
| スーパーカーの常識を覆す「2,000cc V8」誕生の背景とは |
「2リッターV8」は「規制」による産物だった
世界を代表するスーパーカーメーカー、フェラーリとランボルギーニ。
大排気量で高出力なエンジンこそが彼らの代名詞ではありますが、かつてはフェラーリ、ランボルギーニともに「排気量わずか2.0L(2,000cc)のV8エンジン」を搭載したモデルを生産していたことがあります。
そしてこの「2リッター」は現代のクラウンスポーツの「2.5リッター」よりも小さな排気量で、V8エンジンだと「1気筒あたりわずか250cc」。※ランボルギーニ・テメラリオとフェラーリ296GTBの1気筒あたりの排気量はそれぞれ499.4ccと498.7cc
なぜ、最高峰の技術を持つ彼らが、あえて「非力なスーパーカー」を作らなければならなかったのか。
その裏側には、当時のイタリア社会を揺るがした深刻な情勢があったとされています。
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この記事の要約
- 重税への対抗策: 70年代イタリアの「38%という超高額な付加価値税」を回避するためだった
- オイルショックの影響: 中東情勢による燃料高騰を受け、政府が2.0L超の車を「贅沢品」と見なした
- 希少性の逆転: 当時は不人気だった低出力モデルが、今では世界屈指の「レア車」となっている
イタリアを襲った「贅沢税」の恐怖
まず、「2リッターV8エンジン」が登場した1970年代に何が起こったかというと、「第四次中東戦争に端を発したオイルショックにより、世界中で燃料価格が高騰し深刻な不足に陥った」。
これによって各国では様々な対応を迫られることになりますが、イタリア政府はこれに対応するため、極めて厳しい税制を導入します。
その税制とは「排気量2,000ccを超える新車に対し、38%の付加価値税を課す」という厳しいもので、ただでさえ高価なスーパーカーに「さらに4割近い税金が上乗せされる」。
これは富裕層にとっても無視できない負担であり、フェラーリやランボルギーニにとっては国内市場を失いかねない死活問題であり、そこで彼らが導き出した答えが、既存モデルのエンジンを「ダウンサイジング」することだったというわけですね。
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車種概要:あえてパワーを捨てた伝説のモデルたち
両社は全く新しい車を作るのではなく、既存の人気モデルのボア(またはストローク)を縮小することでこの税制基準に適合させており、「気筒数を減らさなかった」のは注目に値するところです。
その理由は今となっては定かではないものの、単に「気筒数を減らしてエンジンの外寸を変更することによる車体の設計変更よりも、気筒数を維持し、1気筒あたりの排気量を減らすほうが設計や製造工程上で効率的だったから」なんじゃないかと考えています。
1. フェラーリ:208シリーズ(208 GTB / GTS / GT4)
名車「308」シリーズの3.0Lエンジンを2.0Lへ縮小(ティーポ F106 CB000)。
- 208 GT4: 約170馬力。非力ながらも800台以上が生産される
- 208 GTB / GTS: 後にターボを装着しパワー不足を補うことになるが、初期のNAモデルは非常に希少
Image:Ferrari
2. ランボルギーニ:ウラッコ P200
V8ベイビー・ランボとして知られる「ウラッコ」のダウンサイジング版。
- スペック: 約182馬力
- 希少性: わずか66台しか販売されず、現在ではコレクターの間で幻の存在となっている
主要スペック比較
| 項目 | Ferrari 208 GT4 | Lamborghini Uracco P200 |
| エンジン | 2.0L V8 NA | 2.0L V8 NA |
| 最高出力 | 約170 hp | 約182 hp |
| ベース車両 | 308 GT4 | Uracco P250 |
| 生産台数 | 800台以上 | 66台 |
市場での位置付けと「知られざる価値」
当時、これらの2.0Lモデルは「税金対策のための妥協の産物」として大きな成功を収めることはなく、特にランボルギーニのP200はそのパワー不足からわずか66台という極少の生産数に終わっています。
しかし、歴史は面白いもので、数十年が経過した現在、これらの「非力なモデル」は、その圧倒的な生産台数の少なさからコレクターズアイテムとしての価値が急上昇しており、そしておそらくは今後もその価値は上がりこそすれ、下がることはないとも見られています。
そしてこういった「当時は不人気車、今では人気車」という構図は”自動車業界あるある”としても知られており、これが中古市場での面白いところでもありますね。
現代のダウンサイジングとは意味が違う?
なお、現代のダウンサイジング(小排気量ターボ化やハイブリッド化)は、「環境規制に対応しつつもパワーを落とさないこと」「効率良くパワーを出すこと」「あるいはコストダウンによるエントリーモデルとしての役割をもたせること」が目的ですが、当時の彼らの目的は純粋に「税法上の数字をクリアすること」。
当時は「ターボ」「ハイブリッド」は一般的ではなく、よって「ダウンサイジングすればするだけ」パワーを失ってしまったわけですね。
ただしその一方、税制に影響しない足回りや車体は「そのまま」であり、(環境規制に対応するためのダウンサイジングではなかったので)音やフィーリングは一級品であったといい、しかし加速感は現代のコンパクトカーに負けることもあるという”非常にユニークな”乗り味を持っている、と評されます。
結論:逆境から生まれた「走る歴史遺産」
「2.0LのV8」という、スペックだけを見れば矛盾しているようなエンジン。
それは、ブランドの誇りを守りつつ、厳しい時代を生き抜こうとしたイタリア人の執念の象徴でもあります。
もし街中で「P200」や「208 GTB」のエンブレムを見かけたら、それは単なるエントリーモデルではなく、歴史的なオイルショックと戦い、現代まで生き残った「最もレアで、最も賢いランボルギーニやフェラーリ」の一つということを忘れてはなりません。
Image:Ferrari
「スーパーカーの価値は馬力だけではない」。
2リッターV8という存在は、そんなことを教えてくれる、自動車史に残る興味深い一ページと言えそうですね。
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参照:Jalopnik, Ferrari



















