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| ポルシェは実際に「月面車(ルナローバー)」を設計したことも |
月面探査を現実に──ESAの「LUNA施設」が切り拓く未来
ポルシェが「宇宙産業との関わり」という珍しいコンテンツを公開。
なお、ポルシェはかつてのアポロ計画にて「月面探査車(ルナローバー)の設計」という形で参加していますが、そのルナローバーはもちろんEVであり、なんだかんだ言いながらポルシェの歴史の要所要所には「EV」が登場していて、そして「宇宙」というキーワードも同様なのかもしれません。※映画「スター・ウォーズ」、そしてゲーム作品のために宇宙船をデザインしたことも
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ポルシェ・エンジニアリングが宇宙開発に関わる理由
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の宇宙飛行士、マティアス・マウラー博士は2021〜2022年に国際宇宙ステーション(ISS)にて「Cosmic Kiss」ミッションを遂行し、現在はドイツ・ケルンにあるLUNAアナログ施設の設立を担当しています。
この施設は、将来の月面ミッションを地上でシミュレーションするための訓練拠点でもあり、NASAも視察に訪れる世界最先端の設備なのだそう。
マウラー博士によれば、月の砂は鋭利で粘着性が高く、表面温度は−150℃から−250℃まで変動する過酷な環境。
「現実の月面に限りなく近い条件を再現することで、有人探査の実現に大きく近づいている」と語りますが、その一方でヨーロッパはまだ独自の有人打ち上げロケットとカプセルを持たず、「自前の帰還システム」が今後の課題だとも述べています。
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そしてこれに対するポルシェの関わりですが、ポルシェ・エンジニアリングのクリストフ・ロッゲンドルフ博士は自動車から宇宙まで幅広い領域で開発支援を行っていて、具体的には人工衛星向けのエネルギーシステムを開発中しており、振動、温度変化、信頼性などの要求は自動車分野と驚くほど似ている、とコメント。
「当社の多くのエンジニアは航空宇宙技術のバックグラウンドを持ち、その知識を電動化やエネルギーシステム開発に応用しています。産業の境界を超えて技術を循環させることこそ、真のイノベーションの源泉です」
「失敗を恐れない文化」から生まれるイノベーション
ESA、ポルシェ両者に共通するのは「失敗を恐れない文化」。
ロッゲンドルフ博士はフェリー・ポルシェの言葉を引用しながらこう語ります。
「失敗を恐れない。失敗しなければ、本気で挑戦したことにはならない。」
前開発フェーズでは、失敗を通じて限界を探り、技術を磨くことが欠かせませんが、 一方でマウラー博士も「産業界から“Fail early, fail often(早く失敗し、何度も学ぶ)”の精神を宇宙開発に取り入れるべき」と述べています。
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これは「前もって実験ができない、宇宙空間や月面という環境」で使用する製品を開発するプロセスならではの考え方でもあり、「より多く失敗したほうが」有益なデータを蓄積できるのかもしれませんね。
そしてもちろん有人飛行では「ゼロエラー」が前提となり、だからこそ「本番で失敗しないための、前もっての失敗」が貴重な学びとなるのだと思われます。
自動車産業が宇宙を変える?──“Spin-in”の発想
さらにマウラー博士は「宇宙から地球へ」ではなく「地球から宇宙へ」技術を持ち込む“Spin-in”の重要性を指摘します。
「自動車業界は驚くほど開発スピードが速い。すでに量産寸前の技術が宇宙分野にも活用できる」と語ります。
たとえば、軽量素材や高効率冷却技術、AI制御システムなどは、宇宙機の信頼性やコスト削減に直結。
かつてアポロ計画がIT革命を生んだように、現代では自動車産業が宇宙開発のイノベーションを後押ししている、と強調しています。
AIとデジタルツインが導く、地球と宇宙の新たな協業
加えて、ロッゲンドルフ博士は、AIやデジタルツイン技術が両産業を結びつける鍵だと語ります。
「私たちは車両バッテリーの“デジタルツイン”を用いて開発を最適化していますが、この手法は宇宙機でも有効です。」
実際、LUNA施設でもVRと仮想モデルを組み合わせ、実機を再現できない装置をバーチャル空間で操作する訓練を実施。
また、衛星の数が急増する中、AIによる自律航行・衝突回避が不可欠となっており、自動運転技術との共通性が見えてきます。
「地球と宇宙の課題は、実は同じ方向を向いている」
マティアス・マウラー博士
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国際協力と人材育成が、ヨーロッパの宇宙力を高める
上述の通り、ヨーロッパではまだ独自の有人飛行能力が確立されていませんが、しかしマウラー博士は「多様な文化と専門性を結集すれば、ヨーロッパは宇宙開発の先頭に立てる」とも強調。
ポルシェ・エンジニアリングも国際展開を加速させており、ドイツ、チェコ、ルーマニア、イタリアに加え、アメリカと中国にも拠点を持ち、各市場のニーズを反映した開発を行っており、異文化の協働が、新しいアイデアの源泉になっていることにも言及しています。
科学者とエンジニア、二人の原動力
そしてロッゲンドルフ博士は「技術で未来を変えたい」という情熱を語り、マウラー博士は「夜空を見上げるたびに冒険心が湧く」。
この二人に共通するのは、“未知への探求心”と“次世代への責任感”であるとも考えられますが、技術の最前線で活躍する彼らの「自動車開発も宇宙開発も、挑戦と失敗、そして学びの積み重ねで進化する」という言葉は自動車産業と宇宙開発の「境界線が消えつつある」現実を示しています。
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実際のところエネルギー効率、AI制御、仮想試験、素材開発など、両分野の技術は互いに循環し始めており、もはや宇宙は「遠い夢」ではなく、産業の延長線上にある現実。
ポルシェのように「自動車メーカーが、次世代の宇宙プロジェクトに関わる日」も遠くはなく、そしてポルシェのエンブレムが宇宙にまで進出する日もまた「そう遠くない未来に」やってくるのかもしれませんね。
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