| フェラーリはずいぶん前から一貫した考え方を持ち、一切ブレずに未来に向かっていたようだ |
こういったフェラーリの考え方は、過去の行動や発言を掘り返してみるとよくわかる
現フェラーリCEOは自動車業界出身ではなく、エレクトロニクス業界出身のベネデット・ビーニャ氏が努めていますが、最新の人事異動においては、さらにその傾向を強めており、ガソリン時代の立役者が第一線から外され、かわりに要職に就いたのがベネデット・ビーニャ氏同様のエレクトロニクス業界出身者たち。
そして今回、ベネデット・ビーニャ氏は「我々フェラーリは、ビークルダイナミクスに対して深い理解があり、バッテリーによって重量が増加したとしてもエキサイティングなEVを作ることができる」とコメント。
そしてとくに「ビークルダイナミクスに対する深い理解」という部分を強調しています。
たしかにフェラーリはクルマと人との関係をよくわかっている
そしてベネデット・ビーニャ氏が語るには「こう想像してみてください。今日では、多くの自動車メーカーが、同じメーカーの、同じ型番のマイクロチップにアクセスしていると。しかし我々フェラーリのエンジニアは、他の自動車メーカーと同じチップを使用していたとしても、ユニークな、そしてエキサイティングなクルマを作っているのです」。
実際に言われてみるとそのとおりで、ほとんどの自動車は電子制御化されており、そして車の中枢にあるのはクアルコムなどの半導体メーカーが作ったマイクロチップです。
更に言うならば、(どの自動車メーカーにとっても)サスペンション、トランスミッション、ブレーキなど多くの構成部品はサプライヤーから仕入れたもので、他の自動車メーカーも同じサプライヤーから同じ部品を仕入れているかもしれません。
ただ、今回の発言につき、フェラーリの場合は、(理論上の遊びとして)その構成パーツが仮に他のスーパーカーメーカーと全く同じだとしても、「フェラーリにしか作れないクルマ」を作ることができる、ということを意味しているのだと思います。
フェラーリが新CEOをハイテク業界から引っ張ってきたことについては「なんでだろうな」と考えていたものの、今回のインタビューの内容を見てみると至極納得させられるものがあって、いま、もっともいいクルマを作ろうとするならば、もっとも力を入れるべきは”ハードウエアを操る”ソフトウエアなのかもしれませんね。
ボクは実際にフェラーリを運転してみてこう思った
ちなみにですが、フェラーリの試乗においては驚かされることが多く、たとえばポルトフィーノMだとそのエキゾーストサウンド。
音がいい、大きい、といった話ではなく、たとえば加速しようとアクセルを踏んだ時点でエキゾーストサウンドが大きく盛り上がるわけですね。
なんだ当然じゃないと思うかもしれませんが、他のスーパーカー、スポーツカーの殆どは、アクセルを踏み、エンジン回転数が上がるにつれてエキゾーストサウンドも大きくなります(絶対的な排気音が大きくなることに加え、回転数に連動してバルブが開くことが多い)。
ですがポルトフィーノMの場合は、エンジン回転数が上る前に(ぼくの勘違いでなければ)エキゾーストサウンドが高鳴ることとなり、おそらくですがアクセルを踏んだ瞬間に、エンジン回転数と関係なく電気的にバルブを開いているんじゃないかと推測しているわけですね(何度か試してみたが、たぶんそうなっている)。
これによって、(人間の感覚とは外部の状況に左右されやすいので)アクセルを踏んだ瞬間にエキゾーストサウンドが高まる=レスポンスがいい、という認識を脳が行うことになり、つまり「気持ちいい」と感じることに(ぼくは、フェラーリのターボエンジンについて、フェラーリが言うようにターボラグがゼロではないと認識しているが、こういった仕掛けによってターボラグを感じにくくなっているとは思う)。
そのほか、F8スパイダーだと、エンジンのみならず、ステアリングホイール、ブレーキ、トランスミッションなどすべての反応が電光石火であり、まるで「こちらがそう操作するのをあらかじめ理解し、待っていたかのような」動きを見せ、実際に運転していると「いい馬というのはこういった馬なんだろうなあ(馬に乗ったことはないけれど)」と考えたり。※逆にランボルギーニは文字通りの猛牛といった感じで、その獰猛さに振り回されるロデオのような感覚がたまらず、どちらのフィーリングも大好きだ(ロデオもやったことはないけれど)
