| ベネデット・ビーニャCEO「テスラが誕生する以前の自動車業界では、ものごとの進む速度が遅すぎた」 |
加えて「テスラが自動車業界の目を覚まさせたのだ」とも
さて、新CEO、ベネデット・ビーニャ氏を迎えた後にかつてないほどの速さで変革を迎えるフェラーリ。
ベネデット・ビーニャCEOは自動車業界ではなく、主に(iphoneなどに使用される)センサーを開発するエレクトロニクス企業からの転身という変わり種です。
もちろんフェラーリが「スカウト」してきた人材ではありますが、フェラーリはCEOはじめ重役を”自動車業界以外からの”出身者で固め、その一方で旧来の役員たちを重責から外すという思い切った人事を行ったことも報じられています。
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なぜフェラーリは取締役の刷新を?
なお、CEOはじめ取締役を刷新したきっかけとなったのは、前フェラーリCEOであるセルジオ・マルキオンネ氏が急死したためで、同氏のかわりとしてグッチ等のハイブランド、そしてエレクトロニクス業界から、さらにはiMacをデザインしたジョナサン・アイブなど様々な候補者が検討されたといい、しかし共通するのは「新CEOの候補者は自動車業界以外の人物であること」。
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その理由としては、フェラーリが自動車メーカーからラグジュアリーブランドへと変革を遂げるためであったと考えられていて、実際にフェラーリは新CEOであるベネデット・ビーニャ氏着任以降にラグジュアリー色を強めてゆくことになりますが、これはベネデット・ビーニャ氏の意向というよりは、(時系列的に見て)フェラーリの株式の多くを所有するフィアット創業者一族の意向であったと考えられます。
そしておそらく、フィアット創業者一族は「未来の富裕層は、より洗練された製品、そしてエレクトリックカーを好むであろう」と考えたのだと思われ、そこで白羽の矢が立ったのがベネデット・ビーニャ氏ということになるのかも。
なお、自動車メーカーのCEOが「自動車業界以外から」という例は非常に珍しく、しかし同氏はすでにフェラーリにていくつかの改革をもたらしていて、中でも大きなものは「様々な流れに適応するスピードを極限にまで早めたこと」。
そして今回注目されているのが、ベネデット・ビーニャ氏がテスラについて語ったコメントなのですが、同氏はテスラそしてイーロン・マスクCEOを高く評価し、テスラが自動車業界を「目を覚まさせるきっかけになった」とまで語っています。
ベネデット・ビーニャ氏によると「テスラは業界を揺るがし、プロセスや決定を加速させた。彼らはより速く、より機敏に動いている。 自動車業界は元来、意思決定がかなり遅く、変化に対して常にオープンではないという評判がある。テスラはそれを変えたのです」。
イーロン・マスクCEOも自動車メーカーでの勤務経験はなく、それまではソフトウエア業界、そして航空宇宙産業に携わっていた人物で、だからこそ「自動車業界の常識にとらわれない」展開が可能となったのかもしれません。
自動車業界は閉鎖的であり意思決定の速度が遅い
ちなみにトヨタは過去にテスラと提携するものの、「学ぶものは無い」として提携を解消し、BMWはモデル3の生産がなかなか開始できないテスラを見て「これだから部外者は。やり方を教えてやろうか?」と揶揄したことも。
ただしそこからテスラは独自の手法にて生産を行い、さらにはどんどんコストを引き下げ、頻繁なアップデートによって製品の品質を向上させており(いずれも自動車業界の常識とは全く異なる方法によって、である)、トヨタのEVを「発売する前から時代遅れ」にしてしまったのは記憶にあたらしいところ(これによって、トヨタはそれまで考えていたEV計画を白紙にせざるを得なくなった)。
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そしてBMWも「テスラを追う立場」となり、2025年のノイエクラッセに期待をかけているものの、こちらももしかすると「発売した頃には、テスラに太刀打ち出来ないほど時代遅れ」となっている可能性も考えられます。
こういった状況を生んだのは、ひとえに「エレクトロニクス業界と、自動車業界の意思決定と開発速度の差」だとも考えられ、よってフェラーリはそこに目をつけて自動車業界以外からの人材をリクルートし、ベネデット・ビーニャ氏はみごとその期待に応えているとも考えられます(自動車業界での非常識を「常識」にしようとしている)。
