり成長。
ただ、これまでの成長が強烈過ぎた、ということなのかもしれません。
アストンマーティンによると、その需要は英国で22%、欧州の英国以外の地域だと28%も低下しているといい、しかしアジアパシフィックでは二桁増の需要がある、としています。
なお、この「アジアパシフィック」とは主に中国を指していると思われ、というのもアストンマーティンは本国以外にはじめて中国に「ブランドセンター」を開設したため。
加えて新型SUVも「中国向け」であることを隠そうとせず、アストン・マーティンの成長は「中国頼み」ということになりそうです。
今回の件に関し、アンディ・パーマーCEOは「残念ではあるが、在庫調整をせねばならない」とも語っていて、つまりは「クルマが余っている」ことも明白に。
加えて生産調整(つまり原産)を行うとも報じられ、これは思ったよりも厳しい状況なのかもしれません。
参考までに、2018年におけるスーパーカーメーカーの販売台数は下記の通り。
カッコ内は前年比、つまり2017年に対しての成長率ですが、アストンマーティンがおそ六ク伸ばしていることがわかり、2019年のスローダウンはこの反動だとも考えられます。
フェラーリ 8,398台(+4.8%) マクラーレン 3,340台(+10%) ランボルギーニ 3,815台(+10%) アストンマーティン 5,117台(+58%) |
それでも暗雲立ち込める理由とは?
ただ、「反動」があったといえどもあまりアストンマーティンの未来が明るいとは言えず、というのもアストンマーティンは現在、その強みを発揮しにくい状況にあるため。
アストンマーティンというと「富裕層向けの高級車」というイメージが強く、実際にそこに当てたDB11は大ヒット。
ただし「その次」が難しく、スーパースポーツであるヴァンテージについては、発売当初こそ大きな人気を博したものの後が伸びず、かつDB11の人気も収束してしまい、今回のような「苦しい」結果を見せています。
このあたりの理由については確固たるものはなく、ただ、「アストンマーティンはほかのメーカー(つまりAMG)からV12以外のエンジン供給を受けている、というところが「ピュアではない」と判断されたのかも。
実際に「ピュア」なイメージのあるマクラーレンは継続してその販売を伸ばしていて、おそらくはまだまだ伸びそうな勢い(2019年現時点での販売を見るに)。
加えてアストンマーティンは「ラピードE」といったEVへの注力、そして中国偏重の姿勢が「富裕層」「スーパースポーツ愛好家」に好まれなかったのかもしれません。
さらにはタワーマンション建設、潜水艦ビジネスへの参入なども「思うような高級イメージを形成できなかった」上に「ピュアなスポーツカーメーカーというイメージを阻害した」可能性も。
加えて言うならば、限定モデルを除くと中古相場が安定せず、ダイレクトに言うと「安い」ということで、これがまた新車販売の足かせになっているのは間違いなさそうですね。
ちなみに、ぼくは「ヴァンテージ」を買おうと真剣に考えたことがありますが、その際のネックは「エンジン、つまりそのクルマのコアが他社製」「リセールが低い」。
ちなみにラピードEは、最近の限定車にしては珍しく「完売が難しそう」で、まだ余っているようですね。
アストンマーティンは「急ぎすぎた」?
アストンマーティンはそれも理解しており、よってレッドブルと組んだ「ヴァルキリー」を発売。
これはもうぶっちぎりの純度とパフォーマンスを持つハイパースポーツということになり、アストンマーティンはこれによって「純粋なスポーツカーメーカー」としてのイメージを確立し、かつミドシップ市場に乗り出す予定。
これについては今のところ「大成功」だとも考えられますが、上述のように「タワマン」「潜水艦」「ラピードE」、そして「DBX」「ラゴンダ」といった感じで、いろいろやってしまったのが”アストンマーティンのブランドを希薄にしてしまった”のかもしれません。
アンディ・パーマーCEOは「ブランド立て直し」の重責を負い、かつ先見の明がある人なので、ゆっくり進んでいる暇はなかったのだと思われるものの、このスピードに消費者がついてこれなかったのでしょうね。
ちなみに、自動車メーカーには、アストンマーティンのような「異プロジェクト同時進行型」と「単独プロジェクト追求型」とがあり、たとえば「クーペSUV」についても、アウディは「人気があるから」とそれにすぐには飛びつかず、まずは「Q2」「Q3」「Q5」「Q7」という、基本となる箱型SUVで確固たるポジションを形成した後に「Q8」「Q3スポーツバック」というクーペSUVを投入。
これはポルシェが「カイエン」「マカン」にて箱型SUVで市場を最大化した後に「ニッチ」なクーペSUVへと進出したのと同様でもありますね。
一方でBMWとメルセデス・ベンツは箱型SUVに加え、同時に「GLE/GLCクーペ」や「X4」「X6」を展開していて、これはアウディ/ポルシェとは異なるところ。
アウディ/ポルシェの場合は、「投資効率を最大化する」ために無駄なことをぜず、まずは一つのことに集中し、評価を得てから次に進む、という考え方ですね。