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さらに296GTBでは、その車体重量がF8トリブートに比較して140kgも重くなっているのに、逆に運転した感じは「このクルマ軽いなオイ・・・」というもので、これはもちろんエレクトリックモーターのアシストによる加速「感」の演出、ブレーキ制御システム、ステアリング・ホイールの操作感や反応といったところによって総合的にもたらされるものだと考えています。
ちなみにフェラーリ296GTBのコンセプトは「ファン・トゥ・ドライブ」というシンプルなものですが、フェラーリはこれを実現するために5つの指標を用いていて、それぞれにおいて細分化し、数値にて表すという手法を採用しています(これがもっとも重要な、フェラーリならではのノウハウとなりそうだ。詳細については公開されていない)。
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参考までに、その5つとは、フェラーリによると下記の通り。
フェラーリの考えるドライビングファン
- 横方向:ステアリングホイールからのインプットに対する前輪の反応、ステアリングホイールのインプットに対するリアアクスルの反応(電制デフを指しているのだと思う)、苦も無く操ることができるステアリング・ホイール
- 縦方向:アクセルペダルに対する迅速でスムーズな反応
- ギアチェンジ:変速時間、それぞれのギアチェンジによって生じる明確な変化の感覚
- ブレーキング:ブレーキペダルのストロークや反応といったフィーリング(効率性や操作量)
- サウンド:キャビン内の音質や音量、エンジン回転数の上昇に伴う音の変化
電動化はフェラーリにとって挑戦である
そしてベネデット・ビーニャCEOは「電動化はフェラーリにとっての挑戦である」とも語っており、それは「V12エンジンはもちろん、ガソリンエンジンを搭載しないクルマにおいて、いかにエキサイティングだとドライバーに感じさせるかを追求する機会を与えてくれる」ため。
かつてフェラーリは「エレクトリック化大歓迎」というコメントを発していますが、ファン・トゥ・ドライブを実現する方法を知っているからこそ、電動化時代でも十分に差別化を行ったクルマを作ることができる、という自信があるからなのでしょうね。※この発言はフェラーリ会長、ジョン・エルカーン氏によるものだが、だからこそベネデット・ビーニャ氏をその後引っ張ってくることになったのだと思われる
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ただ、電動化にとっての最大の懸念は「重量」でもあり、これについては懸念を示しつつも、株主に対する報告会ではその対策も提示されており、大きく心配することはないのかもしれません。
ちなみにですが、フェラーリは2025年に初のピュアエレクトリックハイパーカーを発表し、2026年までにはラインナップの55%をハイブリッド車、5%を完全電気自動車、40%をガソリンエンジン車へ、そして2030年にはガソリン車がラインアップの20%に減少し、ピュアエレクトリックカーとプラグインハイブリッド車の比率は40%に達するという見込みを公表しています。
なお、フェラーリが「マイルドハイブリッド」「プラグインじゃないハイブリッド」を手掛けるのかどうかはわからないものの、2030年の「ガソリン車20%、EVとPHEVで40%」となれば、残りは何なんだということになり、これらが「マイルドハイブリッド」「プラグインじゃないハイブリッド」なのかもしれません。
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参考までに、フェラーリは「ユーロ7による新しい排ガス規制が導入されると、フェラーリらしさが損なわれる可能性がある」ともコメントしていて、しかしユーロ7は遅かれ早かれ導入されることになるのは間違いなく(避けられない)、これによって魅力が損なわれることへの解決策として、電動化による新しいフェラーリらしさ、そして魅力を創出することを推進しており、ガソリンエンジンがなくともファン・トゥ・ドライブを実現する方法を全力で模索しているということになりそうです。
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