現在自動車業界は「100年に一度の変革期」と言われるものの、ここで判断を間違ってしまえば取り返しのつかない損失を被る可能性もあり、しかしここで覇権を取ることができるかどうか、もしくは被害を最小限に留めることができるかどうかは「意思決定の速さ」に左右されるのかもしれません。
そしてベネデット・ビーニャ氏は、「旧態依然としており、変革スピードが遅い自動車業界」の目を覚まさせたのがテスラだと言っているわけですが、おそらくフェラーリはかなり早い段階からテスラを注視しており(フェラーリ会長、ジョン・エルカーンとイーロン・マスクCEOとが対談したこともある)、変革の必要性にいち早く気づいた自動車メーカーなのかもしれません。※その意味では、テスラを理解できないという経営者は無能かもしれない
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もしかすると今後、フェラーリのように「目を覚ました」他の自動車メーカーが、より速いスピードが要求される(ソフトウエア業界のような)分野からCEOを引っ張ってくる可能性がないとは言えませんが、今のところそういった例は見受けられず、よってほとんどの自動車メーカーは「まだ目を覚ましていない」のだとも考えられます。
なお、ベネデット・ビーニャCEOは、「テスラ以前」の自動車業界では、ものごとが進む速度が遅すぎたと表現しており、「周囲の環境をいかに早く理解し、いかに早く適応して決断を下せるかが重要です。最終的な決断を下すには、あらゆる要素が揃うまで待つ必要があると考えているならば、それは遅すぎるということです」とも述べていて、つまり電動化技術が発達するまで待つと考えているようでは「もう遅い」ということなのだと思われ、このあたりは自動車業界とエレクトロニクス業界との考え方の差が端的に現れている部分だと言えそうですね。
加えて、現代では先にその製品を発売したものほど(リスクも大きいが)利益が大きいという「先行者利益最大化」的な状況となっており、後発が得られる利益が少なくなる傾向も。
よって、機が熟するのを待って電気自動車に参入すると、もしかするとそこにもう市場は残されていないのかもしれません。
ちなみに、EVでなくとも自動車の「エレクトロニクス化」は大きく進んでおり、車体に占めるそのコストの30-40%がエレクトロニクス関係だと言われていて、さらにその比率は年々高くなっており、よって自動車メーカーのほうがエレクトロニクス業界の考え方にあわせるのが「自然」なんじゃないかと思います。
日本の自動車メーカーは特にこのあたりが遅れていて、自動車にエレクトロニクスを「プラスする」というりハードウエア中心の考え方となっているものの、欧州ではソフトウエアを先に考え、それに合ったハード(車体)を設計するという考え方が主流となりつつあり、日本車のインフォテイメントシステム、OTA(無線アップデート)が低レベルにとどまるのもここに理由があるのかもしれません(日本の場合、自動車メーカーとサプライヤーとの関係性において、自動車メーカーが支配的であるのかもしれない)。
先日、ようやくトヨタが「クルマの知能化」をテーマとして打ち出したものの、すでにこのコンセプトはテスラがずっと前に示して実践しているもので、かつ数年前から欧州の自動車メーカーもこれに取り組んでいるために「今さら感」が強く、これが日本の自動車メーカーの現状なのでしょうね。
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ただしフェラーリはテスラになろうとしているわけではない
しかしながら、フェラーリはテスラによって「叩き起こされた」ものの、けしてテスラになろうとしているわけではなく、ベネデット・ビーニャCEOは「テスラのクルマは非常に機能的で、A地点からB地点へと効率的に移動するために用いられるものであり、我々のクルマとは顧客の層が全く異なる」とも。
さらに同氏はフェラーリのクルマを「エモーショナルな存在」だと表現しており、ピュアエレクトリックカーであってもエモーショナルでエキサイティングであり続けると宣言しています。
一方で、ピュアエレクトリック一辺倒となって「顧客の選択肢を狭める」ことはしないともコメントしており、現在のフェラーリのロードマップだと、2026年までに55%のモデルがハイブリッドになり、5%がピュアエレクトリック、そしてガソリンエンジン搭載車のシェアは40パーセントという計画を持っています。
さらに10年後だとガソリン車はわずか20%、40%がハイブリッド車、40%が純電気自動車になると予想しており、2030年末までにカーボンニュートラルになること、サステナビリティに大きく注力することも目標として掲げられています。
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参照:Bloomberg